東京花散歩 追憶の中のガーデン としまえんのアジサイガーデン
7月、東京のアジサイも終わりましたが、東京のアジサイというと思い出します。としまえんのアジサイです。としまえんは2020年8月に惜しまれながら94年の長い歴史に幕を閉じました。
そのとしまえんですが、5~6月だけは、遊園地にはあまり似つかわしくない男女が多数訪れていました。実は園内には遊戯施設やプールだけではなく、アジサイガーデンがあって、コロナ禍になる前までは、毎年あじさい祭りが実施されていました。そのアジサイを見に来た人たちです。私もその一人でした。
遊園地として入るとそれなりの金額の負担がありましたが、あじさい祭りの期間、アジサイを見るだけなら、60歳以上は500円で入園できたのです。そんな施策もあり、多くの中高年が訪れていました。
そのとしまえん、最近ネット上で閉園後の空撮画像(2021年1月時点)を見たのですが、ため息が出てしまいました。跡地の利用では、防災拠点として、練馬城址公園を整備する、ハリー・ポッターのスタジオ施設をつくると報道にはありました。新たに施設をつくるので当然のこととはいえ、園内の木々もわずかな本数を残してほぼ伐採されていました。もちろん、150種10,000株と言われたアジサイも見る限り一株も残っていないようでした。
全体計画をみたことはありませんが、せっかくの木々や植栽、公園化であれば、できるだけ生かして整備を進めるのがよいと思うのは私だけでしょうか。緑の再生は時間のかかる作業です。できるだけあるものを活用していく、これからの時代のあり方のように思います。
さて、跡地の件は別にして、としまえんのアジサイガーデンを振り返ってみたいと思います。遊園地の植栽といっても、広くはない敷地ながらなかなか本格的で、群植から品種もの、そしてヤマアジサイの小径やツルアジサイのトンネルなど、植物的にも十分に楽しめる構成でした。一時は入口広場で最新品種や人気品種の鉢植えを展示したり、相談コーナーも設けていたほどです。
では思い出のアジサイガーデンを振り返ってみたいと思います。園路の入り口からは、ミストが降る中にタマアジサイやガクアジサイが列植するあじさいの坂です。そして、園路が分かれると斜面を下りる方は水色の丘へ、上る方は育種家コーナーへと進みます。水色の丘は、園内を走るミニ汽車の線路にも沿っていて、汽車に乗る人たちからもその景気が楽しめました。
育種家のコーナーは、先日他界されたアジサイの品種改良のレジェンド、坂本正次さんなど、日本を代表する方々の品種が並んでいました。日本のアジサイの品種改良は世界的にも評価が高く注目されています。実際にそれぞれの花を見るとよくそれが分かります。
さらに進むと両側にアナベルが並びます。満開になれば真っ白な花が並ぶ中を歩く景色になります。アナベルはいまや日本各地のアジサイの景色の一つになったように思います。また、その近くには、エンドレスサマーの群植もあって、鮮やかな水色に心地よさを感じました。
アナベルの中を進むと「やまあじさいの小径」になります。ヤマアジサイは日本原産のアジサイで、産地によってさまざまな花があります。地味で開花時期もさまざま、なかなかすべてを見ることは難しいのですが、多くの品種が植栽されて、それぞれの花を比較してみることもでき、木にはイワガラミが絡んでいたりして、ナチュラルな雰囲気もあって、私的には大好きなエリアでした。
ヤマアジサイのコーナーを過ぎるといよいよツルアジサイのトンネルになります。ツルアジサイも山野に自生する日本のアジサイですが、花が咲くとよい香りがして、その中を歩くのがとても楽しいものです。もっともっと利用されてもよいのがツルアジサイだと思います。
ツルアジサイのトンネル。
トンネルを過ぎると最後にアジサイの群植が現れ、そこで終わりになりました。なんだかんだいって、よそ見をせずに歩けば短時間で抜けてしまう園路でしたが、1時間以上かけて歩くこともしばしばでした。この後、多くの年配者はそのまま出口へと向かいました。
私も子どものころに遊園地として楽しんだ記憶のあるとしまえんでしたが、数十年後にふたたびアジサイを見るため訪れるとは、思いもしませんでした。そして東京のアジサイの名所として知られるようになったとしまえんでしたが、残念ながら、閉園とともにアジサイの咲く景色は失われてしまいました。しかし、今後の整備の中で、アジサイの植栽の復活があるとしたら……、そう願うこのごろです。
※写真は、2018年、2020年のガーデンから
写真・文 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。
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