東京花散歩 ボタンとフジ、そしてエビネの春 東京町田で咲く花たち
4月も後半になると、ボタンとフジを見たくなります。とくにボタンは数多い品種を見比べるのが楽しみです。近年は、冬ぼたんと称して、促成・抑制栽培されたボタンが上野東照宮などで1~2月に楽しめます。それはそれで新春の光景としてよいのですが、やはり、自然開花する春に見るボタンは本来の姿として目に映ります。
また、目線を上げればフジの花が目に入る季節です。足利フラワーパークの大フジには及ばなくても、藤棚に咲くフジを見るとサクラの季節から時間が進んだことがわかる気がします。そして、エビネ。鉢で愛でるのもよいのですが、自然の中に咲く姿は、エビネが野生ランだということをあらためて知らしめてくれます。同じ時期に咲く、他の野草たちとの共演も見どころです。
そんな花をまとめて楽しめるスポットが、東京都町田市にある薬師池の周辺です。ご紹介するのは、毎年、開花時期には人が集まる町田ぼたん園と町田えびね苑です。ここも私の大好きなスポットで、ほぼ毎年行っています。風光明媚な薬師池の周辺にあり、本来なら4月後半からGW中は多くの人でにぎわいますが、今年はいずれも新型コロナウイルス感染対策で閉園(苑)中です。今、まさに花盛りを迎えているぼたん園とえびね苑から、ここ数年のアルバムからご紹介したいと思います。
ボタンの豪華さと多様性を知る
町田ぼたん園は、薬師池から徒歩約7分、北側の丘の上、民権の森の一部をぼたん園にして花の時期は有料で公開しています。ボタン330種1700株、そしてシャクヤクも60種600株がみられる、関東でも有数のボタン園です。入り口は木造の門のしつらえで、入園料を支払って中に入ります。ボタンは木造の屋根に雨から花が守られていて、少々の雨でも十分にきれいな花が観賞できるようになっています。
順路に沿って進むと、さまざまな品種の植栽がありますが、管理がしっかりとしているせいか、どの株も花つきもがよく、中には径25cmを超える花も見られます。まさに「花王」といわれる由縁です。そして、これがボタン? というような変わり花も楽しめます。さらに園内では、ボタンだけではなくタイツリソウなどの野草やシャクナゲなど同じ時期に咲く花木も見られます。
ボタンはボタン科ボタン属で、中国原産の落葉低木です。もともとは薬用として利用され、日本への渡来もはっきりとはしていませんが、奈良時代ごろにやはり薬用として導入されたといわれています。平安時代以降、観賞用としても栽培され、江戸時代には庶民にも愛された花でした。明治時代以降品種改良も進み、文人にも好まれ、多くの絵画の素材や陶磁器などの文様として愛されてきました。
「立てば芍薬 坐れば牡丹 歩く姿は百合の花」と、美しい女性の表現にボタンとシャクヤクがともに出てきます。そのボタンとシャクヤク、違いはみなさん知っていますよね。ボタンが木本でシャクヤクが草本です。それ以外にも花の咲き方、枯れ方、つぼみや葉、開花期にも違いがあり、同じボタン科で花は似ていますが、違う植物であることがわかります。そして、ここでは、少しは早めに咲かせたシャクヤクとボタンの両方が一緒に見られるのがうれしいですね。
園内を進むと、ドイツスズランの群生や見事なフジ棚も楽しめます。そして、林地を行く散策路はボタンにばかり目が行ってしまうせいか、あまり人がいないようですが、キンランなどの野草も楽しめます。この時期の町田ぼたん園は、春の花の宝庫といっても差し支えありません。
エビネの群落とクマガイソウ
町田ぼたん園から七国山、福王寺薬師堂、薬師池を経て町田えびね苑へ向かいましょう。途中、ナノハナ畑などののどかな風景や緑の林、そして池、さらにいろんな野草も楽しめます。
ここえびね苑は、谷戸の斜面を生かした公園です。元々エビネが多数自生していた訳ではないと聞きましたが、この付近どこにでもあったエビネのある風景を再現し、さらにさまざまなエビネや野草を植えたようです。今では昔からエビネの森であったような風景が毎年展開されます。春はエビネが主役ですが、エビネと同じ時期に咲くクマガイソウやユキモチソウなどの野草たちもたくさん見られますし、初夏、アジサイの季節も見事な景色が見られます。
薬師池側の出入り口から向かうと尾根沿いを昇っていって料金所に着きます。そこから谷に向かって降りていく途中、そしてふたたび昇っていく途中にたくさんの花を楽しめます。エビネの咲く林野は晴れた日でも半日陰になるような環境で、まさにエビネの栽培条件に最適な環境であることがわかりますし、クリンソウが咲く水の流れもあります。いずれにしても、エビネの生育にふさわしい苑内だといえます。
ボタンとフジ、エビネとこの時期日本を彩る代表的な花を堪能できるスポットのある町田市薬師池エリア、新型コロナウイルスの感染拡大でいずれも臨時休園(苑)していますので、今年は花を楽しむことはできなくなりとても残念ですが、きっと来年は今年の分も合わせて私たちを楽しませてくれると期待しています。
取材・構成・文・撮影 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。
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