今年も、定番人気! ガーデンシクラメンがすごい
各地の園芸店に、パンジー、ビオラとともにガーデンシクラメンが草花素材の主力商品として並ぶ季節になりました。その昔、シクラメンはクリスマスやお歳暮の商材として、大鉢に植えた花満開の株が店頭を賑わせていた、室内で楽しむ花でした。生産者も、買って帰った時点、あるいはお届けものとして届く時点で、もっとも美しい姿になるように花を咲かせていました。
しかし、今やシクラメンは鉢花だけではなく、庭やコンテナ植えの花として多くの人に認識されています。それまでとイメージが180度違うものに変わっても、秋から冬の主役の座からは外れていないシクラメン。もちろん、鉢花としてもまだまだ活躍中なので、ある意味すごい植物だと思います。
今シーズンも主役を務めるガーデンシクラメン、登場してから20年以上経ちましたが、衰えない人気の秘密はどこにあるのでしょう。ガーデンシクラメンの生みの親の一人であり、埼玉県本庄市でガーデンシクラメンの生産を営むたけいち農園の田島嶽さんに話を聞きました。
日本の冬から春の庭を変えたガーデンシクラメン
ガーデンシクラメン誕生は、かれこれ30年くらい前に、田島さんの知り合いがいる西伊豆の堂ヶ島洋ランセンター(現在、らんの里堂ヶ島)で庭をつくるとき、ミニシクラメンを植えたいという要望にこたえて、当時田島さんが生産していた株を供給したことからはじまります。霜が降りない暖冬の地だったせいか、地植えされたミニシクラメンは、春まで寒さにやられることもなく花を咲かせ続けたそうです。そのとき、田島さんはそのことに驚きはしましたが、すぐに庭で使えるシクラメンとして商品化できるとは思わなかったそうです。そして、数年が過ぎました。
そして、今から約23年前の1996年、ある見本市で田島さんの知人、肥料メーカーのYさんと苗を販売しているMさんとの話で、庭で楽しめるシクラメンがあったら、日本の冬から春の庭が変わる、という話で盛り上がりました。そのとき西伊豆での成功体験が蘇った田島さん、生産し続けていたミニシクラメンで、きっと上手くいくのではと思ったそうです。それは、翌1997年に「ガーデニング」が流行語大賞を受賞しているように、日本にガーデニングブームが到来している最中のことでした。
呼び名は、出荷に際して、庭で楽しめるシクラメンプロジェクトの仲間でもあった、当時緑のマーケットの田中勲さんが「ガーデンシクラメン」を提案し、みなでそれがいいということになった結果でした。田島さんの農園だけでも、最初のシーズンが2万鉢、翌年が5万鉢、次が8万鉢、15万鉢、25万鉢と順調に出荷が増え、現在でもほぼ毎年25万鉢ほど出荷しているそうです。
品種改良も進み、花形や花色も多様になり、寒さにも強く花も春まで長期間楽しめるものになってきて、ますますガーデンやコンテナでの需要が高まっています。公共花壇などでは株の入れ替えが毎年行われることも多いのですが、一般家庭であれば、花が終わって球根を夏越しさせれば、次のシーズンにまた花を楽しむこともできます。
誰でも使える名称“ガーデンシクラメン”
ところで、ガーデンシクラメンがこれほど普及し続けているのはなぜでしょう。その大きな要素の一つは「ガーデンシクラメン」という一般名にあると思います。それまで基本、鉢花として室内で楽しむのが当たり前のシクラメン、庭でも大丈夫だよ、というストレートなメッセージがこの名前からは伝わってきます。さらに語呂もいいですよね、そして、最大のポイントはこの「ガーデンシクラメン」という名を、商標登録などせずに、だれでも自由に使えるようにしたことではないでしょうか。
例えば、当時のメンバーが商標登録して、自分たちのシクラメン以外に使えないようにしたら、これほど普及したでしょうか。いや、少なくとも普及の速度は遅かったと思いますし、これほどまでに広がりを見せたかどうか。いずれにしても、庭で使えるシクラメンを総称して「ガーデンシクラメン」という一般名になったことが、長い間、普及し続けている大きなポイントだと私は思います。
