植物に関心のある人なら、日高といえばまずアポイ岳を思い浮かべるのではないでしょうか。かんらん岩という特殊な地質と、千島海流の影響の夏の低温などのため、数々の固有種をはじめ、低標高ながら高山植物が見られる山として有名です。
しかし、日高の花の見どころはアポイだけではありません。その山麓にひろがる低山地から岩礁海岸は、国内有数の花の絶景ポイントです。
まず、5月にアポイ山麓を歩けばいたるところで群生しているエゾオオサクラソウ。鹿がきらうこともあり、むしろ年々増加傾向にあります。トカチキスミレなどとのツーショットが見られるところもあります。このエリアの岩場を探すとソラチコザクラが着生していることもめずらしくありません。さらに、6月の声を聞くころには少し北の日高門別周辺でサクラソウの群生も見られます。
アポイ周辺のかんらん岩エリアに多いスミレのひとつに、ミヤマスミレがあります。ここで見られるものは、ミヤマスミレとはいっても、本州で見るものとはいくぶん雰囲気がちがいます。植物体全体に青みが強く、葉に明瞭な斑の入るものです。葉裏が紫色になるのも特徴です。日高地方だけではなく、幌延、幌加内、旭川、夕張など、北海道の脊梁山脈周辺でこのタイプをよく見かけます。
ほかにも、この季節なら、ヒメイチゲ、ナニワズ、エゾイヌナズナ、コミヤマカタバミ、クシロワチガイソウなど、まだまだ魅力ある植物がいっぱいですが、さらに海岸では夏から秋にかけてもさまざまな植物が咲き乱れます。それは機会を改めて紹介したいと思います。
◎アクセス
現在、JR日高本線は災害により鵡川~様似間運休中、苫小牧~鵡川間での運行となっています。アポイ岳入口の様似までは、代行バスおよび路線バスの利用となります。また、様似、浦河へは札幌からの高速バスも運行中。車利用なら日高道・日高厚賀インターチェンジから様似まで約76㌔、十勝広尾方面からもアクセス可能です。
いがりまさし
(植物写真家、ミュージシャン)1960年愛知県豊橋市生まれ。関西学院大学文学部美学科中退。前後して、自転車で「日本一周笛吹行脚」。その後、リコーダーを神谷徹氏に師事。25歳の時、冨成忠夫氏の作品に出会い植物写真を志す。
印刷会社のカメラマンを経て1991年独立。写真家、植物研究家として、幅広いメディアに出稿活動を展開。2009年ごろより音楽活動を再開。
自然と伝承音楽をお手本に、映像と音楽で紡ぐ自然からのメッセージを伝える活動を全国で展開中。主な著書に、『日本のスミレ』『日本の野菊』(以上、山と渓谷社)、『きせつのくさばな100』など多数。音楽CDに「名もなき旋律」など。
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