バラをもっと深く知る⑪ 手間がかからないバラ その2 剪定しない方が育ちきれいなバラ
伸びた枝をどこで切ったら良いの?…バラの栽培にあたって大きな手間に感じる作業の一つが「剪定」。
ところが種類によっては剪定しない方がよいバラが多くあります。
チャイナローズやティーローズが代表的で、最近発表のバラにも、同様に育てた方がよいバラが登場しています。
剪定しない方がよく育ちきれい
バラは「剪定するもの」「剪定しなければいけないもの」と思い込んでいませんか? シーズン中ならHTなら5枚葉の上で、枝が伸びるシュラブローズなら伸びた枝の元から2~3芽を残して…。バラ栽培の講習会でよく言われるポイントです。
しかし種類によっては、剪定しない方がよく生育し花を咲かせる品種があります。四季咲きオールドローズの多くがそうで、チャイナローズ(系統記号Ch)やティーローズ(T)が典型です。こういった種類、HTのように勢いよく伸びた枝先に大きな花を咲かせるタイプ、伸びた枝を冬季に切り詰めて枝数を増やシュラブとしての株姿をつくっていく、あるいは伸びた枝を冬に誘引してつるバラとしても使える、枝が伸びるタイプのシュラブローズに比べ、開花の性質が違います。
共通するのは-
①細く短い枝先に花を繰り返して咲かせる
②春一番花はほかのバラより早く開花、たくさんの花が咲く。その後ぽつりぽつりと咲く。秋には花数が増える。9月下旬から10月初旬、11月下旬にはまとまって花を咲かせる。暖地では年明けまで咲くことがある
③株はだんだん樹のかたちになって大きくなっていく
④若木のうちはシュートを出すが、成木になったらあまり出さない。シュートを伸ばそうと冬剪定で深く切るとなかなかシュートが伸びず、大きくならない
⑤殺菌剤を散布しないと適度に葉を落とすが、涼しくなったらまた芽吹き枝を伸ばし花を咲かせる
・・・などです。
花と葉や茎が描く空気感
美観上の違いもあります。大きく、あるいは整って咲いた一輪を観賞するというよりChやTは自然な姿の株に花が咲く姿にこそ魅力があります。春一番花が咲くときを除いて、株全体として花よりも茎と葉の方が多く見えます。花と葉や茎が間に描く空気感にこそ、これらタイプのバラの良さがあるからです。株全体にびっしりと花が咲いていなくても、株姿が整っていなくても、枝がふわっと描く線がきれいです。京都の日本庭園や、長崎県平戸市の武家屋敷の庭で、平戸躑躅の間・槇の木の下や灯篭の手前に植えられていてもまったく違和感がないのは、そのあたりにあるのでしょう。
人の手を加えて咲かせることが基本のHTやFL、最近発表のシュラブローズと比べ、これらはもともと原種や原種間の自然交雑によって生まれ、選抜され命名されたもの。最近「ミステリーローズ」と呼ばれる種類は、古くに導入された品種もあるのでしょが、同様に自然交雑のバラたちも多いものとされています。
剪定によるコントロール不能、放置した方がよい
バラ栽培の専門家たちは、その栽培方法について語ります。
「例えばティーローズはもともと西洋でお墓に“セメタリーローズ”として植えられて生き残ったものも多くあります。管理されなくても生き残ったものです。それらに肥料を多く与えて枝を伸ばし、伸びた枝を切るからやわかい葉が出て、うどんこ病にかかりやすくなります。花がらは切らず、切り戻しもせず、枯れ枝もそのままにして、冬も残った葉を取り去る必要はありませんし、冬剪定も行わなくてよいでしょう」(京阪園芸ローズソムリエ・小山内健さん)。
「かつて剪定して姿を整えて鉢植えにしようとしましたが、枝が自由奔放に伸び、かたちを整えることが不可能。放置した方がよいと思います」(コマツガーデン・櫻井哲哉マネージャー)。
最初はバラの枝を切って育てることに慣れていて、冬剪定もせず、そのまま放置することが不安。しかしその通りに行う(=何もしない)と、確かに春に芽吹きちゃんと花を咲かせるだけでなく、春一番花は、たくさんの花が咲き、その後も繰り返し花を咲かせます。
剪定しなくてもよく育つオールドローズ
ティーやチャイナ以外にも、剪定しなくてよい四季咲きバラは多くあります。オールドローズではポートランドローズ(P)、ノアゼットローズ(N)、ポリアンサローズ(Pol)などです。
ポートランドローズ(P)の代表種‘ジャック カルチェ’。花首が短く、枝もごく短く伸び、剪定するといつまでたっても大きくなりません
剪定しない方がよい最近発表のバラ
最近発表のバラにも、剪定しない方が花の雰囲気を味わえる品種が登場しています。
ふんわり伸びる枝先に咲く中小輪花。‘シャンペトル’(ロサ オリエンティス)は、「“田園風”の花名の通り、何もぜすに、ふわっと咲かせておいた方がよい、少し大きめのシュラブです。「花がら摘みも切り戻しも不要。肥料も、草花に与える肥料のこぼれ分くらいで十分です」(バラの家・ローズクリエイター 木村卓功さん/写真はバラの家実店舗)
バラは「手間をかけて栽培すること」が前提ではない
こういったタイプのバラ、苗のうちには株を大きくするために肥料を与えますが、地植えでは成木となってからは不要。肥料は生長させるために与えるものです。例えば大きく育ったモッコウバラに肥料を与える必要はないでしょう。
また「剪定しなくてもよい」は、「剪定してはダメ」という意味ではありません。剪定しない方がその品種の本来の姿を手間をかけずに味わえる、という意味です。株が大きくなりすぎた、枯れ枝が目立つなどの場合は、もちろん枝を整理してもよいでしょう。
バラの栽培方法はバラの花に対する嗜好と同じように好みですが、必ずしも「剪定するもの」「肥料を与えるもの」「薬剤散布を行うもの」など、手間をかけて管理して育てるバラばかりではありません。庭木のような「低木の花木」として、十分花を楽しめるものです。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。