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令和2年の干支はネズミ 名前にネズミがつく植物の話/小林健人

令和2年の干支はネズミ 名前にネズミがつく植物の話/小林健人

普段、あまり注目されることの少ない地味な雑草たち。でも、名前と姿をセットで見てみると親しみが湧いてくるものがあります。特にオススメなのは動物シリーズです。例えば、キツネガヤ(狐茅)、イタチガヤ(鼬茅)、ネズミガヤ(鼠茅)など……。想像力を掻き立てるラインナップだと思いませんか!

雑草の名前に登場する動物自体も、その当時は身近な存在であったことが想像できます。“ハクビシンノオ”や“マメシバムギ”なんていう現代版の名前が付けられる日も来るのでしょうか。そんな動物シリーズの中から、今年の干支であるネズミと縁のある植物にフォーカスしてみたいと思います。

アカネズミ(イメージ写真)

アカネズミ(イメージ写真)

最初にご紹介するネズミガヤは、全国に分布する割には見かける機会の少ない植物。そういう一面がまさにネズミのようですが、本当の由来は鼠色をした花の集まり(花序)をネズミの尻尾に見立てたことによります。思わず足を止めて見入ってしまうほど、繊細で可愛らしい花です。

ネズミガヤ(左)。山地にはオオネズミガヤ(右)が生育する

ネズミガヤ(左)。山地にはオオネズミガヤ(右)が生育する

ところが最近、公園の道ばたや植え込みなどでコネズミガヤという別の種類を頻繁に見かけるようになりました。パッと見では、細長く一直線に伸びた花序と、直線的な葉っぱの様子から本家のネズミガヤと見分けることができます。2000年代頃から首都圏などで急速に広まった外来雑草なので、従来の植物図鑑には載っていません。皆さんも、きっと知らないうちに彼らを踏み付けて歩いているはずですよ!

コネズミガヤ

コネズミガヤ

同じように、花序の様子からネズミの尻尾を連想して名付けられた雑草には、ネズミノオネズミノシッポ(※標準和名はナギナタガヤ)があります。どの種類も、言われてみれば本当に“ネズミの尻尾”に見えてくるから不思議なものです。

ネズミノオ

ネズミノオ

ナギナタガヤ(ネズミノシッポ)

ナギナタガヤ(ネズミノシッポ)

なみに、ネズミムギの“ネズミ”は、外見ではなく、「麦に似ているけれど“役に立たない”」という意味で付けられたものです。実際には牧草としての役目を果たしてきたありがたい植物です。

英名でMouseが入る植物

植物をネズミに見立てたり、ネズミ呼ばわりをして親しんできたのは、日本だけではありません。例えば、春の雑草としておなじみのオランダミミナグサは、英名の一つに“Mouse-ear chickweed”があり、中国でも“高脚鼠耳草”などと呼ばれているそうです。和名ではネズミが省略されていますが、やはりネズミの耳が由来となっており、漢字で“和蘭耳菜草”と表記します。トレードマークともいえる、向かい合う2枚の毛深い葉っぱは、確かにネズミの耳に見えなくもありませんよね。それにしても、ウサギの耳ならまだしも、ネズミの耳が万国共通というのは意外な気もします。

オランダミミナグサ

オランダミミナグサ

このほか、シロイヌナズナ(Mouse-ear cress)ムギクサ(Mouse barley)といった草花の英名にもネズミが登場します。もしこれらの雑草と出会う機会があれば、それぞれどこがネズミを連想させるのか、考察してみるのも楽しいかもしれません。

シロイヌナズナ

シロイヌナズナ

ムギクサ

ムギクサ

ところで、雑草だけでなく、樹木の名前にもネズミが登場します。庭や公園で目にするネズミモチは、熟した果実がネズミの糞に似ていて、葉がモチノキを連想させることが名前の由来になっています。屋根裏に棲むネズミの糞害と闘ってきた、先人たちの苦悩が伝わってくるようなネーミングですね。

ネズミモチの花

ネズミモチの花

トウネズミモチの花

トウネズミモチの花

ネズミモチの果実はヒヨドリをはじめ、多くの小鳥たちから人気があります。でも実際には格別美味しいわけではなく、本当に美味しいブルーベリーなどに偽装する作戦のようです。つまりは、味にかけるコストを抑える代わりに、着色料で鳥の目をごまかした類似品を量産しているようなものかもしれません。一方で、干した果実は不老長寿の生薬、「女貞子」として利用されてきた一面もあります。

ネズミモチの実

ネズミモチの実

トウネズミモチの実

トウネズミモチの実

日本には、葉の厚みや形が異なるネズミモチとトウネズミモチの2種類が生育しています。しかし、近年ではこの2種に加え、第三のネズミモチ、コミノネズミモチ(別名シナイボタ)を見る機会が増えてきました。

ネズミモチの葉、左が表、右が裏

ネズミモチの葉、左が表、右が裏

トウネズミモチの葉、左が表、右が裏

トウネズミモチの葉、左が表、右が裏

コミノネズミモチは、近縁の種類と長らく混同されてきた経緯があります。一般の植物図鑑でも、ごく最近まで別種のセイヨウイボタと誤って表記されていました。さらには、中国産のコミノネズミモチを含むこの仲間全般が「セイヨウイボタ(プリベット)」という名称で園芸店などに並んだことで、混乱に拍車をかけました。

コミノネズミモチの花

コミノネズミモチの花

コミノネズミモチの実

コミノネズミモチの実

そんないわく付きのコミノネズミモチ、葉や枝の感じはネズミモチよりもイボタノキとよく似ています。小ぶりで質の薄い葉っぱや、葉柄があることが見極めるポイントです。私の住む多摩ニュータウンでは、公園樹として植栽されていますが、鳥によって種子が運ばれることで野生化が進んでおり、その動向に注目しています。

コミノネズミモチの葉、左が表、右が裏

コミノネズミモチの葉、左が表、右が裏

最後にもうひとつ、とっておきのネズミ植物を紹介します。それは、花そのものがネズミの顔に見える植物です。ネズミの顔といえば、一世を風靡したミッキーマウスツリーが有名ですが、日本の草花だって負けていません。写真の花たちをご覧下さい。ミッキーの顔に見えませんか? 皆さんも、ネズミ顔の植物を見つけたらぜひ教えて下さいね!

マルバツユクサ

マルバツユクサ

マルバツユクサ。まるでチューチュートレインのよう

マルバツユクサ。まるでチューチュートレインのよう

オオヒナノウスツボ

オオヒナノウスツボ

小林健人(こばやし たけと)

小林健人(こばやし たけと)

1987年生まれ。長池公園副園長、NHK文化センター町田教室講師、森林インストラクターほか。幼少期から自然に興味を持ち、フィールドで過ごす時間は年間300日を超える。多摩丘陵の里山を拠点に、自然環境の調査・管理保全・環境教育など幅広く活動中。得意分野は野生植物の分類と身近な野鳥の生態。著書に『新八王子市史 自然編』八王子市(分担執筆)、『長池公園の野鳥』NPOフュージョン長池ほか。

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