佐渡島からのたより 夏から秋の野草ぐらし
菊池はるみです。佐渡島は本格的な冬に入りました。2020年の野草ぐらし、夏から秋にかけてのいろいろを振り返り、みなさまにご紹介したいと思います。
※タイトル写真はサドアザミ
夏は、トビシマカンゾウやイワユリ、ピンク色のアサツキの花が岩場を彩り、浜辺にひっそりと咲くスナビキソウやハマナスの花のさわやかな香りをかいだ時に夏が近いのを実感します。
今年の夏は、いつになく長い雨が続き、8月になっても肌寒い日が続きましたが、お盆を過ぎる頃からは一転して記録的な猛暑日が続きました。毎年、避暑を兼ねて海水浴に行くのですが、今年は新型コロナウイルス感染防止として密を避けるために、子どもたちと沢で遊びに挑戦しました。
沢辺では、シュロソウやキクバオウレン、マタタビやツリフネソウをよく見かけました。 さらにカキラン、ナツエビネなどの美しいラン科の花も見ることができました。誰もいない場所で、冷たく清らかな清流に足をつけながら美しい花を眺めると、日々の疲れは一瞬にして取れてしまいました。
野草を香りづけに
暑い時期には大量に消費する飲み物に野草を利用しています。庭に生えるドクダミとゲンノウショウコをブレンドしたお茶は、昔から伝わる野草茶の定番でわが家でも常備しておきます。今年は新たに野草などでクラフトコーラをつくってみたところ子どもたちにも大好評でした。
クラフトコーラの香りづけにも使うクルマバソウは、林の下に自生する多年草で杉の木の下に群生しています。甘い香りは乾燥させると強くなりバニラの代用として利用しています。プリンやカスタードクリームの香りづけに使うのもオススメです。たくさん入れると苦味が出るので少し入れるのが美味しくなるコツです。
秋の野草
ノコンギクやイヌタデが一面に咲き、お年寄りがセンブリを摘む光景をみかけると佐渡の秋を感じます。山の果実もおいしい季節。ガマズミ、アキグミ、ナツハゼは昔のおやつでしたが、直接食べるには少々酸味がキツイのが難点です。生食でのオススメはウスノキの実ですね。
林の中で存在感のあるツチアケビは、毎年同じ場所に生えるので今年はどんな風に育っているのかと見るのが楽しみでした。そのツチアケビ、お年寄りが寝ている最中の尿漏れを治す特効薬として生食したり、強壮剤や婦人病の民間薬として煎じて飲まれてきました。 ただ、バニラの仲間だと教えてもらった時は衝撃的でした。生の状態では刺激的なツンとする匂いと渋い味。けれど乾燥すると黒くなり黒糖のような香りになります。見た目はバニラに近づきます。 お茶にするとほんのり甘いお茶になります。
秋の果実はソースに
島の至るところで見ることのできるガマズミは、冬まで赤い実をつけたまま美しい姿を楽しませてくれます。食用以外にも折れにくく加工しやすい木なので、その昔は即席の釣り竿として利用したり、 雪国には欠かせなかったカンジキの材料に使われていた、くらしに欠かせない大切な木でした。
佐渡オケラ
江戸時代、徳川吉宗の頃に中国から雌株を持ち帰り300年あまり、株分けをしながら、ひっそりと受け 継がれてきたサドオケラ(ホソバオケラ)の花が咲くのは、10月下旬から11 月上旬です。茶花として飾 られたり、箪笥の防虫剤代わりに利用されて来たそうです。戦前まで漢方薬の原料として出荷されてきましたが、島では薬草として利用されることはなかったといいます。
野草の知恵は学校でも
佐渡といえばトキ(朱鷺)。トキと共生する島を目指した結果、世界農業遺産にも登録されました。美しい自然環境を次世代に残すための一環として、学校の課外授業も野草を学ぶ時間を取り入れていただく機会もふえてきました。
いつも子どもたちの視界の中にいた草は、摘んでおままごとにした事はあるのですが、実際に利用できるという事を知り大変驚いていました。薬は病院かドラッグストアで買う事が当たり前になった今、草には 効能もあり、昔の人はそれを自ら摘んで薬にしていた事にも驚いていました。「この草にも名前があったんだね。庭にもいっぱいあるから家に帰ってやってみる‼」と目を輝かせている子どもたちを見ると、私までうれしくなりました。
自然をもっと知りたい、食べてみたいと思う子どもたちが多いことにも驚きました。 うれしい希望と、子どもたちにもっと知ってもらう機会をつくりたいと、新たな目標が湧いてきました。佐渡島も長い冬を迎えています。
写真提供:伊藤善行
菊池はるみ
佐渡野草研究家。昭和55年佐渡島生まれ。高校卒業後新潟市で製菓専門学校を卒業、パティシエとして働く。結婚で佐渡島へ帰島。3人の子どもを育てる母親でもある。暮らしの中で楽しむ野草、佐渡島から全国へ発信している。