東京花散歩 都心で見られます、ユリの群植
アジサイの花が終わりに入ると、ユリの季節を迎えます。新型コロナウイルスのパンデミック(感染爆発)がなければ、この季節に咲く日本のユリやそれを親にして生まれたハイブリット系のユリで、東京五輪の選手や関係者、応援で来日する人々を、花で歓迎する。そんなおもてなしの準備がされていたのではないでしょうか。しかし、五輪は延期になってしまいました。そうはいっても開花の延期はできません、五輪があってもなくても花は咲いてくれました。
そんな光景の一つが、東京都心にある日比谷公園のユリ花壇です。昨年はなかった花壇ですから、まさにそのような目的で設けられました。
植栽されているユリは全部で28種、ヤマユリやサクユリ、コオニユリやオニユリ、そして日本のユリを元にヨーロッパなどで改良されたハイブリット系のユリなどです。
特にヤマユリやサクユリは、日本のユリというより東京のユリといえるのではないでしょうか。ヤマユリは、東京でもこの時期、高尾山なで自生が見られますし、公園や植物園や野草園などでよく見られます。サクユリは伊豆諸島固有の種ですからまさに東京のユリです。
花束やフラワーアレンジではよく見るユリも、鉢植えではなく、地面から茎が伸びてその先に大きな花を咲かせる自生の姿を、東京の人でも植物園や野草園などに行かないかぎりあまり見る機会はないと思われます。しかし、日比谷公園のユリ花壇では、その姿が数えられないくらいたくさん見られます。「立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は百合の花」といいますが、その姿は本当に美しいものです。
先日見に行ってきましたので、様子をリポートしたいと思います。日比谷公園にはいくつかの入口がありますが、東京メトロ丸の内線霞ヶ関駅に近い霞門から入ります。入った途端に目の前の木々の株元にユリの花園が広がります。実は、入る前に目より鼻でよい香りを感じていました。ユリの香りは本当に素敵な香りです。その香りに誘われるようにユリに近づいていきました。
最初に目についたのは今盛りのOTハイブリッド系の園芸品種です。そして花壇をさらに進むと、東京に自生するユリのエリアがあります。そこにはヤマユリとサクユリがこれでもかというほど数多くの株が花を咲かせていました。私もヤマユリやサクユリがこれだけ密植されて咲いているのは初めてみました。東京のユリだからでしょうか、すごくアピールされていました。
これだけのユリを2020年夏に咲かせるために、前から準備してきたと思うのですが、球根を植栽したのは昨年秋と聞きました。本当によく咲いています。数年前からこの時期に日比谷公園内の日比谷図書文化館で変化あさがおのイベントが毎年あり、参加していましたが、ユリの話、ユリ花壇の話を聞いた記憶がありません。なんか、突然のプレゼントのようでうれしくなりました。
ユリ花壇は、カレーで有名な松本楼の手前までありました。今がピークと花が咲いていましたが、園芸品種とくにオレンジ系やイエロー系はこれから開花が進みますので、まだまだ花が楽しめます。ただ、ヤマユリやサクユリを見たい人は早めに出かけた方がよいでしょう。
帰りは、公園内の常設花壇を見ながら丸の内方面へ抜けていきました。すでにシュウメイギクも咲いていましたし、アガパンサスが盛りでたくさんたくさん咲いていました。そのアガパンサスで、青い花が大きく毬状に咲いてひときわ存在感のある種類に目が留まりました。名札から、アガパンサス‘水車(みずぐるま)’という品種であることがわかりました。小森谷ナーセリーとありましたので、小森谷慧さんが改良したか導入した品種だと思われます。さすがにすばらしい花を生み出すレジェンドです。
オリンピックが1年延期しましたが、果たして来年もユリは花を咲かせるのでしょうか。本当は五輪があってもなくても、毎年ここでユリが見られたらうれしいですね。まずは、今年のユリ花壇に感謝したいと思います。
取材・構成・文・撮影 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。
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