買ってからさらに状態がよくなるガーデンシクラメン
そして、もう一つガーデンシクラメンのよいところは、買ってからも状態がよくなっていくことです。鉢花の時代は、店頭で最高の状態のものを購入していたので、家で飾ってからちゃんとした管理下であれば維持はできても、一般には見栄えも生育の状態も上がってはいきません。下がっていくのが普通だったのです。しかし、ガーデンシクラメンの場合は、店頭で買うときは4~5割くらいの状態、家で庭や寄せ植えに使ってから普通に管理すれば、さらに状態が上がってくるようになっています。残りの5~6割の余力が長い間発揮されるので、買った人も使ってよかったと思えることが大きなポイントだと思います。もちろん、鉢花とは用途も異なるので、よしあしではありませんが、植物を育てるというのは、やはりその植物がだんだんよくなる、育つという状態を自身で体験するところに一番の喜びがあるものです。それを人気のガーデンシクラメンが体験させてくれるのです。長い間人気が続く大きなポイントだと思います。
実際、私も昨年12月に入手したガーデンシクラメンを玄関先のコンテナに植えましたが、春真っ盛りまで途切れることなく花が咲き続けてくれました。水やりや施肥はズボラでしたから、一番は株の持つ余力で長い間持続したのだと思います。田島さんのところでの栽培では、9~10月は生育がよく、花上りも旺盛ですが、花持ちはよくありません。それが、11月に入ってくると花数は減ってきますが、花持ちが格段によくなります。それが2月過ぎまで続き、3月に入り暖かくなってくると花数がふたたび増してくるそうです。ポイントは、霜に当てないこと、過湿も乾燥しすぎもよくないので、土の表面が乾いたら十分に水を与えること、そしてふたたび生育が旺盛になるまでは、固形肥料を置き肥しておくか、液体肥料を月に一度くらい水やり代わりに施すとよいでしょう。
そんな定番人気の続くガーデンシクラメンですが、かといって田島さんたち生産者や育種元のヨーロッパの産地がそれに胡坐をかいている訳ではありません。毎年のように品種改良は行われていますし、また、園芸ファンの動向を捉えて原種に人気があるようなら、1年で花が咲く種類なども出てきています。さらに、新しいシーズンになると、品種写真だけではなく、寄せ植えのサンプルもカタログに載せて、魅力を伝えています。
そして、もう一つの楽しみは、ガーデンシクラメンは夏越しさえうまくできれば、次のシーズンでも花が咲く、使い捨て植物ではないのです。そのための栽培管理についても、冊子を製作して知ってもらえるよう努力しているといいます。それでも毎年、シーズンになればたくさんの株が多くの人の手に行き渡っていくのですから、それはすごいことだと思います。
軽井沢育ちのガーデンシクラメン
そんなガーデンシクラメンの世界でトップを続ける田島さん、秋も深くなると来シーズンのことに頭を巡らします。2月に種をまいて苗をつくり肥培して、初夏になると平地の猛暑を避けて軽井沢へ山上げします。そして、秋から店頭に並びます。ブランド名に「軽井沢育ち」とあるのも、その生産過程からつけられたものです。軽井沢でしっかりと夏を過ごした株だから、お客さんの手元にいってからもしっかりと育ちますよ、そんなメッセージが感じられます。
今年も花色や花形が数多くある中から好みのガーデンシクラメンを選んで、庭やコンテナで大いに楽しんでほしいといいます。これから春まで花も葉も楽しめるガーデン素材、だれもが知っているガーデンシクラメン、長い間に培われた定番人気の座は今シーズンもゆるぎません。
取材・文 出澤清明(プロフィール流用)
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。
動画でわかりやすく!HYPONeX Smile
ガーデンシクラメンの寄せ鉢』
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