バラをもっと深く知る㊴ 花の芸②切れ込み弁

花弁先が切れ込んで咲いた‘ピエール ドゥ ロンサール’(メイアン)。通常は丸弁だが、何年かに一度このように咲く。
おぉ、これは! 大きな花の花弁の先に切れ込みが入っている…。
一般に春の花はため込んだパワーを開放するように咲くので、ほかの季節に咲く花に無い表情に咲くことがあります。品種によりけりですが通常は丸弁でも、細かい「フリンジ」や「キザミ」が入って咲くことも。
もっと大きく弁先が切れ込むと「切れ込み弁」とか、「切れ弁」というように表現します。これも一つの「花の芸」です。
このように咲くのはもちろん品種によりけり。しかも春花だけ。何年かに一度という場合も。しかしその表情に出逢ったときには深く記憶に残り、そのほかの季節に咲く花は「ホントの花じゃない」とまで思えることも。
切れ込み弁を春に出すフランスの大輪・芳香品種
切れ込み弁を春に出しさらに華麗になる品種は、とくにフランスのバラ、大輪・芳香品種に多くあります。
イヴ ピアッチェ(メイアン)

大きな花が横に拡がる木立の株に。“シャクヤク咲き”の代表品種です。春花は切れ込みが入ることも。
「ローズの香りにバーベナをバックに感じる」と言われる、とても強い香りが漂います。いくつかの枝変わり品種があり、香りの切り花としても多く出回っていますが、このように切れ込みが入るのはガーデンで咲かせたときだけでしょう。
ローズシナクティフ(デルバール)

シュラブ状に大きく伸びる枝先に大きな花。花名は日本では当初‘エモーション ブルー’として紹介され、‘ローズシネルジック’に。その後資生堂の「クレ・ド・ポー ボーテ」のスキンパルファムのイメージ花として採用されるにあたり、現在の花名に。
ブルー系の強い香りがあり、パリ・バガテルのコンクールで金賞・ベストフレグランス賞を、国営越後丘陵公園「国際香りのばら新品種コンクール」で金賞を受賞。「上品な甘さとウッディノートのあるブルー系の香り」と評されました。
ポール セザンヌ(デルバール)

黄色とピンクのしっとりとした絞りの「画家のバラ」シリーズ。シュラブ状の樹に大きな花が咲きます。柑橘とローズの強香。
ソフィー ロシャス(デルバール)

「切れ込み弁が入りやすい品種」と言われ、春花はとても大きく咲き切れ込みが入り、シャクヤクと見紛うよう。
ファッションブランド・ロシャスが結婚記念日に妻に贈ったという香水「ファム」のイメージで創られ、捧げられたバラ。柑橘とローズの強い香り。樹はシュラブでつる仕立ても。

年によってアプリコットで咲くことも。
切れ込み弁を春に出すほかのバラ
「ラッフルローズ」シリーズ(蘭インタープランツ)

「ラッフルローズ」シリーズは切れ込み弁が特徴で、規則的に入ります。木立性で‘グラマラス ラッフル’、‘レッド レディ ラッフル’、‘ピンク レディ ラッフル’、‘ファイヤーワークスラッフル’、シュラブでつる仕立て可能な‘ファンシー ラッフル’、切り花品種の‘シーアネモネ’などがあります。
上の写真は‘ピンク レディ ラッフル’の花弁にぐっとよったもの。これはもう「U字弁」と言ってよいほどの切れ込み様。とてもユニークです。
サンセット グロウ(英ワーナー)


いま人気のオレンジ色。中輪~小中輪のつるバラで返り咲き。波状弁咲きで、春花には切れ込みが入ることも。強いフルーツ香があり、耐病性も高い品種です。
自然の妙・天の配剤
これら品種は、ラッフルローズを除けば花型表現は「切れ込み弁」とはほとんど表現されていません。中輪~小中輪、同じ花色で、同じような大きさで、四季にあまり表情を変えず、枝が伸び過ぎずに咲き続けるのが、最近のバラの大きな潮流。
ただそれだけの視点で見れば「春花は大き過ぎる」「秋にそうならない」「変わったかたちに咲く」ということだけになりがち。
しかし一年に一度、あるいは何年に一度などまれにしか見ることのできない花の表情は、自然の妙であり、天の配剤。
この春は、どんな表情で咲くのでしょう。
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玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。