更新日:2021.03.03
明治神宮の森 100年目の今
東京都心に広がる広大な森、明治神宮の森です。木の大きさや森の姿から、昔ながらの原生林が残されていると思っている方も多いかもしれません。しかし、ここは人工的に創られた森です。その明治神宮の森は2020年、創られ始めてから100年が経ちました。冬のある日、明治神宮の森がどんな森か、人が入れる境内を歩きながら見てきました。
JR原宿駅の改札を出て、西口に向かうとすぐに三ヶ所ある境内入口のうちの南参道口に出ます。一の鳥居をくぐる前に境内に入る際の注意書きとしてある「定」を読んでいきましょう。そこには、
一、車馬を乗り入れること、
一、魚鳥を捕ること、
一、竹木を伐ること、
とあり、さらに右境内に於いて禁止する、とあります。大正9年11月1日が、明治神宮が創建され鎮座祭が行われた日で、一般参賀が初めて許可された日ともあります。大正9年は1920年ですから、創られた森もここから数えて2020年が100年目という訳です。
さて、一の鳥居をくぐって、砂利道を境内へと進みます。入るところから参道の両側は、大きな樹が並びます。明治神宮100年の森が始まりました。今は、多くの樹が常緑広葉樹で、もう何百年も前からここにある森のような景色を見せていますし、そんな空気も流れていますが、この森は明治神宮の造営とともに荒地を開墾し、ゼロから造り始めた人工の森だということを知ると、驚かざるを得ません。そして、森づくりには全国から約10万本の献木があり、のべ11万人の若者の勤労奉仕で、70万平米という広大な敷地に木を植えていきました。しかし、その広大な敷地の中で、人が入れる部分はわずか1割程度、残り約9割は基本人が入れない神のエリアとして何も手を入れないまま、100年を歩んできました。
それでも、これまで何回かの生物調査は行われてきました。そして、100年目を迎えるために2013年から16年にかけて行われた大規模な境内生物総合調査で、さまざまなことがわかったと言います。この森に暮らす動植物は約3000種、新種や絶滅危惧種もあります。樹木に限っていえば、森づくりがはじまった当初は、約365種12万本の木々針葉樹も数多くがありましたが、今は234種3万6千本と種類も数も減りましたが、ほぼ照葉樹の森になりました。しかし、それは木々が自然淘汰を繰り返して森が育った結果であり、実は、この森づくりを計画した当時の本多静六、本郷高徳、上原敬二等の林学の専門家の予想通りの結果でもあります。ただ一点違っていたのが、彼らの計画では150年後の姿が、100年で見られている、ということです。彼らもそれには驚いているのではないでしょうか。
森を眺めながら参道を歩いていくと、石造りの橋を渡ります。「神橋」です。橋の下は清正井戸からの清水が流れています。さらに進むと左に1本の木が見えてきます。立札があり、代々木の地名の由来解説があります。代々樅の大木が育つ地ということからの地名だそうです。この木は二代目とありました。さらに進むと右には全国から奉納された酒樽が並びます。知っている名前もあれば初めてみる名前もあり、日本酒の奥深さとお神酒という言葉の意味を感じることができました。実は、その反対側には葡萄酒の奉納もあります。
さて、北参道と合流するところに大鳥居(二の鳥居)があります。木製の鳥居としては日本最大級で、樹齢1500年の台湾産のヒノキづくり、高さ12メートルになります。柱のヒノキの裂け目に顔を近づけてみましたが、ヒノキの香りがほんのりと感じられました。
そして、参道の端では、落ち葉を掃く人の姿がありました。長い箒を用いて掃いていきます。「はきやさん」と呼ばれている人です。こうして集めた落ち葉は、100年前からずっと捨てるのではなく再び森に戻しているそうです。自然の循環を実践してきているのですね。
さらに参道を進みます。途中、左に明治神宮御苑の入口があります。入ってみました。冬枯れの景色が続きますが、参道から覗くだけの森を少し中で見ることができます。最奥には、清水が湧き出る清正井戸があり、春の新緑、6月のハナショウブ園、秋も紅葉と楽しめます。池の周囲では、鳥たちがたくさん遊んでいるのも見られますし、明治神宮の森を体感できる貴重な御苑です。春になれば、もっとたくさんの花や緑に会えるでしょう。
ふたたび参道に戻り、本殿へと向かいます。本殿前の広場に入ると、本殿に向かって左に姿の美しいクスノキが見られます。そして仲よく2本並んでいます。「夫婦楠」(めおとくす)と呼ばれている銘木です。本堂にお参りをして、西参道方面へと向かいます。この日は、北側や西側の森の中を行く参道が侵入禁止となっていたので、原宿口へ戻る線路沿いの参道を戻りました。
創建が始まったころは、線路がこのあたりから延びて、資材や献木を運び込んでいたようです。途中、原宿駅の改良前まであった初詣用のJR改札口のあとが見えました。また、当時から線路沿いには公害に強い樹種が植えられたといいます。
こうして原宿口に戻ってきましたが、広大な明治神宮100年の森、私たちの目に触れる部分はわずかですが、林学の専門家が取り組んだ世界でも類のないゼロからの壮大な森づくり、ノーベル賞ものの実験ではないとも言われています。そして、この森づくりはまだまだ続きます。春の森をまた見に行きたいと思います。
取材・構成 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。