見てみたい、行ってみたい花の絶景 4
【幌加内のエゾエンゴサク】
この連載のお話しをいただいたときに、真っ先に思い浮かんだのが、春の北海道の何ヶ所かのお花畑です。見事なだけでなく、あまり知られていないというのも、紹介するモチベーションのひとつです。今回から3回連続で、知られざる北海道の春のお花畑をご紹介します。
最初は、北海道北部にある幌加内町のお花畑です。「幌加内(ほろかない)」。この地名を聞いて、どこにあるかすぐに思い浮かべられる人がどれだけいるでしょうか。まずは、蕎麦で有名ですから「幌加内蕎麦」の名を知る人は多いでしょう。また日本最大の人造湖である朱鞠内湖(しゅまりないこ)といえば、ルアーやフライフィッシングの好きな人にとっては、憧れの地かもしれません。
しかし、一般にはめぼしい観光資源もなく、観光ルートからも外れたこの幌加内。7、8月の盛夏ならともかく、5月に観光客に会うことは稀です。豪雪地帯ということもあり、北海道でも、もっとも春の遅いエリアですが、そのほとばしる瞬間に、劇的なお花畑が出現するのです。
特に、道外の人にとっては、エゾエンゴサク(学名:Corydalis fumariifolia subsp.azurea)のブルーの絨毯にまず驚愕します。ほかの花にはない独特の色を、私はコリダリスブルーと呼んでいます。このコリダリスブルーの絨毯が、まだ豊富な残雪をたたえた山並みをバックに咲き誇ります。
季節が合えば、アズマイチゲの群生も見事です。林の中に小群落で咲くことの多いエゾイチゲも、ここでは湿った草原で群生になります。道内でも分布が限られるエゾキンポウゲも黄色の絨毯をつくり、かと思えば、ミズバショウの無名の群生地もあちこちにあります。
あまり知られていない理由の一つは、花期の短さです。これらの花の多くはスプリングエフェメラル(春のはかなきもの)と呼ばれる宿根草です。早春に花を咲かせて夏前にか休眠してしまいます。幌加内は南北に長く、雪の量にも違いがあるので、南から咲き始め、北に咲きすすみますが、それでも見頃は10日から2週間ほどがやっとです。これ以外の時期に通りかかっても、平凡な草原と白樺林があるだけのように見えてしまいます。
北海道には「エゾエンゴサクの群生地」と謳っているところはありません。どこでも普通に群生が見られるからです。道内の人には、エゾエンゴサクを遠くまで見に行くという発想はあまりないでしょう。幌加内のエゾエンゴサクが知られていないもう一つの理由はこのあたりにあるのかもしれません。
しかし、規模と風景の美しさでは、幌加内のエゾエンゴサクは道内有数です。もし、この群生地が関東にあったとしたら、三毳山(みかもやま、栃木県佐野市)のカタクリや巾着田(きんちゃくだ、埼玉県日高市)のヒガンバナのような観光地になることは、疑いようがありません。
◎幌加内中心部へのアクセス
札幌から約150キロ、旭川から約45キロ。JR深川駅、名寄からバス便あり。マイカーでは国道275号線が町内を南北に縦断している。車で、旭川空港から約80分、新千歳空港から約180分。
詳しくは、幌加内町観光協会のサイト参照(http://www.horokanai-kankou.com/)
◎写真展のお知らせ
「いがりまさしマルチメディア写真展 北海道大地の花束」
2019年1月9日~13日 11:00~19:00(日曜日は17:00まで)
表参道ピクトリコギャラリー
〠150-0001 渋谷区神宮前4-14-5Cabina表参道1F
いがりまさし
(植物写真家、ミュージシャン)1960年愛知県豊橋市生まれ。関西学院大学文学部美学科中退。前後して、自転車で「日本一周笛吹行脚」。その後、リコーダーを神谷徹氏に師事。25歳の時、冨成忠夫氏の作品に出会い植物写真を志す。
印刷会社のカメラマンを経て1991年独立。写真家、植物研究家として、幅広いメディアに出稿活動を展開。2009年ごろより音楽活動を再開。
自然と伝承音楽をお手本に、映像と音楽で紡ぐ自然からのメッセージを伝える活動を全国で展開中。主な著書に、『日本のスミレ』『日本の野菊』(以上、山と渓谷社)、『きせつのくさばな100』など多数。音楽CDに「名もなき旋律」など。
いがりまさしさん公式サイトはこちらから