バラをもっと深く知る㉟ 続々と登場 波状弁咲きの花
剣弁高芯咲きが全盛、カップ咲きやロゼット咲きなどオールドファッションドの咲き方が注目されはじめたころ。
波状弁咲きの‘ニューウェーブ’(寺西菊雄)は、2000年に発表されました。
あまり意識されなかった「波状弁咲き」
花弁が波打って重なる八重の咲き方が「波状弁咲き」(はじょうべんざき、やわらかく言うために「なみじょうべんざき」と呼ぶことも)。
英語表現では「ラッフルド・ブルーム・フォームruffled bloom form」。
‘ニュー ウェーブ’が発表された当時、木立では濃いピンクの‘パーマネント ウェーブ’、つるバラでは‘スパニッシュ ビューティー’(1927年スペイン)、‘ロココ’(1987年独タンタウ)などがありました。
ほかにももちろん波状弁の品種はあったのですが、高芯咲きとかカップ咲きとか「咲き方」が優先して、あまり意識はされていませんでした。
ご存知のように、花弁の表現と咲き方の表現は別です。
例えば「剣弁高芯咲き」は「剣弁」という花弁の表現と「高芯咲き」という咲き方の表現が合わさったものです。
バラの花形の新しい“波”
‘ニュー ウェーブ’は私たちの目にとても新鮮に映りました。
育種家が気になって選抜で残し、発表したものですが、まさに花形に“新しい波”を起こし、波状弁花が続々と登場しています。
日本のバラでは木立では‘ミスティ パープル’(2003年)・‘ラ マリエ’(2008年、いずれも河本バラ園)や‘ヒーリング’(2013年コマツガーデン)、エターナル’(2014年ローズなかしま)、‘リベルラ’(2016年京阪園芸F&Gローズ「ネオモダン」今井ナーセリー育種)‘フィネス’(2017年京阪園芸F&Gローズ「ローズアロマティーク」)などです。
2017年発表の‘フィネス’(京阪園芸F&Gローズ「ローズアロマティーク」)波打つ花弁の中輪咲き。樹は木立性・横張り性で安定して開花する。
シュラブのつるバラでは‘オデュッセイア’(2013年)、‘ダフネ’(2014年)(いずれもロサ オリエンティス)も波状弁咲きです。
花弁の先が尖る宝珠弁の‘シェエラザード’(2013年)なども花弁が波打ちます。
日本で発表以来10周年、ヨーロッパでも販売されている‘ダフネ’
みな花にやわらかさや大人っぽさがあり、それぞれいまでも人気を集め、各ナーセリーの代表品種となっています。
花色が違って自由奔放に
この「波状弁咲き」のバラ、海外品種ではデルバールのバラで多く発表されています。
‘オマージュ ア バルバラ’(黒赤の小中輪)、‘ラ パリジェンヌ’(オレンジとピンクの複色の中大輪)、‘ラ レーヌ ドゥ ラ ニュイ’(濃赤と朱赤の中輪)、‘ピンク パラダイス’(黄色を含むピンク・弁底黄色の大輪)、などが次々と登場し、それぞれポピュラーに。
これらからは日本生まれのバラとはまた違う新しさや、奔放とまでも言えそうなのびのびとした自由さが感じらます。
繰り返し寄せる“波”
「波状弁咲き」と表現されるバラはほとんどが「八重咲き」で、一重咲きで花弁が波打っていてもあまり「波状弁咲き」とは言われていません。
最近も波状弁花の発表は続き、花色・大きさ・樹形のバリエーションがさらに広がっています。ここ5年間の主な発表品種からみてみましょう。
咲き方表現をとくに「波状弁咲き」と言わなくても、「波状弁カップ咲き」「波状弁ロゼット咲き」「ポンポン咲き」なども含めてご紹介します。
つる仕立てができる半つる性シュラブ
2020年に発表された‘ラ ブロッシュ’は「ゴールドがかったブラウンベージュ」の中輪(ローズ ドゥ メルスリー)。
樹は茶色系では珍しいシュラブでつる利用も
ニュー ウェーブのつる? デビュー当初そう思わせたのが‘カミーユ’。ロサ オリエンティス プログレッシオで2021年に発表。
大きく感じる中輪花。細めの枝はよく伸び、大きめのつるバラ仕立てに向く
木立性小中輪・中輪
2019年秋発表の‘シャドウ オブ ザ ムーン’(ロサ オリエンティス プログレッシオ)。
赤みのある藤色の小中輪で樹は横張りの木立性。とても丈夫
2022年には開花連続性をテーマにした藤色の波状弁咲き中輪の‘サマルカンド’(ロサ オリエンティス プログレッシオ)がデビュー。
樹は横張りの木立性で丈夫、とてもよく繰り返し咲く
2024年春に発表された、‘アプリコット シフォン’(コルデス)。アプリコット色の波状弁八重咲き中輪
木立性中大輪
2022年秋発表の‘アレキサンドラ ダビッド ニール’(デルバール)は、透き通るような淡いモーブピンク色の波状弁ロゼット咲き。
まっすぐ伸びる木立性で、つる仕立てにも
木立性小輪
赤い小輪でとても花保ちが良い‘ポム’(ローズ ドゥ メルスリー)は「波状弁カップ咲き」。2023年秋発表
ランブラー
2024年春発表の「シルエッタ」シリーズは、小輪・房咲きで“自然に咲き続け”、枝が伸長表示1.8mとあまり伸びないランブラーローズ。
何色かのシリーズがあり‘クリムゾン シルエッタ’の咲き方表現は「ポンポン咲き」で、波状弁
日本人愛好者の心を捉える
これら「波状弁咲き品種」は、海外でとくに目立って愛好されているとはあまり聞きません。
藤色・茶色のバラ同様、一方日本では愛好者にとってそれと意識しないまでも何となくおしゃれに感じるため好まれ、定着してきたものでしょう。
‘ニュー ウェーブ’以来20年以上経っていまや当たり前になって、さらにさまざまなバリエーションが生まれている「波状弁」咲き品種は、私たちの心を揺さぶり続けています。
あるときはさざ波のように、またあるときは大きな波となって。
著者紹介
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玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。