バラをもっと深く知る㉕ あれから10年・15年、そしてその後
(TOP写真:発表以来10年。継続して人気を保つロサ オリエンティスの‘シェエラザード’。バラの家実店舗で)
日本のバラ 長い人気品種と最近の発表品種
毎年次々と日本で発表されるバラ。
最近は年間約50品種が新たにデビューしています。
花色やかたちはさまざまで新たな「美」が生まれる一方、樹の性質が年々向上し、育てるのに手間がかからなくなっています。
その内訳では日本のバラが増え、中には10年以上継続して人気を保つ品種も。その理由はどこにあるのでしょう。
花に圧倒的な魅力
かつては海外のバラ中心だったものが、最近の新品種には日本生まれのバラが増えてきました。
繊細な咲き方で微妙に移り変わる花色はじめ、咲く姿のやわらかさなど、日本人の嗜好に合っているのもその大きな理由でしょう。
中には、発売当初はともかくいまはトップ人気とまでは言えないものの、長い間人気を保っている品種があります。
‘ミスティ パープル’20周年・‘ガブリエル’15周年 「花」に圧倒的な魅力~河本純子さん作出のバラ
藤色のバラは日本人の好み。さまざまな育種家の発表品種がありますが、この色の花が好きで秀作が多いのが河本純子さん。花に圧倒的な魅力があります。
その中では、ガーデニングブームの真っただ中の2003年に発表された‘ミスティ パープル’がいまも売れ続いていて、今年20周年です。
HTやFL、オールドローズやイングリッシュローズが全盛のころ、やわらかな花がふわっと咲くことが新しく、受け入れられてきているといえるでしょう。
ある小売店によると「最近は若い愛好家に人気」とのことです。
同じ河本純子さん作では、天使のバラ「ヘブンシリーズ」の‘ガブリエル’がいまも売れ続いています。
2008年発表で今年15周年。
中心に紫が指す花色と繊細な咲き方と香り、大天使の名前。その神秘的な雰囲気の花が咲く姿は、とてもこの世のものとは思われず、見る人を天上の世界へといざないます。
性質が大人しいのも、かえってこの品種の個性を際立たせていると言ったら言い過ぎでしょうか。
河本純子さんはその後‘ブルー ムーン ストーン’(2017年)‘リナルド’(2020年)などを発表し、いずれも微妙な色変化が特徴で、人気を集めています。
繊細さを受け継ぎ、樹の性質が向上 河本麻記子さん育種のローズ ドゥ メルスリー
河本純子さんの育種は、義妹にあたる麻記子さんに引き継がれています。
淡いくすみカラーで繊細巧緻な花形。繊細さはそのままに樹の性質は向上しています。
手芸やさんのバラ「ローズ ドゥ メルスリー」のブランド名で‘クロッシェ’‘モチーフ’がデビューしたのは2016年の秋。
その後作出品種の‘アジュール’(2020年秋発表)、‘サボン’(2021年秋発表)が、2022年に国際コンクールで受賞するようになりました。
「手芸が好き」という“暮らしの感覚”から育種・選抜され発表された品種は、純子さんの育種品種とはまた違った「美」を生み出し、いま注目を集めています。
個性的な「花」だけでなく耐病性はじめ樹の性質向上へ 木村卓功さんのロサ オリエンティス10周年
いまもっとも人気を集めるバラの一つ、ロサ オリエンティス。
このブランドネームで‘シェエラザード’が発表されたのが、2013年の春。今年2023年はロサ オリエンティス10周年に当たります。
ロサ オリエンティスは、当初「東洋のバラ」の名のもと、西洋と違い暑い日本の夏でもよい花を咲かせることシュラブローズを目指したもの。
当初は「花の魅力」を第一に、近年は「高い耐病性」を前提として育種・選抜され、次々と新品種が発表され、いずれも人気を集めています。
‘シェエラザード’は、宝珠弁(先が尖る花弁)が波打って重なる中輪。
