KEIKOさんの鎌倉・谷戸から花便り5 桜のあとの鎌倉の花、春から初夏へ
鎌倉の桜は玉縄桜からはじまり、ソメイヨシノのお花見は全国と同様に賑わって、あっという間に過ぎ去っていきます。鎌倉の桜の名所はそれぞれに綺麗で風情もあるのですが、私は引っ越して十年目に近づく頃からはなるべく人出の少ない場所と時間を選んでお花見をするようになりました。
春めく季節からの谷戸住まいの楽しみは、山の芽吹きの色の移り変わり。その後は木々のさまざまな新緑の中に淡いピンクや白の山桜が霞のように重なる様子を眺められることです。少し早かったり遅かったりと木によって違いのあるヤマザクラ、オオシマザクラの見頃は意外と長いものですが、一番美しい日を見逃さないように天候を意識しつつ山を眺めたり散歩したりすることが増えます。同時に足元の小さな春の花も探しながら。
やや遅れて咲くシダレザクラとヤエザクラの楽しみ
いわゆるお花見週間のあと、近くで見られるお寺などの里桜もこの時期の楽しみ。人出のおさまった午後遅くの静かな桜もよいものです。たとえば浄智寺山門(鐘楼門)脇のシダレザクラと背後の山のヤマザクラを眺めるスポットは、お寺の茅葺屋根も相まって物語に出てくる桜の里のような風情です。
もう一つ、北鎌倉・明月院のシダレザクラも大好きです。よく午後遅くに訪れることが多いのは、明月谷の山に陽が落ちて桜が幻想的に見えるからかもしれません。
こちらの桜はヤエベニシダレですが、毎年ソメイヨシノが終わる頃に見頃を迎えます。お花見の予定が少し遅くなってしまったという方にもおすすめ。ちょうどこの頃はハナカイドウ、ミツバツツジ、シモクレン、レンギョウなどが開花していて、華やかな春が楽しめるお庭です。
ソメイヨシノ、シダレザクラが終わり、次に待たれるのは八重咲きの里桜。こちらも品種や木によって開花の時期は少しずつずれて、4月中旬から下旬が見頃になります。里桜を見ると、それぞれに‘普賢象’、‘関山’、‘松月’などではないかと思われるものの、お寺などで名札のついている木は稀なので、なかなか正確な品種名は分かりません。
そんな中、鎌倉で増えてほしい八重の桜といえば‘普賢象’。室町時代に溯る鎌倉原産で、日本最古のヤエザクラ品種という話は、鎌倉市「緑の学校」第1回目の講座で初めて知りました。講師の湯浅浩史先生によると鎌倉の古地図にある普賢象山が発祥の地ではないかとのこと。同時代に足利尊氏が京都に運んで、左近の桜として植えたという‘桐ケ谷’とともに鎌倉由来の古くからの品種が見られる名所があるとうれしいですね。私は日比谷花壇大船フラワーセンターや京都・仁和寺で名札つきの花を見ることができました。
品種によって、樹齢によっても風情の違うヤエザクラ、いつも静かなお花見ができるのは、建長寺奥の塔頭・回春院。‘普賢象’かな、‘一葉’かなと思いつつゆっくり過ごせます。
またハナカイドウやシダレザクラの終わったあとの妙本寺のヤエザクラも豪華な咲きっぷりです。祖師堂に向かって右には緑がかった淡い黄色の‘鬱金’もあり、こちらは名札つきでした。
北鎌倉の美しい山の色、谷戸の小さな花
鎌倉の山が新緑と桜色に染まる頃から初夏までは、気持ちのよい低山ハイキングに最適な季節です。いつもは谷戸から見上げている山の尾根歩きや、海を見晴らす展望台からの山並みと遠い、町の眺望などを楽しみつつ、海に近い鎌倉の植生を再確認する機会でもあります。北鎌倉はハイキングコースの入口があちこちにあって、思い立ったらすぐに出かけられるところも恵まれています。
