伝統野菜はおもしろい
おしゃれなレストランや各地の直売所で魅力的な伝統野菜と出会うことがあります。スーパーで見かける一般的な野菜とは姿形、色や味が異なる日本各地の伝統野菜。
今回、伝統野菜をよく知るために、「伝統野菜はおもしろい!」というイベントに行ってきました。主催は、伝統野菜を応援する活動を2016年にスタートさせた、食生活ジャーナリスト、フードコーディネーター、青果業、園芸研究家、料理研究家、和菓子創作家、管理栄養士からなるプロフェッショナルチーム「伝統野菜プロジェクト」で、前身は、2010年から毎月1回1地方をテーマに、6年間かけて全国を回ってきた「野菜の学校ー日本の伝統野菜・地方野菜講座」のプロジェクトチームです。
会場には、旬の伝統野菜、各地のナスが並んで展示されていました。そして、参加者への販売用の夏野菜、各地のカボチャやキュウリ、ナスが用意されていました。この多様性は、おしゃれなイタリア野菜を見ているようなそんな気にもなりました。
会場には、旬の伝統野菜、各地のナスが並んで展示されていました。そして、参加者への販売用の夏野菜、各地のカボチャやキュウリ、ナスが用意されていました。この多様性は、おしゃれなイタリア野菜を見ているようなそんな気にもなりました。
伝統野菜の定義
さっそく、伝統野菜プロジェクトの代表で食生活ジャーナリストの草間壽子さんに、伝統野菜の定義についてお話を伺いました。
「じつは、伝統野菜の定義は各地で異なります。というのも、その土地ならではの事情というものがあるからです。ここでは、伝統野菜として全国的に名が知られている『京野菜』『なにわ野菜』『加賀野菜』『江戸東京野菜』この四つの伝統野菜の定義をご説明します。
まず『京野菜』ですが、京野菜は明治以前から栽培されている野菜を伝統野菜として認定しています。平安朝前期の記録に残る九条ネギ、嵯峨天皇時代(810〜823年)に中国から持ち帰り広まったとされる京タケノコ、平安朝中期の和名抄に記載が残る水菜、約400年の栽培の歴史をもつ堀川ゴボウなど40近い品目があり、さすが千年の都ならではの歴史に裏打ちされた野菜たちです。
次に『なにわ野菜』です。定義は、現在からおおむね100年前以前としているので、1年ごとに基準となる年が移る特徴があります(翌年になるとそこから100年前以前になる)。特に有名な泉州水ナスの起源は澤ナスで室町時代より、天王寺カブラとコツマ南京は江戸時代からという歴史ある伝統野菜です。
三つ目の『加賀野菜』ですが、定義は、第二次世界大戦前、昭和20年以前から栽培されている野菜です。昭和20年以前という区切りから戦前と戦後では食生活だけでなく、野菜の栽培においても大きな違いがあることが伺えます。認定されているのは15品目で、多くは昭和前半に栽培が確立したもの。たとえば、昭和7年から栽培されている源助ダイコンは愛知県から、昭和8年からの打木赤皮甘栗カボチャは福島県から、昭和11年からの加賀太キュウリは東北地方由来の野菜です。
最後に『江戸東京野菜』の定義ですが、江戸期から昭和中期(昭和40年頃まで)。そして、江戸期から続く東京の野菜文化を受け継ぐ中で、種苗の大半が自給または近隣の種苗商により確保されていた在来種、または在来の栽培法などに由来されるもの、としています。昭和40年以前は農家が自家採種していた種を栽培していましたが、昭和40年以降は、多くの農家が栽培しやすい種苗(F1品種)を種苗会社から購入して育てる農業に変化したことが期間の定義の由来になっているのでしょう」
このように「いつから」という伝統野菜の定義は各地によりさまざまですが、共通するのは「その土地で長い間いのちをつないできた、その地域のいきた文化財」ということです。
伝統野菜は旬の野菜
伝統野菜を食べると何だか本当の野菜を食べているような気持ちになるのですが、引き続き草間さんに、伝統野菜ならではの「野菜の旬」についてお話をお伺いしました。
