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原種の雪割草に魅せられて  -大野好弘-

原種の雪割草に魅せられて  -大野好弘-

雪割草、学名をヘパティカ(Hepatica )という早春に咲く植物です。日本にも自生があり、さらに品種改良が進む園芸種は多彩な花を見せてくれます。そんな雪割草、日本だけではなく世界にもたくさんあります。ここでは、野生種のヘパティカを愛し、原生地を巡り、株を育てて研究している大野好弘さんに、その魅力を伝えてもらいました。

チェルシーフラワーショーでの雪割草(製作・展示 ジョンマッシー 2016年)

チェルシーフラワーショーでの雪割草(製作・展示 ジョンマッシー 2016年)

花菜ガーデン「世界の雪割草展」から(製作・展示 大野好弘 2017年)

花菜ガーデン「世界の雪割草展」から(製作・展示 大野好弘 2017年)

世界の雪割草

世界には、雪割草、正確にはへパティカの仲間は18 種類あります。元々「雪割草」とは日本で園芸的に呼ばれる総称名で、雪割草はキンポウゲ科スハマソウ属、学名でいえばアネモネ科へパティカ属の植物です。ただし、ユキワリソウとカタカナ表記するとサクラソウ(プリムラ)科のユキワリソウを意味します。また、表記はスハマソウ属が正しく、ミスミソウ属と表記するのは誤りです。ヨーロッパのへパティカ・ノビリスはスハマソウに非常に近く、日本の雪割草はノビリスの変種になっているためです。

 

※表記のHは、学名へパティカ属の略

ヨーロッパに自生するH・ノビリス

ヨーロッパに自生するH・ノビリス

世界の北半球にスハマソウ属は分布しています。アメリカ大陸にはアメリカーナアクティローバがあります。ヨーロッパにはトランシルヴァニカ、ノビリスの変種のグラブラータピレナイカノビリスがあり、また、学名のまだない小型種のピグミー(仮称)があります。

H・アメリカーナ

H・アメリカーナ

H・アメリカーナ

H・アメリカーナ

H・アクティローバ

H・アクティローバ

H・アクティローバ

H・アクティローバ

H・トランシルヴァニカ

H・トランシルヴァニカ

H・トランシルヴァニカ

H・トランシルヴァニカ

H・ノビリス・グラブラータ

H・ノビリス・グラブラータ

H・ノビリス・ノビリス

H・ノビリス・ノビリス

H・ノビリス・ノビリス

H・ノビリス・ノビリス

H・ノビリス・ピレナイカ

H・ノビリス・ピレナイカ

中央アジアにはファルコネリ、東アジアの中国にはアジアティカ、ヘンリー、ヤマツタイ、韓国にはインスラリス、アジアティカ、マキシマがあります。

H・ファルコネリ

H・ファルコネリ

H・アジアティカ

H・アジアティカ

H・ヘンリー

H・ヘンリー

H・ヘンリー

H・ヘンリー

H・ヤマツタイ

H・ヤマツタイ

H・インスラリス

H・インスラリス

H・インスラリス

H・インスラリス

H・マキシマ

H・マキシマ

ファルコネリに魅せられて

そんな中で、中央アジアのキルギスなどに分布するへパティカ・ファルコネリは、ヘパティカの祖先となる種類です。つい最近までは、自生の姿がなかなか確認されることがなく、幻のへパティカと言われていました。そして、2014年 4月、その自生地を訪れることができました。キルギスの自生地までの道のりは、飛行機を乗り継ぎ車での移動を含め28時間ほどかかりました。

ファルコネリ

ファルコネリは、静かに、深い森の渓流添いの岩間に、その白い花を咲かせていました。真っ白な花弁が陽光にキラキラと輝き、その神々しさに言葉を失ってしまいました。初めて観た原生するファルコネリは、アネモネのようなイメージで、花弁(花弁状がく片)は多くが5枚で、葉の形もアネモネに似ていました。通常、雪割草の花弁は6枚以上なのです。それまで、雪割草の交配種の花の変化に美しさやすごさを感じていましたが、この出会いで、原種が持つ野趣あふれる自然さ、穢れなき美しさを再認識しました。
私と雪割草との付き合いは35年にも及び、ファルコネリだけでなく、世界各地の原種や日本の野生種を集め、研究に日々費やしました。もちろん、それまでの交配種もつくりながら、私は原種の世界に力を入れることにしたのです。

