バラをもっと深く知る㉙ 暑い気候の中で咲き続ける中輪~大輪
「秋の花が咲かない…」「枯れてしまった」。
今年の猛暑は平地では10月まで続き、11月初旬までずっと続いてきました。
どんなスゴ腕のプロのガーデナーも手を焼いて、秋の開花が揃わなかった今年。
その暑さの中でも、良い花を咲かせ続けているバラが2023年春発表品種で登場してきました。
変わってきた開花時期
とても長かった今年2023年の夏。いつまで続くかと思う日差しと高温は、ヒトだけでなく植物にも苛酷な環境。中には暑さで庭に出ないうちに枯れてしまった株も。
最近はバラの開花時期がかつてとは変わっています。かつて「春は5月20日前後、秋は10月20日前後」とされていたものが、春はGW明けにもう満開。秋は10月下旬に咲いた花はまだ夏花で小さめ。
かつて書いていた「秋花は春より色濃く、カップが深く抱えて咲く」とは言えなくなってきてしまいました。
その中で10月下旬にも強い日射しの中、葉を落とした株や花が咲いていない株の中で、葉が茂り、良い花が咲いている品種がいくつかあります。
株全体が発するからオーラ~ディコン
その一つが‘ディコン’。2023年春発表のロサ オリエンティス プログレッシオです。黄色のルーズなカップ~ロゼット咲きの花が高さ1.2mの半横張りの木立の株に咲きます。ティーの香り。
育種家から生成色の‘エクリュ’とともに、全国どの地域でも育ち良い花を咲かせるバラ」と聞いていました。黄色のバラで“完成度が高い”“画期的”とまでの表現も。
さてその花は――春の満開時には房咲きになって株全体に花が咲いてます。株の、前に立ったとき、そのオーラに圧倒されます。晴れた日の花も、小雨の日の花も。
黄色という色もあるのでしょうが、そこには一つの「花」云々という感覚はまったくありません。花と樹、株全体に表現されたパワーある美しさです。
秋花はどうでしょう。まだ気温が30℃を超える10月20日過ぎ、春に比べて花数は少ないものの、立派な花が強い日差しを浴びて輝いていました。葉を落とした株が多い中、このバラはびっしり茂っています。
ゆっくり芳香花が開く~アダージョ
2023年春に発表当初から注目されていたのが、‘アダージョ’。コルデスのバラは誰もが知る「最強」クラスの丈夫さ。
しかしこの品種の樹姿と花はコルデスらしからぬ小さめの葉で大きな房に花が咲き、細めの枝にも単花で咲いて、株全体でやわらかな風情。樹は直立性シュラブで高さ1.0~1.2m。
春花は緑を含む丸い蕾からゆっくり開花。花名の由来です。白い花の中から次第にピンク色が現れてきます。フルーティな香りが漂います。
秋には、長い枝も出ていましたが、葉はよく茂り細めの枝先に、10月の花も、11月初旬の花(写真)も、平たくふんわりと大きく開き、花の重みでうつむき加減に。
金色に輝く~ニルヴァーナ
不思議な花色。黄色とアプリコットが混じりオレンジ色のようにも。
ベースにグリーンも感じるのが、‘ニルヴァーナ’です。光る感じからインドの「涅槃(ねはん)」を意味する花名がつけられています。2023年春に日本発表、ワーナー社が「ここ10年でベストなフロリバンダ」というバラはどうか、多くのプロたちが注目している品種です。
実際にその花と株を見ると、作出社の言葉に違わぬ丈夫さと開花の性質。春花は大きな房になって咲きます。樹は半直立~半横張りの木立性で高さ1.0m。存在感があり、さまざまなバラの中でも目を惹きます。
さて秋は…9月中旬(上の写真)も、10月下旬(下)にも、金色に輝いて咲いていました。葉はたくさん茂っています。
これからのバラの一つの方向
暑くなっているのは海外でも同じ。海外では耐病性に加えて耐乾性が必要と言われ始めました。
日本では耐暑性という言葉も。いずれも樹の機能を示す言葉ですが、愛好者にとって大事なことは、手間なく育てられて、環境変化に耐えていつも美しく花が咲くこと。ますます暑い日が長くなるであろうこれから、必要な性質です。
これら3品種に共通するのは、花が中輪でも大きめ(または大輪)で、樹姿は木立性または木立に仕立てて、株が1.0~1.2mとあまり大きくならないこともあります。
従来のHTやFLといったカテゴリーに当てはまらず、Sとも呼びきれないこれらの品種の花と樹のスタイルは、これからのバラの方向性の一つ。今後このスタイルのバラが、増えていくことに違いありません。樹の性質をますます向上させるとともに、花の美しさに一層磨きをかけて。
著者紹介
玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。
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