「スーパーで並ぶ新鮮な野菜もみずみずしくて美味しいのですが、物足りなく感じる時があります。それが「旬」です。どんなに見た目が同じでも、旬の野菜の美味しさ、含まれる栄養価がかなり違うのです。伝統野菜はそもそも旬の時にしか出回りませんから、味が濃厚なのは当たり前。しかもその地域にしか出回らないため、輸送時間を慎重に考えなくても適期に収穫されたものが店頭に並びます。そのため、伝統野菜はそこにしかない新鮮な美味しさが実現できるんです」
なるほど、今よく言われる地産地消の先鞭が伝統野菜なのですね。おいしさも併せ持つ伝統野菜、次に試食をしてみました。
伝統野菜を食べてみた
今回食べた旬のナスは、滋賀県の「下田ナス」、長野県の「小布施丸ナス」、宮埼県の「佐土原ナス」そして一般的にスーパーで販売されている「千両2号」です。生のナスの切り身に約2%の塩を含ませて揉んだものを食べ比べてみました。
「下田ナス」は、歯ごたえを感じるほどの食感としっかり口内に残る甘い味わいを感じました。「小布施丸ナス」は長野県の名物おやきの具材に使われるナスですが、味がとても濃く、「佐土原なす」はとろみを感じるほどのまろやかな味わいでした。スーパーでよく見かけるナスも、旬に食べれば十分美味しいのですが、各地の伝統野菜ナスの特徴ある味には、驚くばかりでした。
伝統野菜は個性的
ナス以外の伝統野菜も個性豊かです。例えば、全国で受け継がれる伝統野菜のダイコンにはさまざまなものがあります。世界一の重さを誇る「桜島ダイコン」や世界一長い「守口ダイコン」など、大きさ、色、形も多様です。画像や実際に展示してある実物の伝統野菜と草間さんのお話でさらに知識を深めました。
参加者の声
今回は東京でのイベント開催でしたが、江戸東京野菜だけでなく全国の伝統野菜を知ることができ、さらに自身の地元の伝統野菜までも味わうことができたので本当に参加してよかった、そんな声が出ていました。
また、実際に伝統野菜の栽培に取り組んでいる方からは、地元の伝統野菜をどうやったら全国の方に伝えられるのかという切実な思いが語られていました。そして、最年少の参加者で野菜ソムリエの資格を持つ小学5年生の男の子は、伝統野菜の食べ方がいまひとつわからなかったのが、イベントに参加したことで調理の仕方の参考になりましたと、しっかりした意見を述べていたのが印象的でした。
伝統野菜はスローフード
スローフードというイタリア発祥の社会運動がありますが、これは伝統的な食材をつくる環境や食文化を守ろうとする活動です。日本におけるスローフードとは伝統野菜を守り受け継ぐ文化のことなのかもしれません。
伝統野菜は各地で脈々と受け継がれる野菜で、しかもずっとつくり続けなければ伝承することのできない、博物館に簡単に展示できない文化遺産だということを、草間さんのお話を通して大いに実感した気がします。
オリンピックで例えると伝統野菜は、聖火リレーに使われる消えることのない聖火でしょうか。2020年に東京でオリンピックを迎える際、日本ではさまざまな「おもてなし」が用意されるはずです。たとえば、『江戸東京野菜』は東京の「おもてなし食材」の一つとして、注目されています。でも、そんな時忘れてはいけないのが「脈々と続く伝統野菜を一過性のものにしてはいけない」という伝統野菜プロジェクトチームの方々の言葉です。
自分でつくる伝統野菜
最後に魅力あふれる伝統野菜、家庭菜園でも栽培が可能なのでしょうか。育て方、つくり方にコツはあるのでしょうけど、そこは上手につくる人なら、これまでつくってきた野菜とそう大きな違いはないはずです。一つにはタネの入手です。在来種のタネを扱う種苗店などで入手可能ですし、伝統野菜プロジェクトの方へ問い合わせていただいてもよいでしょう。家庭菜園なら、場所はどこでも、ふるさとの伝統野菜を育てるのもよし、自分が住む地域の伝統野菜を育てるのもよし、家庭園芸ならではの楽しみ方ができると思います。
伝統野菜、みなさんさらに関心を高めていただけたでしょうか。まずは、自分の住む地域の伝統野菜を知って、食べて、つくるところからはじめてみませんか。
(撮影 Deru/取材・文 Toyorunpe Res)