秋の七草を訪ねて 秩父長瀞・七草寺めぐり
春の七草は七草粥などの風習もあり、スーパーでも素材が売られるなどよく知られていますが、秋の七草はご存知でしょうか。春ほど知られていないようですね。一つひとつは、私たち日本人にとっては馴染みのある植物ですが、七種いっしょに揃えて何かをするというような行事や儀式もなく、夏から秋にかけて野に咲く花たちを愛でる、というところから来ているからでしょう。
また、植物園などでも、春の七草は手籠に植えて正月前後に展示したりして、よく目にします。しかし、秋の七草と言うと、まず七種一堂に目にすることはありません。なので、一つ二つの種類は目にとめても、秋の七草として認識することが少ないのでしょう。そこで今回、秋の七草について紹介していきたいと思います。
まずは七草についてです。昔からの呼び名(漢字)、今の呼び名、科属の順で紹介しましょう。
萩 ハギ
マメ科ハギ属
尾花(オバナ)
ススキ イネ科ススキ属
葛 クズ
マメ科クズ属
撫子 ナデシコ
ナデシコ科ナデシコ属
花 オミナエシ
オミナエシ科オミナエシ属
藤袴 フジバカマ
キク科ヒヨドリバナ属
桔梗 キキョウ
キキョウ科キキョウ属
これまで目にしたことのない種類ってありますか。多くの人は目にしていると思います。ただし、一堂に、あるいは同日に目にすることはめったにありませんね。すべてを栽培している場所や、同時期に花が咲くという場所は私も知りません。それくらい、秋の七草を体感できる機会って少ないのです。
ところで、秋の七草の成り立ちを知っていますか。それは万葉集で詠まれた山上憶良の歌二首が始まりだと言われています。旧暦の秋(8~10月)に花野に咲く七種、憶良にもこの季節、歌に詠むくらいよく目についたのでしょう。その歌は、
秋の野に 咲きたる花を指折り かき数ふれば 七種の花
萩の花、尾花 葛花 瞿麦の花 姫部志 また藤袴 朝貌の花
この二首目に具体的な花が詠まれています。瞿麦はナデシコ、姫部志はオミナエシのことです。また、研究の結果、朝貌=アサガオの花は現状、桔梗=キキョウが定説になっています。また、どの花も昔から薬草としての効果もあり、くらしの中で身近な秋の花として親しまれていたことは想像できます。
そして、個人的には七という数にも日本人が特異な数として認識している影響もあるかもしれません。いや歴史的には、七草の方が古いかもしれませんが。七福神、七夕、七不思議などもありますし、最近ではAKB48での神セブンなんていう用い方もされました。野球でラッキーセブンなんていうことばもあります。そういう中で現代でも春の七草や秋の七草が親しまれているのは自然かもしれません。
という訳で、なんと一日で秋の七草が見られるところがある、というので埼玉県長瀞へ。長瀞の周辺には、秋の七草のうちそれぞれ一草を売りにしたお寺が七寺あります。そこをすべて訪ねれば一日で秋の七草を堪能できるのです。宝登山や川下りだけではなく、羽生・熊谷と長瀞・秩父・三峰口を結び、人気のSL列車パレオエクスプレスも走る秩父鉄道の、秋の観光企画のひとつでもあるようです。では、その七草寺を紹介します。
洞昌院 萩 ハギ
アクセス=秩父鉄道野上駅下車徒歩20分
道光寺 尾花 オバナ=ススキ
アクセス=秩父鉄道樋口駅下車徒歩10分
遍照寺 葛 くず
アクセス=秩父鉄道樋口駅下車徒歩40分
不動寺 撫子 ナデシコ
アクセス=秩父鉄道長瀞駅から徒歩20分
真性寺 女郎花 オミナエシ
アクセス=秩父鉄道野上駅徒歩10分
法善寺 藤袴 フジバカマ
アクセス=秩父鉄道野上駅徒歩10分
多宝寺 桔梗 キキョウ
アクセス=秩父鉄道野上駅徒歩10分
秩父鉄道の観光企画の一つでもあるようなので、ハイキングがてら電車で訪れるのを推奨しますが、七寺すべて車での訪問も可能です。ただし、遍照寺は山の悪路を行くことになります。真性寺は車を停めるスペースが非常に少ないので、それぞれ注意してください。
まだ間に合う秋の七草めぐり、七草を愛でながら、長瀞路をノンビリと歩くと言うのもいいものです。秋の七草はどこかへ行かなければ見ることはできませんし、それぞれの草が景色と溶け込んでいるのを見みながら、そして七草以外の秋の草花も楽しみながら、秋の一日を過ごすのがおすすめです。
七草寺で見られる秋の草花たち
写真と文・出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。
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