バラをもっと深く知る⑮ 花の色が変化する“不思議”
バラの花色は変わります。
一つは季節による色変化。春と比べて秋の花は色が深く咲きます。
もう一つが、開花段階による花色の変化。咲き始めのフレッシュな色から、咲き進むにつれてしっとり淡くなっていきます。
例えば淡いピンクや淡いアプリコットはオフホワイトに。赤紫色系の花は咲き進むにつれグレートーンが強くなっていきます。
その中で最近目立ってきているのが、一つの花の花色が開花につれて刻々と変わり、咲き始めの花と満開の花・咲き進んだ花が房咲きになって色彩が入り混じって、株全体の雰囲気も一変します。
淡い色はしっとりと、濃いめの色は劇的に。自然が織りなす“不思議”です。
最近発表の主な品種で、これをみてみましょう。
白い蕾の中央から現れるライラックピンク
蕾は緑を含むオフホワイト。半開のとき中央からライラックピンクが現れ、平たいロゼットになったとき、さらに青みをおびた色が中央に広がる。そしてその色はだんだん灰色のトーンに。それらの色が房の中に咲き混じって、一つの不思議な世界が現われる。甘い香り…。‘ブルー ムーン ストーン’(河本バラ園)は、さわやかで上品な色変化が目を惹きます。
白からサーモンピンクに「色のり」
赤っぽい蕾から開いて白クリーム色の半八重咲きになり、次第にサーモンピンク色がのり(色のり)、中央のしべの黄色がなくなっていくころ、はらはらと散る。‘グレーテル’(コルデス)の様子は、まさにグリム童話の元気な可愛い女の子を思わせます。
ソフトサーモンピンクから薄緑まで
開きはじめはやわらかなサーモンピンク色。次第にクリーム色に。花保ちがとても良く、乾燥した気候下ではさらに淡いグリーンまで変わっていく(気候によってはそうならないときもあります)のが、‘ダフネ’(ロサ オリエンティス)。肌色が緑色に~ギリシャ神話でアポロンから追いかけられたニンフが、月桂樹に身を変えていくさまに見立てての花色です。
アプリコットに混じるさまざまな色
ピンク色とアプリコット色の間で揺れ動きやすいのが、ソフトアプリコット色の花。純色に感じるものが多い中、‘トロイメライ’(ロサ オリエンティス プログレッシオ)は花弁にピンクの濃淡、アプリコット、黄色が混じり、全体としてソフトアプリコットに見えます。最初に黄色みが強く咲いたとき、次第にピンク味をおび、ライラックピンクまで変わっていきます。濃厚な香りで耐病性が高い品種です。その色変化は、流れる調べの調子がおだやかに変わっていくようです。
赤紫→紫→灰紫
半八重咲きの紫色系のバラの中には、最初は赤みが強く咲き、次第に青みを増して最後にグレーブルーになっていく品種がいくつかあります。最近発表の品種では‘サングリア ナイト’(スプロール/メイアン紹介)があります。ワインにフルーツを加えたお酒の花名で、その色変化の様子は、次第に花が“酔い進んでいく”ようです。
株全体で表すあたたかさ
咲き始めは紅色の中央から黄色が現れ、次第に花の中央にオレンジ色が現れ波打って重なります。咲き進むにつれ花全体から黄色みが抜けて、ピンク~ローズレッド色の花に。花保ち良く、これらが株の上に咲き混じりとても華やか。何か元気が出るのが‘シャルール’(ロサ オリエンティス プログレッシオ)です。花名は「熱やあたたかさ、ぬくもり」の意味。ティーの香りの丈夫な木立性品種で、2021年春発表早々人気を集めています。
変化を四季の中で“色の変化”を体感
過去に色が変わる品種はいくつかありました。例えばオレンジ色系だとFL‘チャールストン’やMin‘ベビー マスケラード’などで、色の変化が楽しい品種です。しかしかつての育種の基本目標は赤や黄色などはっきりとした「変わらない花色」。これらは「複色」とされ、アンユージュアルカラー(珍奇な色)でした。そして時代が変わり、淡いピンクやソフトアプリコットなど淡い花色が多くの人に愛されたのは周知の通りです。
そしていま、これら色が変わる品種が、とても目新しく感じられます。それこそ、いまの“時代の気分”なのでしょう。
とくに日本のバラに、色が変わるバラが多く登場しています。バラは作り手(育種家)と受け手(愛好者)の関係で成り立ちます。色が変わる品種が日本で注目される背景には、四季の変化に富む風土で生きてきた日本人独特の感性があるのでしょう。日本では同じ景色の“色”が四季を通じて変わります。冬枯れの茶色の景色が春には桜色に覆われます。夏には緑の色濃く。秋には赤色や黄色に染まり、冬には白い雪で覆われます。私たちは、そんな変化のある風土の中で生きてきたからこそ、色の変化を感覚で捉え、楽しむ眼を持っているのだといえるでしょう。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。