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杏美のキノコ旅日誌4 お遍路キノコ旅・愛媛県

杏美のキノコ旅日誌4 お遍路キノコ旅・愛媛県

杏美のキノコ旅日誌1
杏美のキノコ旅日誌2
杏美のキノコ旅日誌3

 

 

2018年5月9日、大分県と愛媛県をつなぐ船……。私はその日、その船の中にいました。船内アナウンスが流れると、船は愛媛県に向け出港しました。海はべた凪、群青色の水面にはアカクラゲが船の波に当たりながらぷかぷかと漂っていました。船の進む先にある山並みこそ、初めて訪れる〝愛媛県〟なのです。

 

今回の旅ではお遍路+キノコを融合させた〝お遍路キノコ旅〟をしたいなぁと考えていましたので、まずはお遍路装備を整えるために松山市を目指しました。

 

5月とはいえ太陽が沈む頃になると、空気は肌寒くなっていました。背の高い木々で覆われた渓流では水があらゆる障害物に当たる音が聞こえていました。水の流れる音を聞きながら道を下っていると、左方向に異変を感じました。何かがいるようなそんな感じ……。気になったので、その場所をよく見てみると、丸っこい形で黄土色のふわふわした毛。耳と首付近に黒い模様のある生き物……それは、後ろ姿のタヌキだったのです。腕を伸ばすと届きそうな位置にいたのですが、水の流れる音が強いからなのか、いくら物音を出してもタヌキは後ろを向いたままこちらに気がつく様子がありません。

 

「おーい」

 

声をかけてみると、両耳がこちらを向きました。しかし、まだ後ろを向いたままです。

 

「おーい!」

 

前よりも少し強く声をかけてみました。すると、タヌキの首がゆっくりと動きだしました。振り返ったタヌキは一瞬驚いた表情をみせましたが、ゆっくりと歩き出し森の中へと姿を消していきました。こんな間近でタヌキを見ることができるなんて、とても驚きました。

お遍路道

2018年5月11日、昨日松山市で手に入れたお遍路装備。店員さんから似合っていますよ、と言われながらも恥ずかしい私がいました。

 

さて、今日から〝お遍路キノコ旅〟の始まりです。木にくくっている〝お遍路道〟の看板を目印にお寺を目指します。道中、キノコを探しながら歩いていると、

 

「ツキ・ヒ・ホシ…ホイ ホイ ホイッ」

 

どこか聞いたことのある特徴的な声が聞こえて来ました。辺りを見回すと、長い尾がヒラヒラと揺れる小さな黒鳥が目先に現れました。それは、私の大好きなサンコウチョウという鳥でした。この鳥、鳴き声が「ツキ(月)ヒ(日)ホシ(星)」と聞き取ることができ、月・日・星それぞれが光を持つことから「三光鳥(サンコウチョウ)」と呼ばれるようになったそうです。なかなか姿を見せてくれない鳥ですが、今回はハッキリと見ることができました。何かいいことがありそうに感じました。

ギンリョウソウ

△ギンリョウソウ

お寺で御朱印をもらい下山する途中のことです。太陽はだんだん落ち始め、木陰が大きくなって来ました。山道を下っていると、純白のギンリョウソウが道に沿って顔を出していました。まるで道案内をしてくれているようでした。

ウスキキヌガサタケ

△ウスキキヌガサタケ

時計の針は14:00になっていました。ふと右側を見ると黄金色のマントをかぶった美しいきのこが顔を見せてくれました。

 

「やばっ、ウスキキヌガサタケやん!!!」

 

ウスキキヌガサタケは、まず普通では見る事ができません。さまざまな環境条件(発生環境・湿度など)が揃わないと出てこないキノコなのです。私も何度も探しに行ったことがありますが遭遇することはできませんでした。しかし、今、この目の前にいます。そしてさらに驚いたのは、生えている時間でした。普通キヌガサタケの仲間は朝7:00ごろに美しいマントを咲かせ、12:00頃にはキノコ自体がしおれ、虫たちのご飯になってしまいます。何かの条件が重なってこの時間に見られているのでしょうが、なんとも運がよかった瞬間でした。

キノコ

2018年5月12日、今日は地元の方の案内の元、少し山深い場所へと行きました。この森は近くに渓流がありブナやモミなどの木々が空を隠すように生えていました。キノコがないか探していると、一風変わった風景を目の当たりにしました。それは、キノコが案内板を食べていたのです。どういう経緯でこうなったのか。謎は増すばかり……地元の人と意見をし合ったのちキノコ探しの再開です。

オリーブシワチチタケ

△オリーブシワチチタケ(仮称)の全体

オリーブシワチチタケ

△オリーブシワチチタケ(仮称)の裏側

この場所では空中湿度が高いためか、周りの木々や岩には萌黄色をしたコケ植物が繁茂していました。そんなコケ絨毯に一見枯れたような黒っぽいキノコがありました。普通なら通り過ぎるのでしょうが、枯れた表情に少し違和感を覚えました。全体的に黒っぽく見えますが、角度を変えて見ると深蓬色で傘の縁はシワ状の凸凹。そして、下から見るとシミのないクリーム色。少し傘を割いてみると、やや透明な黄色い液が出てきました。

「これは、オリーブシワチチタケ(仮称)だろうなぁ」

枯れているかと思っていたものは、実は新鮮なキノコだったのです。このキノコ、特にキノコの少ない初冬から春にかけて顔を出してくれるので、いつも楽しませてもらっています。

センベイタケ裏

△センベイタケ裏(左)表(右)

重なり合うカワラタケ

△重なり合うカワラタケ

キノコ

△お菓子のようなスジオチバタケ

2018年5月14日、愛媛県も今日が最終日です。昨日は一日中雨で外に出る事ができなかったので、森歩きがとても楽しみでした。雨の恵みを受けたからか、キノコ達もたくさん観察する事ができました。瓦屋根のように重なり生えるカワラタケ、まるでお菓子のように可愛いスジオチバタケそして、ギンリョウソウ、カンアオイの仲間など……、いろいろな生き物が観察されました。森歩きはあっという間に時間が過ぎていきました。その後〝高知県〟に向けて出発しました。高知県では、どのような出会いがあったのでしょうか……。

キノコイラスト
岩間杏美さん
キノコイラスト

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