樹に着けて、育てて楽しむラン
ランといえば、栽培は普通鉢植えだと誰しも思いますが、元々のランの自生環境を見ると、地面に生えるタイプだけではなく、樹の幹や岩盤に着生して生えるタイプも結構あります。
今回、着生するタイプのランを、自生環境と同様、樹に着生させて、育てて楽しんでしまおう!というご提案です。
このタイプのラン、一般に着生ランと呼びます。洋ランではファレノプシス(胡蝶蘭)、バンダ、カトレア、デンドロビウムなどで、日本に自生する着生ランはナゴラン、フウラン、カヤラン、セッコクなどです。
これらのラン、元々着生しているのですから、庭の樹木で育てられないのかな、と思いませんか。もちろん、洋ランは自生地の多くが熱帯雨林ですから、簡単ではなさそうですが、日本に自生する種類ならすぐに出来そうに思えるでしょう。ここでは、自生地さながらの姿での楽しみ方をご紹介します。
環境を調べて種類を選ぶ
年間を通して屋外での栽培になります。そのため、着生させる樹木がある場所の最低温度と最高温度、日の当たり方、風通しなどを、調べておく必要があります。
着生ランは種類により栽培できる最低温度、最高温度がある程度決まっています。特に最低温度を下回ると低温障害により葉を落としたり、バルブが壊死します。また、青紫色の花が美しいデンドロビウム・ヴィクトリア‘レギネ’などは、意外に高温に弱いため、なるべく夏場涼しい環境でないと枯れてしまいます。都心など、冬でも氷点下にならない地域では洋ランのデンドロビウムや、タイミンセッコク(デンドロビウム・スペシオサム)なども着生させることができます。神奈川県川崎市でも長年栽培できています。
着生させる樹木と時期
なるべく樹皮が荒れていたり、筋が入りやすい種類にし、樹皮が滑らかでツルツルとした種類は避けます。なぜならば、ランは幹の筋や荒れている樹皮の溝に根を張り、着生させるからです。樹木の種類はカキ、ニセアカシア、スギ、カヤ、ヤマモミジなどが適しています。幹の太さはビール瓶以上がよいてしょう。
5月から7月が適期です。寒くなると発根しにくく、また種類によっては休眠するため、着生できずに枯れてしまいます。樹につけてから着生するまでに約半年かかります。
着生のさせ方
着生ランを鉢から抜いて、根を折らないように気をつけながら、水ゴケや培養土をすべて取り除きます。それらが、根に少しでも残っていると着生しにくいため、完全に取り除きます。取れにくい場合は水洗いします。その時、洗いすぎると、根に付いているラン菌が流れてしまうため気をつけます。
着生に使う紐は、後に自然になくなる素材、例えば太めの木綿糸かタコ糸などがよいでしょう。いつまでも残るような、釣り糸、針金、ポリエチレンの紐は避けましょう。
根を広げて、幹に直接這わせて、前述の紐で固定させます。着生させる位置、向きなどは、その種類の自生地での写真などを参考にします。また、垂れ下がる種類は垂れ下がるようにします。
3ケ月から半年後には紐は風化するため、ここでは根を痛めない程度に強めに、たくさんぐるぐる巻きにします。この時、根はなるべく上下左右均等に広げます。株元を中心に上下をしっかり巻き、風などで剥がれ落ちないようにします。
水やりと施肥
完全に着生するまでは、鉢植えと同様に水を与えます。着生させた場所に直接水を与え濡らします。半年くらいで着生します。着生後は水は特に与えなくても大丈夫です。雨水を吸い成長します。与えなくても十分成長しますが、花後、液体肥料や活力剤などを施すと、株の回復や成長を促しますのでおすすめです。
高芽が出たら
セッコクやデンドロビウムは、木に着生させるとよく高芽を出します。高芽を出し自生する範囲を広げます。高芽が出ると、高芽からだんだん根を伸ばし、株元近くに根の先を入り込ませます。やがて、着生すると、高芽は外れて活着します。高芽は外さず見守りましょう。
4号鉢くらいの株を着生させてから30年あまり、まるで自生種のような、素晴らしい姿になりました。いろいろな着生ランを着けて、その家のシンボルツリーなどにすると素敵です。
着生ランの入手方法
ガーデンセンターやホームセンターの園芸コーナーで入手できます。また、セッコクやフウランは山野草店で入手できます。
ベランダや適当な樹がない場合は、竹を幅3センチ長さ15センチ〜20センチ程の短冊状に切り、表面をガスバーナーなどで炭化処理します。そして、両端に穴を開けて、針金を通して四角い籠に組み上け鉢底網をセットします。その中央に、セッコクやフウランなどの着生ランを入れて、吊るして栽培するのも一つの方法です。
着生ランを実際に着生させて楽しむ、なかなか夢がある楽しみ方の一つだと思います。実際に活着させて、その姿が自生しているようになるには、それ相応の時間はかかりますが、ランを楽しむ一つの方法として、おすすめしたいと思います。
大野 好弘(おおの よしひろ)
園芸研究家、1973 年 神奈川県生まれ。幼少より植物に親しみ、その後、山野草やコケの育種を手がける。特に雪割草の育種研究は35年以上の経験を持つ。現在、世界の雪割草を研究するため、ワールド・ヘパティカラボラトリーを設立、大学との共同研究も行う。また、コケリウムの講師としても活躍中。陰日性サンゴを専門とするプロのアクアリスト。主な著書に『ザ・陰日性サンゴ』(誠文堂新光社)、『雪割草の世界』(エムピージェー)、『苔の本』(グラフィス)、『コケを楽しむ庭づくり』(講談社)、『苔の本Ⅱ』(エスプレスメディア出版)、がある。NHKテキスト『趣味の園芸』では山野草の今月の管理・作業 (2017年4月〜2019年3月)を執筆、『園芸JAPAN』では 「雪割草の世界」を好評連載中。
※写真撮影:大野好弘 ※写真・文章の無断転載はお断りします