クレマチスの季節がやってきた おすすめ品種と栽培のコツ
今年はクレマチスも他の花と同様、開花が早かったですね。4月半ばから大輪系が咲き出していました。そして5月、本格的なクレマチスの季節です。ところでみなさん、クレマチスの中ではどんな花が好きですか。花色や花形、そして開花習性に多様性が見られるクレマチスは、多くの人がそれぞれの好みで楽しめる人気草花です。今回、クレマチスの魅力と楽しみたい品種を、静岡県長泉町で駿河のクレマチスの名で、輸入や生産、育種を長年行っているクレマコーポレーションの渡邊貴裕さんに教えてもらいました。
まずは、どんなところにクレマチスの魅力があるのかを聞きました。「宿根草で毎年咲くこと、庭や鉢植えで主役になりすぎず、かといって主役にもなれる大輪系などもあったり、脇役で活躍できる系統もあったりで、誰もが自分なりに楽しめる多様性があることでしょうか」と、言います。最初は目につく大輪系から入る人が多いそうですが、だんだん栽培の経験を積むと、さまざまな系統のさまざまな種類に目が向くようになるようです。
それに、つる性植物としてのメリットもあります。「クレマチスにはつる性植物特有の曲線の美しさ、しなやかさがあってそれも魅力です」と渡邉さん、わたしも自然が醸し出すナチュラルなしなやかさをクレマチスには感じています。そして、まさにそれが魅力の一つだと思っています。そこで、誘引のポイントを聞きました。「誘引は、節の両側から新芽を出すようにすると花は少し小さいですが、数が多くなります。また、誘引は乾かし気味で行います、そして誘引後に水やりをすれば折れにくく、水が通りやすくなります」。
ところで渡邉さんは、クレマコーポレーションの二代目ですが、大学を卒業してから社会人を経て家業を継ぎました。そんな園芸界とは違う世界からのクレマチス農家への転身ですので、家業を継いだといっても、外の経験が生かされているように思います。ご本人いわく「5年間の会社勤めで、忍耐や我慢などを学びました」と笑っていました。また、師匠に当たる父親が、30年以上のクレマチスづくりのよい経験も、苦い経験もすべて伝えてくれるので、経験10年の自分には本当に助かるといいます。それでも、「経営感覚を忘れないようにと取り組んでいますが、植物相手、自然相手のこと、予測できないことも多く苦労も絶えませんね」と言います。
クレマチス人気は長年続いていますが、未だに栽培など敷居が高い植物と思われていることが多く、栽培を手控える人がいるといいます。よりきれいに咲かせるとなるとある程度のテクニックは必要ですが、普通に咲かせるのであれば、肥料を施して水切れさせないように管理すれば、特に手間のかからない、育てやすい植物だといいます。それともう一つ、花後の剪定の話が、どうやらクレマチスを難しい植物にしている面もあるのではないか、ともいいます。「講習会やセミナーなど、みなさんに話すときは、先生方が書かれているような、きちんとした剪定方法に沿って話をしますが、園芸相談などで個別に話をするときは、理想の剪定、ベストの剪定は話をしたとおりだけど、花後一ヶ月以内であれば、半分くらいで切り戻したり、伸びた部分を切り戻したりと、おおざっぱな方法でも大丈夫ですよ。ただし、節と節の間でカットしてください。節に近すぎるとその後の生育が悪くなります」と、クレマチスは難しい植物ではないという感覚を持ってもらうように話をしているそうです。
また、初心者が最初に新苗など、栽培対応の難しい苗から入ると失敗することがあるそうです。価格は高めですが、まずは2年、3年生の苗から入って、確実に花を咲かせて楽しむと、その後のクレマチス栽培に楽に取り組めるといいます。品種にしても四季咲き性の品種を選ぶなどするとよいとのこと。話を聞いているとクレマチス栽培は敷居が高いものではないことがわかります。
人気の続くクレマチス、市販されている品種も数多く、どれを選んでよいのかも初心者には難しい問題になっているかもしれません。そこで、渡邉さんにおすすめ品種を挙げてもらいました。「まずは根の細い種類、モンタナ系やシルホサ系、アトラゲネ系などは避けた方がよいでしょう。一般的な系統は、根が太くて丈夫なので初めての栽培でも失敗は少なくなります」。そう多くの方が見た目で大輪系などを選んでいますが、丈夫なタイプでもありそれで正解なのですね。では、具体的な品種名を挙げてもらいましょう。
「よく花が咲くのが、エトワール・バイオレットやプリンス・チャールズ、育てやすいのはビル・ド・リオンやピールです。ニオベやワルシャワ・ニキもいいですね。人と違う花を楽しみたいと思う方にはおススメしにくいのですが、人気のドクター・ラッペルやH・F・ヤングなどももちろん育てやすい品種です。さらに、系統ではビチセラ系は枝の節々に花が咲くので花つきがいいですね」
ニオベ
多くの方が楽しんでいる品種は、やはり育てやすいというメリットがあるのですね。それと驚いたのが、約15年間日本で一番売れているクレマチスの品種です。何だと思いますか。それは、テクセンシス系のプリンセス・ダイアナだそうです。わたしも好きな品種ですが、一番の売れ筋とは知りませんでした。ただ、テクセンシス系のクレマチスが人気なのではなく、この品種だけが人気だそうです。母の日のギフト用鉢花にも用いられていて、花形や花の咲き方などが好まれる点かもしれない、といいます。ただ、購買層がクレマチス好きだけではなく、クレマチスの中の一つとしてではなく、プリンセス・ダイアナという名前で、クレマチスファン以外にも好まれているのではないか、と渡邉さんは分析をしていました。
渡邉さんはイギリスとオランダからの輸入苗も数多く扱っています。その中にも、おススメの品種があるそうです。イギリス系では真っ赤な3品種が人気だそうです。また、オランダ系では、まるでクレマチスのイメージが変わるような、プリンセス・ケイトが一押しだそうです。わたしも以前、国際バラとガーデニングショーの渡邉さんのお店ではじめて見て、すごくいい花ですね、人気出ますよと言葉を交わしたのを思い出しました。
それ以外にも、数多くのクレマチスがあります。渡邉さんは「わたしのところは駿河のクレマチスのブランドで展開していますが、他のクレマチスでもよいので、初心者の方には、栽培の難しくない好みの花が咲く品種で、2年、3年苗を購入して、たくさんの花を咲かせて、息の長いクレマチスファンになってもらえるとうれしいですね」といいます。クレマチス栽培、はじめてみませんか!
取材・写真協力 クレマコーポレーション 渡邉貴裕
取材・撮影 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。