H・ファルコネリ

H・ファルコネリ

日本の雪割草

日本に自生するスハマソウ属は、世界的に見ても魅力あふれる原種たちです。日本にはヴァリエガータ(スハマソウ)、ヤポニカ(ミスミソウ)、マグナ(オオミスミソウ)、プベスケンス(ケスハマソウ)、キャンディダ(アシガラスハマソウ)、ザオエンシス(ザオウスハマソウ)があります。そして、スハマソウ属の南限は日本の九州です。
日本以外の国では、スハマソウ属は1000メートル以上の亜高山帯から2600メートル近くの高山帯に多く自生していますが、日本のスハマソウ属のヴァリエガータ(スハマソウ)は30 メートル前後の低地に自生する稀な存在です。オオミスミソウも新潟では低地から低山ぐらいに自生しています。では、それぞれの魅力を解説していきましょう。

ミスミソウは花の色です。世界のどのへパティカにもない、黄色やクリーム色の花が咲く個体があります。また、花弁数も9枚から18 枚になる個体が多く、ガーベラのように咲いて可愛い姿を見せてくれます。

ミスミソウ
ミスミソウ

ミスミソウ

オオミスミソウは、野生の個体でも花模様や花の形の変化が豊富です。自然の中で生まれた多様な花色・花姿は嫌味がなく凛としています。これだけさまざまな変化が見られるのは、世界のヘパティカの中でオオミスミソウだけです。

オオミスミソウ

オオミスミソウ

ケスハマソウは何タイプかあります。関西のタイプはメシベの柱頭が大きく紅色の個体があり、海外でも人気があります。その紅色のメシベは純白の花弁によく似合い色映えします。また、山陰のタイプは花弁の底に色が入る花があり独自の雰囲気を持っています。

ケスハマソウ

ケスハマソウ

スハマソウは花弁の色は白か薄いピンクと派手さはないのですが、ふくよかな花弁で咲く姿が、全体的にやんわりとしていて、心が和みます。

スハマソウ

スハマソウ

新種の発見

大好きな植物の新種を、自分の手で発見したい、そんな気持ちをお持ちの方もいるでしょう。そしてもし発見できれば、植物好きとして、人生の上でも至福のときになります。そんなことを思いながら日本のヘパティカの分布域を見ていくと、いくつかの空白域がありました。その空白域を一つずつ調べていけば新種に出会えるのでは、と私は考え新種探しをはじめました。そして、私はついに新しいヘパティカを日本で発見することができました。

新種の雪割草、アシガラスハマソウ(左)とザオウスハマソウ(右)

神奈川県には東部にスハマソウが、丹沢山系にミスミソウが自生しています。しかし箱根山系には今までヘパティカの自生地は確認されていませんでした。その箱根山系の外輪山、私の研究所の近くでヘパティカの自生地を探しました。いくつかの目星を付け探しました。そしてある情報をもとに山の奥深くに、結構な難所を進みながら、いくつもの滝を越え、開けた谷に出た瞬間、なんとも言えない清々しい香りが漂い、見渡すと、そのガレ場の斜面に純白のドレスを纏った小さな妖精が目に入りました。

ガレ場の斜面に咲くアシガラスハマソウ

ガレ場の斜面に咲くアシガラスハマソウ

ヘパティカでは珍しく日差しを浴びキラキラ光る光沢のある葉は裏が赤く形も重なりがなく独自のフォルムです。花弁は6弁で純白、オシベの葯には色がある個体もあります。そして何よりも、このヘパティカは清々しい香りがします。箱根外輪山の足柄で発見したヘパティカなので、和名をアシガラスハマソウ、学名を花の特徴でもある「純白な」の意味のキャンディダと命名しました。

 

