5日間に及んで開催されたチェルシーフラワーショー、大盛況のもと、土曜日に最終日を迎えました。今年は施工期間中も比較的天候に恵まれました。程よいくらいの雨は施工期間中には必要で、珍しくちょうどよいくらいの雨が降ったお陰で、ショーの期間中の花の状態もすばらしくよかったと思います。私はほとんど半袖でショー 期間中を過ごしました。今年は本当に気持ちのよい天候が続きました。
2018年のベストインショー
庭部門は3つから構成さています。ショー・ガーデンズ、アーティザン・ガーデンズ、スロー・スペース・トゥ・グロウ・ガーデンズです。賞は審査による得点によって与えられ、上位から ゴールド、シルバーギルト、シルバー、ブロンズになります。そして各部門、その中の一つにベストインショーが与えられます。さらに今回、施工部門でもベストインショーが1つ与えられることになりました。
私の知る限り、ショー・ガーデンズとアーティザン・ガーデンズはそのテーマが変わったことはなかったと思います。スロー・スペース・トゥ・グロウ・ガーデンズに関しては、数年に一度変わっています。この部門の立ち位置は社会や環境など時代の変化を上手に取り入れたテーマとして時折見直しをしているようです。今回、スロー・スペース・トゥ・グロウ・ガーデンは、もっと生活に取り入れやすいアイディアを紹介するというテーマでつくられました。
受賞ガーデンを紹介致します。
ショーガーデンズ
出展数10でゴールド受賞4、シルバーギルト受賞4、ブロンズ受賞2つ。ベストインショーは NSPCC、ザ・モーガンスタンレー・ガーデン。デザイナーはクリス・ベアードショウ氏でした。
この庭は児童虐待や子供をめぐる問題を支援するNSPCCという機関がスポンサーです。NSPCCの活動によって保護された子どもの心が解放されていく様子を描いていました。
アーティザンガーデンズ
出展数7でゴールド受賞2、シルバーギルド受賞3、シルバー受賞2でした。
ベストインショーは おもてなしの庭、ザ・ホスピタリティ・ガーデンで、デザイナーは石原和幸氏でした。日本のおもてなしを庭の中で表現することを試みています。またデザイナーの石原氏の源泉ともなる池坊による植栽技術を用いていることもポイントです。もみじに囲まれた池を東屋の中から石を叩く水音は心休まる場所としておもてなしを表しています。
スロウ スペース・トゥ・ガーデンズ
出展数は8、ゴールド受賞4、シルバーギルト受賞4でした。ベストインショーは 流れのあるアーバンの庭でデザイナーはトニー・ウッズ氏でした。水の供給会社のテムズウォーターがスポンサーであるこの庭では、水の貯蓄や環境を配慮したデザインでつくられています。植物ははっきりとした色使いをしている一方で、外の空間をうまく活かして植えられています。また温暖化による影響を受けにくい種類を多く取り入れています。自然は汚染の抑止になります。植栽はその点でも考えられた内容でした。
2018年の植栽の色の傾向は
近年オレンジ色を生かした植栽がよく見られ、オレンジ色の濃淡、花びらの違いなどの変化を加えた庭が多かったように思います。今年は薄いオレンジ色ではなく、明らかに黄色系の花、葉で明るさを出している庭をいくつか見かけました。黄色となると、花だけではなく葉も生かせますから、その広がりは植栽計画においてさらに楽しみがふえることと思います。ライム色の葉もよくみましたが、トレンドの影響でしょう。
チェルシーだけではなく、イギリスにおけるフラワーショーの庭はすべてコンセプトがあり、それを表現しています。どうしても理解できない場合でもコンセプトを知るとその庭の奥深さにより見方が変わります。審査基準の中で、このコンセプトと庭の表現が一体しているかどうかが実は一番ポイントとなる部分です。コンセプトは英国王立園芸協会のウエブサイトで確認できます。フラワーショーに来られる機会がありましたら、ぜひコンセプトなどと合わせて各庭を楽しんでほしいと思います。それによって、絵画を鑑賞するように庭の見方も深まるはずです。今年も充実したチェルシー・フラワーショーでした。
佐藤麻貴子
ガーデンデザイナー、ガーデナー
東京の老舗ホテルを退社後、英国で園芸学・ガーデンデザインを学ぶ。英国 チェルシーフラワーショーや長崎ハウステンボス ガーデニングワールドカップでは数々の金賞を受賞しているガーデンデザイナーのコーディネーターを務める。
2011年 makiko design studio を設立。ハンプトンコートフラワーショー2012 に「日本の復興―希望の庭」を初出展。準金賞を受賞。イギリス独特の植栽と、日本庭園を組み込んだ独自のスタイルが文化を越えて好評を博す。
チェルシーフラワーショー100 周年(2013年)では、RHS(英国王立園芸協会) のショー運営本部にて本部長のアシスタントを務め、また、イギリスにあるグレートディクスターでは、現在もガーデナーとして研鑽を重ねるなど、国内外で活動中。