ガートルード ジーキルについて
イグリッシュコテージガーデンスタイルの生みの親とも言われるガートルード・ジーキル(Gertrude Jekyll / 1843 -1932年)は、約400ほどの庭を世界中で手がけた女性園芸家です。イギリスにおける産業革命後に起こるアーツアンドクラフツ運動に深く共鳴し、当時画家であり工芸家でもあったジーキルですが、その後、人生の半分を園芸家として過ごしました。アイルランド人で、首都ダブリンで庭師として修行したウィリアム・ロビンソンの影響も受け、従来のイギリス風景式庭園ではなく、自然の植栽と自生植物を生かした庭づくりを行っていきました。また、それまでに培ってきた絵画、工芸の手法を理論とともに、植栽の色彩に生かしながら、四季を生み出す植栽技術を構築します。この手法におけるカラースキームを、日本ではイングリッシュガーデンと理解していることが少なくありません。
私がイギリスで園芸学を学んだ頃は、授業中にスライドで見ることはあっても、当時はその庭の姿がみられる場所はあまりありませんでした。現在では‘復活’という機運の中で、当時のジーキルの植栽計画に戻した庭も多く復活したことによって、その姿を見る機会が増えました。
これは私の見解ですが、女性ガーデナーの時代の先駆を切ったデザイナーであるとも感じています。当時はまだ見られなかった女性のガーデンデザイナーとして、男性と共に安全靴を履きこなし現場を共にしています。その当時のジーキルの安全靴を捉えた写真は、いまでは貴重なものとして残っています。また、勉強熱心だったジーキルはたくさんの記述、資料を世に残してくれました。そのために、いまこうしてその庭が復活し、見ることが出来、感謝の想いです。
さまざまな様式が見られるヘスタークーム
約50ヘクタールにも及ぶその広大な敷地内には英国スタイルの中で3つのスタイルの様式の庭がみられます。
ジョージアン様式 (1714-1837) ランドスケープ、ビクトリアン様式 (1837-1901) テラス&低木ガーデン、エドワーディアン様式 (1901-1910) フォーマルガーデンです。まずはスタイル別に庭を見てみましょう。
年代順に見るエドワーディアン様式のフォーマルガーデン
次に、年代順にエドワーディアン様式、フォーマルガーデンを見ていきましょう。
この3つのうちのエドワーディアン様式のファーマルガーデンにジーキルのデザインがみられます。ジーキルは建築家のパートナーがいました。エドウィン・ルチンです。この庭のデザインはルチンと共に、1904年に工事を開始、1908年に終了しました。ジーキルとルチンの代表作と言えるヘスタークームは、20世紀における大変貴重なガーデンデザインが残る庭として、今も保存されています。
以前のイギリス便りの中でお伝えした、わがスイートホームのグレートディクスターも、エドウィン・ルチンに修復を依頼しています。ルチンの建築には、直線をいかした独特のデザインが施されますが、グレートディクスターでもそのデザインが反映されています。しかし、植栽のデザインのためにジーキルが訪れることはありませんでした。それは、先代のクリストファーロイドのお母様、デイジーが植栽に従事しており、本人が手がけたためです。その血を引き継いだクリストファーロイドは、幼い頃にジーキルと出会っています。その時に「素晴らしいガーデナーになります様に」 とジーキルに言われたとされています。イングリッシュガーデンを継ぐ大切な歴史の1ページですね。
佐藤麻貴子
ガーデンデザイナー、ガーデナー
東京の老舗ホテルを退社後、英国で園芸学・ガーデンデザインを学ぶ。英国 チェルシーフラワーショーや長崎ハウステンボス ガーデニングワールドカップでは数々の金賞を受賞しているガーデンデザイナーのコーディネーターを務める。
2011年 makiko design studio を設立。ハンプトンコートフラワーショー2012 に「日本の復興―希望の庭」を初出展。準金賞を受賞。イギリス独特の植栽と、日本庭園を組み込んだ独自のスタイルが文化を越えて好評を博す。
チェルシーフラワーショー100 周年(2013年)では、RHS(英国王立園芸協会) のショー運営本部にて本部長のアシスタントを務め、また、イギリスにあるグレートディクスターでは、現在もガーデナーとして研鑽を重ねるなど、国内外で活動中。