アシガラスハマソウの自生

アシガラスハマソウの自生

もう一つのヘパティカは蔵王山系で発見しました。東北地方の太平洋側にはスハマソウがあるとされていました。しかしスハマソウは元来標高のあまりない里山に自生しています。東北地方で考察している中、友人から標高の高い山中にヘパティカの自生地を見つけたと知らせがありました。開花の時期を待ち訪れました。まだ雪の残る標高700メートルほどの明るい雑木林にスハマソウとはまったく違うヘパティカが一面に自生していました。ピンク色のカタクリと一緒に白い花がたくさん咲き、お花畑のようでした。葉にはマーブル模様があり、両面に毛状の物がたくさん生えていました。サイズも大きく日本のスハマソウの中では最大級です。花はスハマソウ属独自のフォルムでおしべはよじれます。また、花茎にグラデーションがあるのも特徴です。和名は蔵王で発見したためザオウスハマソウとし、学名は地名からザオエンシスと命名しました。

ザオウスハマソウの自生
ザオウスハマソウの自生

ザオウスハマソウの自生

入手と栽培

好きな花で、新しい種に出会える機会はなかなかあるものではありません。私はとても幸運な出会いに恵まれましたが、それも好きだからこそだと思っています。

ところで、雪割草を育ててみたいと思った方はいませんか。ここでは入手と栽培について簡単に解説します。 日本のオオミスミソウやケスハマソウ、ミスミソウは原種も園芸品種も比較入手しやすいです。それらは山野草店や展示即売会で購入することができます。

オオミスミソウの園芸品種
オオミスミソウの園芸品種

オオミスミソウの園芸品種

ミスミソウの園芸品種
ミスミソウの園芸品種

ミスミソウの園芸品種

ケスハマソウの園芸品種
ケスハマソウの園芸品種

ケスハマソウの園芸品種

また、海外の種類でも、いくつかの種類は入手できます。ヨーロッパのトランシルヴァニカや、アメリカ大陸のアクティローバ。東アジアの、ヤマツタイ、インスラリス、マキシマなどは、展示即売会やアルペンフラワーを生産販売する専門ナーセリーで入手できることがあります。

雪割草展示即売会の売り場風景

雪割草展示即売会の売り場風景

私のところでは、1~5月までどこかの国の原種が咲いています。原種は、自生地の環境を見るとさまざまです。よって日本の雪割草、特にオオミスミソウと同じ栽培では、すぐに枯れてしまいます。あくまでも、高山植物や山野草と認識し栽培します。

いろいろな種類が咲くハウス内

いろいろな種類が咲くハウス内

基本は、素焼き鉢を使い気化熱効果を利用し、鉢の中を冷やすこと。自生地により用土のpHが違うため必ず調べてからpHを合わせて、各種類ごとに培養土を配合し植えます。使う種類は、パーライト、バーミキュライト、軽石、硬質鹿沼土、硬質赤玉土、コンポストなどを配合します。また、表土には、芽と根のつなぎ目が夏傷まないように小石を敷きます。鉢土が乾いてから鉢底から水が出るまで十分な水やりをします。11月から4月末までは日向、5月から10月末までは全く日の当たらない風通しのよい場所に置きます。絶対に日に当ててはいけません(アシガラスハマソウを除く)。高山植物や各種の山野草を育てている方なら、きっと上手に栽培できると思います。

培養土づくりが大切

培養土づくりが大切

花だけではなく葉も楽しめる

花だけではなく葉も楽しめる

園芸研究家紹介

大野 好弘(おおの よしひろ)

大野 好弘(おおの よしひろ)
園芸研究家、1973 年 神奈川県生まれ。幼少より植物に親しみ、その後、山野草やコケの育種を手がける。特に雪割草の育種研究は35年以上の経験を持つ。現在、世界の雪割草を研究するため、ワールド・ヘパティカラボラトリーを設立、大学との共同研究も行う。また、コケリウムの講師としても活躍中。陰日性サンゴを専門とするプロのアクアリスト。主な著書に『ザ・陰日性サンゴ』(誠文堂新光社)、『雪割草の世界』(エムピージェー)、『苔の本』(グラフィス)、『コケを楽しむ庭づくり』(講談社)、『苔の本Ⅱ』(エスプレスメディア出版)、がある。NHKテキスト『趣味の園芸』では山野草の今月の管理・作業 (2017年4月〜2019年3月)を執筆、『園芸JAPAN』では 「雪割草の世界」を好評連載中。

※写真撮影:大野好弘  ※写真・文章の無断転載はお断りします

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