更新日:2018.07.05
イギリス便り(6月) グレートディクスターでの庭仕事
「グレートディクスター」
イギリス・イーストサセックスにある、20世紀を代表する園芸家、クリストファー・ロイドの邸宅です。邸宅の歴史は15世紀まで遡りますが、ロイドファミリーが越してきた1910年以降、著名な建築家エドウィン・ラッチェンスによって改装されています。ラッチェンスはイングリッシュガーデンの生みの親とも言われるガートルードジーキルの仕事上のパートナーでもあり、直接グレートディクスターの植栽に関してはかかわっていませんが、さまざまな逸話は今でも残っています。
ロイドは園芸に関わるさまざまな執筆活動をしており、中でも、親交のあったベス・チャトーとの庭に関する手紙のやり取りはとてもおもしろく、ぜひ読んでもらいたいと思います。色彩感覚豊かで、組み合わせの妙がすばらしい植栽は、2006年にロイドが亡くなって以降、弟子のヘッドガーデナー、ファーガス・ガレットによって継承されています。
スイートホーム
私とグレートディクスターとの出会いは、今から7年前になります。2012年に初めてハンプトンコート・フラワーショー に出展した時、ふとしたきっかけで、ヘッドガーデナーのファーガス・ガレットと会う機会がありました。そして、フラワーショーが終わってすぐにグレートディクスターを訪ね、次の年の夏の受け入れをお願いしたのです。
それからの月日は振り返る余裕もなく過ぎてきました。こうしてこの場を頂き、少し振り返ってみると本当にあっという間だったなと感じています。いろんな事がありました。でも、グレートディクスターのガーデナーの一員として、今も帰れる場所があることは、私のガーデナー人生で大切な軸になっています。2012年、私ははじめてのフラワーショーを終え、自分の軸になるような場所を探し求めていたのだと思い起こしています。
では、その場所がなぜグレートディクスターだったのか。ヘッドガーデナーのファーガスは少々変わった、心の熱い人でした。彼が守る庭にはその情熱がみなぎっていました。しかし、私には情熱はあっても、まだ、表現するまでの技術に至っていないことは明らかでした。
今年もこうして帰ってきて庭仕事をして感じる事は、「仕事は貪欲であるくらいがいい」ということです。ここまで育ててくれたファーガスには感謝はつきません。そして経験を重ねるごとに厳しくなるその眼差しには、実は何となく誇らしく感じたりもしているのです。ともかく腕を磨き切って一人前になり恩返しをすること。これしかないように、今年もグレートディクスターで庭仕事をしながら思います。
変化するグレートディクスター
さてそんな6年間ですが、グレートディクスターもどんどん変化を繰り返しています。ファーガスは、挑戦する事がとても大好きで、ひとつとして同じ風景を作らないよう、植栽の組み合わせには気を配ります。
ここ近年の世界の植栽の傾向には、「ナチュラルスティック」いわゆる環境に気を配り、自然な植栽の組み合わせが多く見られます。それはロンドンオリンピックのころから特に高まりました。そしてここ、グレートディクスターでも同じ傾向にあります。
春から夏への模様替え
これからの季節は気温もぐんぐん上がります。暑い日も続きますので、それに備えて、今から適した植栽の模様替えが頻繁に始まります。球根たちの花はちょうど姿を見せなくなり、ともに成長してきたポピーやワスレナグサもタネをつけ終わっているころです。ナチュラルスティックで季節の表現には欠かせないこれらの一年草の時期が、少しずつ夏に向けて変わってきたころとなりました。少しずつプランティングの空間を整理しながらこれからの季節に映えるカンナやダリア、他の花達を全体のバランスをよく見ながら品種を決め、入れ込みます。
前回、チェルシーフラワーショー では黄色系の花をよく見かけたことはお伝えしました。フラワーショーですから事前にプランニングされ、トレンドも気を配りながら作り上げているのはわかります。ところが、今年のグレートディクスターでも黄色の花をよく見かけました。先にお伝えしたようにナチュラルスティックの傾向が高まってから、アンブルと言われる傘のようなスタイルの植物をよく使うようになりましたが、それは白のカウパーセリーというセリ科の類の花です。今年は、至るところに黄色のワイルドパースニップやセリ科リドルフィアの花が広がっていました。
この点についてはファーガスに本当のところの話、直接聞いてみようと思います。毎日顔を合わせていますがなんとも日々忙しく毎日があっという間です。
佐藤麻貴子
Profile
ガーデンデザイナー、ガーデナー
東京の老舗ホテルを退社後、英国で園芸学・ガーデンデザインを学ぶ。英国 チェルシーフラワーショーや長崎ハウステンボス ガーデニングワールドカップでは数々の金賞を受賞しているガーデンデザイナーのコーディネーターを務める。
2011年 makiko design studio を設立。ハンプトンコートフラワーショー2012 に「日本の復興―希望の庭」を初出展。準金賞を受賞。イギリス独特の植栽と、日本庭園を組み込んだ独自のスタイルが文化を越えて好評を博す。
チェルシーフラワーショー100 周年(2013年)では、RHS(英国王立園芸協会) のショー運営本部にて本部長のアシスタントを務め、また、イギリスにあるグレートディクスターでは、現在もガーデナーとして研鑽を重ねるなど、国内外で活動中。