日本のクレマチス,カザグルマ
先般、クレマチスの人気の秘密や栽培のコツ、そして育てやすい人気品種を、クレマコーポレーションの渡邉さんに教えていただきましたが、日本に自生するクレマチスもあります。カザグルマです。カザグルマという名前は聞いたことがあるとは思いますが、意外に見たことのない人もいるのではないでしょうか。
群馬県長野原町のカザグルマ
カザグルマは和名で、漢字では風車と表記します。花を見れば誰もが子どもの頃に遊んだ風車を思い浮かべるのではないでしょうか。学名ではClematis patens、キンポウゲ科センニンソウ属のつる性多年草です。日本各地に自生があり、東アジアにも見られます。花弁のように見えるガク片は通常8枚、白または淡紫色の花を咲かせます。また、大輪系のクレマチスは、カザグルマを元に改良されてきました。パテンス系というの はまさに交配親がカザグルマだというのを表しています。
韓国のカザグルマ
パテンス系の人気品種‘ドクター・ラッペル’
同じ改良に用いられる原種クレマチスとしてテッセン(鉄線、C.Floreda)がありますが、こちらは中国原産で、花の感じも異なります。また、日本のクレマチスの一つ、ハンショウヅル(半鐘蔓)もあります。学名がC.japonicaですから、ハンショウヅルの方が日本のクレマチスと言ってもよいかもしれません。さらに、属名のセンニンソウ(仙人草)も山や里でよく見かけますが、学名はC.temifloraで、こちらも日本のクレマチスです。こう見ると、野生種でも日本のクレマチスは多様性があって、興味深いですね。
テッセン
ハンショウヅル
ミヤマハンショウヅル
センニンソウ
カザグルマはどこどこのカザグルマと、自生地を冠して呼ばれることもあり、その変化も多様です。そして日本のレッドリストに載る準絶滅危惧種の一つであり、またいくつかの都道府県でもレッドリストの指定を受けています。野生のクレマチスがどんどんなくなっているというのが実態です。
兵庫県三田市のカザグルマ
そのさまざまなカザグルマを一堂に見られるのが、茨城県つくば市にある筑波実験植物園のクレマチス園です。毎年、5月を中心に公開され、早咲きから遅咲き、さまざまな系統のクレマチスが楽しめます。園芸品種だけではなく、カザグルマも各地の種類が植栽され、花を咲かせます。カザグルマの花期は通常5月の上旬です。
岐阜県関市のカザグルマ
栃木県小山市のカザグルマ
今年、筑波実験植物園でさまざまなカザグルマを見ましたが、多様性がありさらに関心が高まりました。そして、実際に花を見ると、バラなどでは原種と園芸品種の違いはかなりあって、それぞれ好む人が別といってもよいくらいですが、カザグルマに限っては、園芸品種に負けないくらいの花の大きさがあるので、ガーデンで楽しむ花として導入されても園芸品種と遜色ないくらい美しい景色が楽しめそうです。
栃木県塩原町のカザグルマ
広島県のカザグルマ
茨城県東海村のカザグルマ
日本の原種ですから、栽培も大きな苦労を伴うことはありませんし、苗を入手できれば栽培種として家で楽しんでいただくのもいいですね。一つポイントは、カザグルマは旧枝咲きと言って、前年伸びた枝に花をつけます。気をつけて剪定しないと、花の咲く枝を切ってしまい、花が見られなくなります。
茨城県石岡市のカザグルマ
カザグルマ、日本のクレマチスとしてもっと関心を寄せてもよい花だと思います。ただ、自生地の花を見るのはなかなか困難です。ぜひ、来年の春、筑波実験植物園にさまざまなカザグルマを見に行って見てはいかがでしょう。
カザグルマ‘雪おこし’。野生種から選抜された八重咲きの品種といわれている
ガーデンプランツとして魅力的なカザグルマ
*印は筑波実験植物園クレマチス園での写真
取材・撮影 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。