バラをもっと深く知る㉝ 花の個性を引き立てる~下を向く葉
葉は光合成を行うのにとても大切なもの。
加えて、葉の色やかたちが花の印象を変えることがあります。
さまざまな葉がありますが、中には下を向いて葉がつく品種があります(葉が下を向く品種の一つ‘アンクレット’)。
「これ、水切れしているんじゃないの?」「病気…?」。そう思う品種が時折あります。
それは、葉が下を向いている品種。
水切れしたときには茎も葉もしなっとしがち。
水やりのとき株全体を少し遠くから見て、ぱっと気付くわけです。
またバラ栽培にあまり慣れないうちには「葉は上を向いてピンとしているのが正常」と思い込み、下を向いていると「病気にかかったのでは」と疑うことも。
実際にそうである場合もあるのでしょうが、水切れでも、病気でもなく、葉が下を向くのが個性の品種があります。
‘アンクレット’(コマツガーデン)と、‘ティップン トップ’(コルデス)、そして‘ナエマ’とその枝変わりの‘マハネ’(いずれもデルバール)です。
妖艶さを強調~アンクレット
紫をおびた赤色の中輪花。
ダマスクとシトラスの芳香。
樹はコンパクトな半直立性で横にふわっと広がります。
この品種は出芽が赤芽。
葉が展開し色がさめてくると、小さめの葉はやや下向きに。
株全体でみるとやわらかさが出て、下に向いた葉がそれを強調し、花と咲いた株全体をより妖艶に見せています。
大きな花・剛直な株をやわらかく~ティップン トップ
「クリームオレンジ」と表現される少し赤みがあり彩度を落した黄色の中大輪花。
柑橘系の香り。
濃緑の先が尖った細長い葉脈が目立つ照り葉で、大きめの花とバランスがとれています。
耐病性はトップクラス。
枝は直立して伸び、剛直に感じがちな印象を、下を向いた葉がやわらかさを出しています。
枝はときに揺れて伸びることもあり、たくさんバラの株がある場所で見ても、はっきりとそれと分かる株姿の直立性シュラブです。
個性あるやさしさ~ナエマとマハネ
桜ピンク色のカップ咲き。
‘ナエマ’は発表以来人気を集める品種の一つ。
甘くやさしい花と香りに加え、葉は中央から先が外側に折れ曲がり、縁も外側へ巻き込んで個性的。
オリエンタルな花名の世界を表します。
枝変わりの‘マハネ’も同じような葉。
花型もフルーティフローラルの甘くやさしい芳香も同じ。
花色が白い分清楚感が増します。花色による印象の違いです。
花は顔、葉は衣服
葉の観察は「病気のきざしが無いか」「害虫がついていないか」など、栽培する上ではとても大事なことですが、美観も大切。
ヒトと同じように葉がその花の印象を決めます。
葉と花は、衣服と顔のようなもの。
衣服が変われば別人のように感じるものです。
私たちは花をまず見て意識しますが、無意識に葉や咲き方も目に入ってきています。
これから花盛りのシーズン。
バラ園や園芸店などで花だけに目を向けがち。
しかし咲いた花を見るときには、知識で理解せずに、花だけでなく葉や咲き方も含めて“感じる”ことが大切です。
そして気に入った品種を見つけたら家に連れて帰り、よく観察して、育てていきましょう。
著者紹介
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玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。