椎若葉、楠若葉から赤みがかったタブノキの若葉などとヤマザクラ、オオシマザクラが織りなす景色に建長寺伽藍と遠くの海も見晴らすと、鎌倉時代の昔にも思いを馳せられるといったらおおげさでしょうか。この景観は代表的なコースのひとつ、天園ハイキングコースの建長寺半僧坊入口からすぐの「勝上献」展望台から。条件がよければ富士山も望めます。
ハイキングコースで春に出会える花の代表といったらスミレ。鎌倉の山ではタチツボスミレが多いのですが、コスミレやニョイスミレも見かけられ、オトメスミレ(シロバナタチツボスミレ)を見たとのラッキーな話も聞きました。
今年は身近な谷戸の斜面にタチツボスミレ(一部にはコスミレも)の群生が広がり、見慣れた花の新たな魅力を感じられて嬉しい春でした。
また、谷戸での群生が華やかなのはニリンソウ。特に珍しい花ではありませんが、東京では多摩の山間に行った時にしか見ることができなかったので、家の窓から見られることに幸せを感じる大好きなスプリングエフェメラルです。
ほかに春の山道で目立つ大きな花ではウラシマソウ、実がなるのが待ちどおしいモミジイチゴ、クサイチゴ、珍しい花ではキンラン、カントウカンアオイなどきりがありません。
谷戸の家の庭からはこうした山の景観の一部が眺められるので、毎日移り変わる色を見ながら機会を逃さずに散策を楽しみたい季節。気づくと花粉症もおさまり、杉に囲まれた谷戸から逃げたいと思っていたこともすっかり忘れているのです。
谷戸の恵みのフキノトウやタケノコ三昧の日々が過ぎる頃には、山の緑の中に青紫のフジの花が目立ってきます。
フジの花が咲くと緑も濃く、季節は初夏へ
鎌倉にはびっくりするような大きな藤棚の名所はありませんが、存在感のあるフジの花を見られる庭は枚挙にいとまがありません。中でも毎年見に行ってしまうのが英勝寺のシロバナフジ。ほかのフジよりも少し遅い開花で、GW頃に満開になります。
逆に開花が早めなのは鶴岡八幡宮、旗上弁財天。源氏池の畔の青紫のフジの開花ともそれほどずれません。
こうして春から初夏の主役の花が一段落する頃には木々の緑が濃くなっていきます。次の紫陽花の賑わいまでは少し落ち着く鎌倉です。
谷戸の家の庭もピンクから青へ
さて、散策に忙しい時期も家の庭では花が移り変わっています。もともと白い花が多い庭ですが春はピンクがやや目立つようになり、季節が進むと薄紫も含めて青系の印象に。球根や多年草を買うときに青い花を選びがちだからでしょうか。
ムスカリはアズレウムがお気に入りだったけれど、たまには気分を変えてパラドクサム改めベレバリア・パラドクサの濃い青を寄せ植えのポイントに。
アネモネはミックスで売られていることが多いので、ポット植えにして花色を確認してから寄せ鉢または寄せ植えにしています。
ニゲラは一年草ですが、谷戸の庭ではこぼれ種で増えることが望めません。デルフィニウムも夏越しが難しく一年草扱いです。そんななか、高温多湿で木陰の庭で毎年咲いてくれるうれしい花の筆頭がミヤコワスレ。薄紫で原種のミヤマヨメナの風情を残しているところも好きです。セイヨウオダマキのアルピナも思いのほか複数年夏越しして大株になってくれました。
夏に近づくにつれて葉が重なって木漏れ日が少なくなり、聞こえる鳥の囀りも鶯からオオルリ、そして杜鵑へと変わってゆく谷戸の庭です。
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KEIKOさん
北鎌倉に越す以前、東京時代の仕事は雑誌編集者。マンションのベランダと戸建ての庭でのガーデニング経験あり。昔はタネから育てたり、品種コレクションを頑張ったこともあるけれど、いまは気楽に自然体の庭づくりを楽しんでいる。鎌倉や旅先では寺社の庭や公園・緑地の季節の花を見たり撮影したりする散歩好き。