北海道チーム、初挑戦でゴールド受賞 ‘漢方の庭’
5月21日(火)、プレスデーの次の日の早朝、各賞が発表された。長きに渡る準備と、思いも寄らない出来事の連続などは、チェルシーフラワーショー で庭づくりを進める上でいつものこと。最後まで粘りきる事が勝利を勝ち取る最大の秘訣ではないかと、私は思う。それでも日曜日に審査が終了し、月曜日のプレスデーは何となく今までの戦いから解き放たれた空気感が、チェルシーフラワーショー の会場全体に漂う。どことなく皆お祭りムードになる1日。そして迎える翌日の賞発表の朝。自身の経験から言えば、食事は喉を通らず、聞かなかったことにはできないか、そんなことも思いたくなる朝を迎える。そしてその瞬間。
どれだけうれしかったに違いない。この瞬間で今までの辛さや頑張りはすべて報われる。さっそくデザイナーの柏倉一統さん(以下、柏倉さん)と佐藤未季さん(以下、佐藤さん)に話しを聞いた。
柏倉さんによれば、ブリーフと言われる審査内容に大きく関わる書類について、アセスメントの際に口頭で説明が求められるという事を想定し、施工、植栽、すべてにおいてコンセプトの組み立てと共に検討を重ね練りに練って作成したという。確かにそのコンセプトを聞いてみると、漢方の植物に必要なミネラルの供給の為に、また供給する方法としての水の流れには鉄を使うなど、その理由をブリーフにわかりやすく反映させており、またその通りに確かに庭に設置されている。ところが、検討を重ねた分だけ現場での調整が難しくなり、施工チームと頭を悩ます事もその分多くあったという。
施工チームには佐藤さんが以前イギリスで学んでいた時からのご縁で日本人の白井達也さんが入っており、その仲間たちが集まり構成されている。施工の出来上がりは遠くから見てもその正確さには驚かされた。
植栽については当初から頭痛のタネだったようで随分苦労したと佐藤さんが話してくれた。とにかく植栽リストにはこだわって、これについても練りに練った。でも調達の出だしが遅かったので供給ナーサリーとのコミュニケーションには随分手を焼いたそうだ。出発前にも問題が起きており解決できないままイギリス入り。何とか持ち直し施工当日を迎えるが、今度は注文したアイリスに花芽がついていない、あれだけ確認したはずなのに。でも施工のデットラインは待ってはくれない。1秒でも早く気持ちを切り替えて策を考え前に進むしかない。
こうして迎えたアセスメント、審査の時。ここまで庭をつくりきれた事に、二人は支えてくれた皆様に感謝しかないと言い、私は結果を持って恩返しをできたふたりに、とても清々しい気持ちで一杯になった。
そして忘れてはならない石原和幸さん、15年近くチェルシーフラワーショーで庭を作っている。今回も、アーティザン・ガーデン部門でゴールド受賞。独創的な庭のバランスと経験値により、ここのところ間違いなくゴールドをとっている大ベテラン。今年の印象はいつもより紅葉や苔類が減り、その分都市型の庭に収まりそうなプライベートルームを取り入れたデザインになっている。庭に入るとすぐ目の前の人混みの喧騒とは裏腹に、気持ちのよい水音と、空間による開放感が、日々の忙しさからほっとできるつくりになっている庭の名前はそのコンセプト通り、‘グリーン スイッチ’である。いずれにしても、日本からの二組がともにゴールドを受賞したのは、大いに喜びたいし、現地でも注目の的になっている。
チェルシーフラワーショー2019から
今年のチェルシーフラワーショー では、ショーガーデンカテゴリーと言われるメインのカテゴリーにはベテランのデザイナー勢が顔を揃え、ともかく質のよい庭が並んだ。施工はどの庭も完璧。植栽については近年のナチュラルスティックスタイルと言われる技術が多く見られ、色彩はどことなく淡いトーンとなり、以前からそこで咲いていたかのように見せる事で勝負をするデザイナーが多かったように思う。
今年はキャサリン妃のイメージをRHS(英国王立園芸協会)の特集としてデザインした庭も。木々に囲まれたつくりになっており、中央には丸太を使った子どもたちの遊び場が。‘自然な庭へ’と題し、家族が集い、自然に触れられる空間となっている。プレスデーにはウィリアム王子と共にエリザベス女王を迎えていた。
審査の対象となる3部門でのベストインショー
2019年のチェルシーフラワーショー を通し感じた事は、環境についての配慮を促すコンセプト、メッセージをもつ庭が多かった事。自然と向き合って仕事している園芸業界の私たちはとかく自然の中で何かが変わる瞬間に気づく事が多い。私たちが声をあげて伝えていく事は大切な役割であると思っている。そう意味でも2019年のチェルシーフラワーショー は充実した内容で仕上がった庭が集まったショーだと私は感じている。
写真&リポート 佐藤麻貴子
佐藤麻貴子
ガーデンデザイナー、ガーデナー
東京の老舗ホテルを退社後、英国で園芸学・ガーデンデザインを学ぶ。英国 チェルシーフラワーショーや長崎ハウステンボス ガーデニングワールドカップでは数々の金賞を受賞しているガーデンデザイナーのコーディネーターを務める。
2011年 makiko design studio を設立。ハンプトンコートフラワーショー2012 に「日本の復興―希望の庭」を初出展。準金賞を受賞。イギリス独特の植栽と、日本庭園を組み込んだ独自のスタイルが文化を越えて好評を博す。
チェルシーフラワーショー100 周年(2013年)では、RHS(英国王立園芸協会) のショー運営本部にて本部長のアシスタントを務め、また、イギリスにあるグレートディクスターでは、現在もガーデナーとして研鑽を重ねるなど、国内外で活動中。