ピンクのグラデーションの個性的な花が、よく茂る木立性の株に咲きます。
ダマスク・フルーティ・ティーにグリーンやスパイシーのバランスのとれた芳香もあって、妖艶ながら上品な雰囲気。
花名の『千夜一夜物語』を語るお姫さまにぴったりのエキゾチックな感覚もあります。
ヨーロッパでも販売され国際コンクールで入賞、アジア圏でも人気で、「いまの日本を代表するバラ」といえるでしょう。
2013年秋には‘オデュッセイア’‘が発表され、この品種も10周年です。
花は黒赤紫色の波状弁咲き小中輪。房咲きになって、秋まで咲きます。
ダマスクとフルーティの強香。直立する枝は樹勢がつくと長く伸び、つるバラとしても利用できます。
ギリシャ神話の冒険家の名にふさわしく、当時あまりなかった黒赤紫色でもあるこの品種の個性は、愛好者に長くアピールしています。
耐病性の向上に取り組み「プログレッシオ」登場
その後木村さんのロサ オリエンティスは海外でも認められ、‘ニューサ’(2014年発表)、‘リュシオール’(2020年プログレッシオとして発表)などが国際コンクールで受賞。
国内の国際コンクールでは入賞の常連になっています。
その間木村さんが取り組んできたのが、海外育種の近年の潮流である「耐病性の向上」。
その表れとなったのが、2019年の「ロサ オリエンティス」の進化形でとくに耐病性が高い品種を選んだ「プログレッシオ」です。
品種としては2019年発表の‘シャリマー’と‘マイローズ’2品種を最初に、その後の発表品種には「プログレッシオ」が増え続け、最近の発表作はみな「プログレッシオ」となっています。
‘シャリマー’はふんわりとした宝珠弁・中輪のやさしい花が自然に育てたふわっとした株に咲く樹姿が美しく、‘マイローズ’は冴えた赤色の中輪で花保ちがとても良く、「いつも花が咲いている」状態を楽しめます。
樹はコンパクトな姿を保ちます。いずれも育てるのにあまり手間がかかりません。
ロサ オリエンティスの最近の発表品種はいずれもすぐ売り切れていますが、中でもとても人気が高いのが‘リラ’(2020年発表)と‘シャルール’(2021年発表)のプログレッシオ2品種。
‘リラ’は、高い耐病性を前提に、藤色のカップ咲き+芳香+コンパクトな株でやわらかさがある、など日本人の好む条件が揃っています。
「藤色のバラは弱い」ということに「希望」を持たせることが、『眠れる森の美女』で「死」(絶望)を「眠り」(希望)に変えた妖精の花名に表わされました。
一方‘シャルール’は黄色~オレンジ、ピンク、ローズ赤で咲き進むとローズピンクのトーンになる宝珠弁八重咲き中輪。
株いっぱいに華やかに咲き続けます。樹はコンパクトな木立性で耐病性が高さはほかの品種同様。
この花色、かつて流行り一時期成りを潜めていましたが、いまとても新鮮に目に移っています。
現実にオレンジ系や黄色系の品種も注目を集めています。
花の新しさと育てやすさ
これら人気品種を見てみると、まず「花」に「新しさ」が感じられることが大事であることがよく分かります。
そして「やわらかさ」を好む日本人の嗜好があることも。花色ではとくに藤色系の品種が愛好者の琴線に触れます。
よく繰り返し咲き、初冬まで咲き続けることも大事です。
そして栽培するにあたっては「育てやすさ」がいまとても重んじられています。
実際にバラがとても丈夫になってきていて株はコンパクトになって、栽培のハードルが下がってきていることは、言うまでもないでしょう。
2023年も各社から新品種が発表されます。花も樹姿もどんな「新しさ」を持っていて、より育てやすくなった品種が登場してくるのでしょう。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。