バラをもっと深く知る⑬ 多様になり、花色の一つのカテゴリーとして定着してきたハイブリッド・ペルシカ
さまざまなバラの交配系統の中で、最近増えてきているのがハイブリッド・ペルシカ(ロサ・ペルシカ交配種)。
その特徴は花の中央に赤い目(アイ、ブロッチ)があること。
最近その特徴である花の中央のアイの入り方や花形・大きさ・そして香りなどさまざまなバリエーションが増えてきて、「特殊なもの」ではなくなってきました。
育てやすさも向上し、庭・鉢で身近に楽しめるようになってきています(トップの写真は‘アイズ フォー ユー’に囲まれた大木の下のベンチのコーナー:コピスガーデン)。
見つめる眼(アイ)に魅せられて
ロサ・ペルシカは、現在のイランを含む西アジアから中国西北部を原産地とするフルテミア亜属に属する原種。黄色い一重の花で、花の中央にアイ(ブロッチ)と呼ばれる赤い目が鮮明に入ります。原産地が夏は涼しく乾燥した場所なので、夏場に高温多湿の環境下では育ちません。しかしこの花に魅せられた英国のジャック・ハークネス氏とジェームズ・コッカー氏が1967年以来ロサ・ペルシカを利用した交配に取り組み、1985~1989年には‘チグリス’‘ユーフラテス’‘ナイジェル ホーソン’などが作出されましたが、まだまだ生育性に問題がありました。
“アイのあるバラ”次々と登場
その後改良が重ねられ、2008年ごろからさまざまなハイブリッド・ペルシカ品種が生まれ、日本でも新しいカテゴリーとして紹介されました。いずれの発表品種も〇日本の高温多湿の栽培環境下でも十分生育する〇四季咲きで、花は小輪・小中輪・中輪。一重だけでなく、八重咲き品種も生まれています。樹は当初は、枝が伸びつるバラとしても仕立てられるシュラブが多かったのですが、コンパクトなシュラブや木立性などバリエーションが豊富になってきています。
蘭インタープランツ社からは2008年にバビロンローズシリーズが、英ハークネス社からは2009年にペルシャン・ミステリーシリーズが、同年英ワーナー社からはピーター・ジェームズ作の‘アイズ フォー ユー’が紹介されます。
「これがバラ?」と日本発表当初言われながら、10年以上にわたって長い人気がある‘アイズ フォー ユー’。中輪半八重の花の中央に大きくはっきりとしたアイ、地色は薄い藤藤色をベースに微妙に変わります。樹はコンパクトな木立性でよく繰り返して咲きます。
2011年~2012年には米ジェームズ・スプロール氏作出の、樹が小型のハイブリッド・ペルシカ、アイコニック シリーズ3品種が発表されています。
育てやすさ向上、庭でさまざまに利用可能
英クリス・ワーナー氏は、花が原種に近い‘アフガン ガール’(2001年)‘タイガー アイズ’(2006年)などを発表。その後丈夫でよく咲くハイブリッド・ペルシカを発表し続けています。そのはじめに注目された品種が‘アイズ オン ミー’。日本では2011年に発表されました。樹はとても丈夫で、日本でもよく繰り返して咲きます。シュラブとしてもつるバラとしても仕立てられる万能タイプです。
‘アイズ オン ミー’同様、丈夫になったハイブリッド・ペルシカは、庭で低木の花木のようにも利用できます。多少の日陰にでも大丈夫です。
鉢植えでも花いっぱいに
鉢植えでもほかの花色の品種同様楽しめます。
香りを付加
ハイブリッド・ペルシカは微香のものが多いのですが、交配が進み、香りの国際コンクールで受賞する品種も出てきました。先にあげた‘アイズ フォー ユー’は、国営越後丘陵公園で毎年開催される「国際香りのばら新品種コンクール」の第6回(2012年受賞)で、F系銀賞を受賞、「スパイシー~こくのあるクローブ調のスパイシーにヒヤシンスグリーンやヘリオトロープとバニラの甘さを持つ華やかで濃厚な香り」と評されています。最近では2019年受賞の第13回において‘フレグランス ペルシカ’(広島バラ園)がF系銀賞を受賞。香りは「ティー~スパイシーなアニスの香りと蜂蜜の甘さが調和した個性的なティー系の香り」と表現されています。また同品種は開花連続性性・耐病性などを中心に評価する、ぎふ国際ローズコンテストの第18回(2020年受賞)でも金賞を受賞するなど、“家庭でも育てやすい”バラとしても評価されています。地色は白・黄色・ピンクなど微妙に変化します。
バリエーション広がる
海外でのハイブリッド・ペルシカは、中央のアイがはっきりしていて大きいことが育種上重んじられますが、日本で育種・発表された品種の中には、そのアイが筋状に入るものも登場しています。
もっとも気軽に楽しめるハイブリッド・ペルシカの一つで、細い枝先に春や秋はたくさん、その間も多少花が少なくなるものの初冬まで咲き続けます。株はコンパクトで、耐病性がとても高く栽培管理も手間がかかりません。京成バラ園育成品種の中から京成バラ園が木村卓功氏の協力を得て選抜、2020年に発表されました。先が尖る宝珠弁にアイライン。“新しさ”を感じる、都会的なセンスの花と、育てやすさの印象で、人気を集めています。
バラは、好みはありますが、多様性があるからこそおもしろいもの。これらハイブリッド・ペルシカ、花は確かにそれだけで新しさがありきれいで、自然の不思議を感じます。
作り手(育種家)や供給サイド、研究者や専門家は「ペルシカ交配種でよくここまで」と評価します。一方愛好者にとっては、交配の如何に関わらずその花や花色が「きれいだから・おもしろいから」選ぶもの。さまざまな眼の表情で私たちを見つめるハイブリッド・ペルシカ~いまバリエーションが増え生育性も向上して育てやすくなり、ほかの花色同様に、選ぶ品種の選択の幅がますます広がってきたと言えるでしょう。
玉置一裕 Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。
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