東京花散歩 春の高尾山へ、スミレを見に行く
東京都西部に位置する高尾山。東京の観光地として世界にもその名が知られています。標高599メートル、実は634メートルの東京スカイツリーよい低い山ではありますが、春から秋は花の山としても多くの人々に愛されています。そして、たくさんのスミレが見られる山としても知られています。コロナ禍ですが感染リスクも低いので、3月半ば、初めての高尾山にスミレを見に行ってきました。
この日のスタートは高尾駅。南口で花仲間と待ち合わせて、まずは駅そばの大光寺へ。ここでは、樹齢二百年を超えるエドヒガンザクラと同じく四百年を超えるシダレザクラに出会えました。ソメイヨシノより幾分開花が早いので、ちょうど花が満開です。朝の青空を背景にとてもよいお花見となりました。そしてシダレザクラの株元ではさっそく、コスミレとタチツボスミレが咲いていました。まずはスミレ2種をすぐに見られました。
ここからは甲州街道が小仏川を渡る橋の手前から、河岸を遡ります。蛇滝口まで散策路が続いているので、途中、梅林なども楽しみながら、散策路ではいくつかの野草を楽しみます。時期的にはいささか早すぎるので、ヤマエンゴサクもわずか一株だけ、キバナノアマナもニリンソウも咲いてはいませんでしたが、ツボミは見えたので、今月中には見ごろを迎えるでしょう。
そして、お目当てのスミレ、伐採で日当たりのよい場所ではたくさんのアオイスミレに出会えました。スミレの中でも開花が早く、まっさきに見られる種類の一つです。小さな花がアオイに似た葉の間から咲いている姿は、とてもかわいらしく、春の妖精のようにも思えます。花色も青みがかかっているものが多いのですが、中には白花と思えるくらい色が白っぽいものもあり、青い(アオイ)スミレではなく白いスミレかも、と連れと冗談を言い合いながら楽しみました。
アオイスミレを見て先に進むと蛇滝口、そこから修行の一つ水行を行う蛇滝へと登っていきます。休日は人人人で混み合う高尾山、コロナ禍でもあるので人込みを避ける目的もあって、このコースを選んだのですが、もう一つのお目当て、蛇滝でハナネコノメソウを見ることも目的のひとつでした。たどり着いた蛇滝では、かわいいハナネコノメソウが咲いていました。この仲間には、ネコノメソウ、ヤマネコノメソウ、ヨゴレネコノメソウなどもありますが、断然ハナネコノメソウが人気です。もっとも、ヨゴレネコノメソウも見方によっては味わい深い姿をしているのですが、だれがつけたか〝ヨゴレ”などと、かわいそうな名前を与えられてしまっているのが残念です。
蛇滝からは一気に登ります。途中、タチツボスミレに出会いました。もう少し経てば、あちらこちらで見ることのできる、もっとも親しみのあるスミレです。タチツボスミレは、花色の濃淡や距の長短など変化も多く、さまざまな場所の株を比較していくのも楽しいものです。さらに、この辺りから、かわいらしいヒナスミレやナガバノスミレサイシンも見られました。山上の手前から4号路と言われる登山道へ入り、山頂手前を目指します。
4号路では、高尾で発見されたといわれる植物の一つ、シロミノアオキも見られましたし、高尾山唯一の吊り橋付近では、満開のフサザクラも見られました。このフサザクラ、なんとも地味な花を咲かせますが、サクラの仲間でもないのにサクラなどと名前をつけられて、かわいそうな春の花木の一つでもあります。そして山頂手前でメインルートの1号路に出てトイレに立ち寄りました。山頂への道は予想通り人人人、屋外とはいえやはりいささか感染リスクも考えてしまいます。
手前からは5号路に入り、展望がよく富士山が見える一丁平を目指します。途中、南斜面を回り込むまき道を進みます。人とはあまり出会わない道ですが、この一帯は照葉樹林帯のせいか、これまでにないエイザンスミレが咲いていました。エイザンとは比叡山の叡山です。葉の形があきらかに特徴的で、その姿はなんとなく高貴に思えるのは私だけでしょうか。一丁平は、4月に入ると千本桜の名にふさわしい景色を見せてくれますが、それはまだ。足元では枯草の中にエビネの葉が展開していました。自生のエビネを見るのは意外に少ないものです。
花を見に来たとはいえ、山に来て期待するのはやはり展望ですよね。人込みを避けるので山頂はパスしましたが、ここ一丁平からの展望もなかなかなものです。まずは富士山が見えます。やはり富士山を見たいというのは日本人の多くに共通する気持ちだと思います。富士山が見えるとなぜか気持ちが高揚します。さらに、山へ来て海が見えるのも清々しい気持ちになります。ここからは相模湾が見え、江の島や三浦半島も確認できました。横浜のランドマークタワーも見え、神奈川の俯瞰地図を見ているようでした。
ここからは、城山を経て日影沢林道を一気に降りていきます。ここまでで5時間余り経っています。城山付近からは、4月に入れば一丁平の千本桜のすてきな景色が見られますが、それはまだ先。今咲く花木はキブシばかりでした。なぜかこの辺のキブシは花房の丈が短いものが多いように見えました。未だ残る、アズマイバラのローズヒップやモミジイチゴの花なども見て、降りていきます。山陰に入ると空は明るいままですが、すでに暗くなる場所も。
夕方に近い時間になってきました。途中、タカオスミレにも出会うことができました。他のスミレとは異なる葉の色、銅葉と言われる葉が特徴ですが、とにかくスミレの中でも、〝格好いい”スミレ、として私は認識しています。もちろん、高尾に咲くスミレという希少性もありますが、格好よさが大好きな理由の一つでもあります。しかし、こんなに早く咲いているとは驚きでした。
日影沢林道は、一昨年の秋の台風被害がひどかった道の一つで、あちらこちらでその爪痕が見られました。通行止めが解除されたのもそんな前のことではありませんし、未だに通行止めが続くコースもあります。そして、林道を降りていくと最後に、キクザキイチゲに出会いました。夕方なので多くが花を閉じていましたが、なんとか開いているのを見てこの日の散策も終了、日影バス亭へと向かいます。日曜日の夕方5時過ぎ、すでに多くの人が下山してしまったのか、高尾駅へ向かうバスは空いていました。
3月半ばで少し早いかなと思う高尾山行でしたが、たくさんのスミレにも出会うことができ、他の花も楽しんで春の訪れを体感しました。高尾山は、山の初心者でもケーブルカーやリフトを使って上がることもできます。メインルートの1号路でもいくつもの花に出会えます。そして、花を見に行くなら、自分より花を知っている人、そして行く山を知っている人と行くのがおススメです。そうすれば、コロナ禍でもあり混雑のないコースで、ゆっくりと花と向かいあえる至福のひとときを過ごせますから。東京から身近な高尾山、花の季節はこれからです。
◎高尾山へのアクセス
京王線高尾山口駅から登山路を選択するか、ケーブルカーかリフトで山上へ行ってからルートを選ぶかが一般的。またJR高尾駅北口から小仏行バスに乗車、蛇滝口、日影、小仏それぞれから城山や高尾山頂を目指すルートも花コースとしては選択できる。通常なら、4月半ばまでいろいろなスミレや他の多くの植物が楽しめる。
文と写真 出澤清明
園芸雑誌の元編集長。植物自由人、園芸普及家。長年関わってきた園芸や花の業界、植物の世界を、より多くの人に知って楽しんでもらいたいと思い、さまざまなイベントや花のあるところを訪れて、WEBサイトやSNSで発信している。