バラをもっと深く知る㉜ 花の印象を際立たせる蕾の色
いまのバラは、ほとんどが房咲き。花は光の具合はもとより背景によって見え方が変わります。
房咲き品種ではとくに蕾の色が、花の印象を大きく左右します。
(写真:京成バラ園芸作出の‘恋こがれ’。赤い蕾が小ぶりのピンクに開花した花のかわいらしさを強調している)。
単花咲きと房咲き
一つの茎に一つの花が咲くのは「単花咲き」、房になって咲くのが「房咲き」。
かつてフロリバンダは房咲き、HTは単花咲きと言われましたが、HTは一つの花を立派に咲かせるため中央の花を残して側蕾を摘んだ結果の観賞法で、最近のバラは株が若いうちは単花咲きでも、株に力がついてくるとほとんど房咲きになると言います。
房全体で感じる花の印象
さてその房咲きの花、多くは中央から咲き順に周囲の花が咲いて行きます。蕾の色は花の印象を決めるのにとても大事。
咲いた花一輪だけを見ているのではなく、自然と周囲の蕾まで目に入り、意識しないまでも全体を見てその花のオーラを“感じて”います。
写真を撮るときでも、房咲きになっていって終わった花がなければ、房全体を撮るはずです。
そこで花の印象を決めるのに大事なのが、蕾の色。同系色だとあまり感じられなくても、蕾と開花した花の色に以外な変化があると、一層印象に残ります。
中輪房咲きの人気品種で顕著な例を見てみましょう。
緑の蕾でさわやかに ボレロ(メイアン)
緑の蕾は「さわやかさ」を醸し出します。蕾の色は緑。
それが開いて白くなり、咲き混じります。咲いた花の色は実際にはうっすらとピンクやアプリコット、グリーンを含みますが、この蕾が花をより白く、純白に見せます。
そのためか、香りが結構甘い感じのローズ・フルーティ・ティー、ときにミルラなのに、全体としてさわやかに感じるのでしょうか。
緑の蕾でフレッシュに ブルー ムーン ストーン(河本バラ園)
緑を含む蕾から白く開き中央から淡紫色に花色が変化。甘い香り、それらが咲き混じるとき、とっても不思議な光景が現れます。
白から淡紫への花色の変化は上品な大人っぽさがありますが、やはり緑の蕾がフレッシュさやかわいらしさを感じさせます。
白い蕾で上品に シェエラザード(バラの家 ロサ オリエンティス)
先が尖った花弁が波打って重なり、花色は青みのあるローズピンクのグラデーション。この品種、白い蕾が房全体を上品に、フレッシュに見せています。
香りはダマスクにフルーティー、ティーにスパイスも感じる濃厚な香り。そして咲き進むと花色は紫のトーンになってぐっと大人っぽく(下の写真)。
花全体として品の良さと艶っぽさが、微妙なバランスで成り立っています。
バランスの中での変化
育種は、「花の美しさと育てやすい樹の性質のバランスが大事」と言われます。
その「花の美」だけをとってみても、これだけ多くの品種が発表される中、最初の印象が際立っていないと、なかなか注目を集めません。
蕾の色で「一芸多い」と記憶に残り、長い人気品種となっていくものでしょう。
著者紹介
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玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。