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バラをもっと深く知る⑩ 手間がかからないバラ その1 ローズペイザージュ

バラをもっと深く知る⑩ 手間がかからないバラ その1 ローズペイザージュ

いまバラ選びにあたって、①「花の良さ」と同時に、②「栽培に手間がかからないこと」が重んじられてきています。

「栽培の手間」とは、主に次の点があげられます。

〇切り戻し・剪定

〇病害虫防除のための薬剤散布

〇肥料やり

〇水やり

この「栽培に手間がかからない」、また手間をかけ過ぎない方がよいバラには、いくつかの種類があります。まず日本でも最近利用が盛んになってきた「ローズペイザージュ」についてご紹介しましょう。日本生まれの新たな品種も登場してきました。



ローメンテナンスのバラ「ローズペイザージュ」

四季を通じて次から次へと咲き続け、景観を花の色彩で彩る。「ランドスケープローズ」「修景バラ」(日本)と呼ばれるローズペイザージュ(フランス語、景観を彩るバラ)。その名の通り公共の場中心に植えられ、ヨーロッパの街並みではよく見かけ、フランスでは一説によるとバラ全体の6割を占めると言われます。



育種上のポイントとしては、ローズペイザージュは丈夫な樹の機能と花の開花の機能に特化していて、葉の耐病性が高く、高温多湿の日本でも殺菌剤の散布は少なめで葉をキープします。花は自然に散るので花がら摘みはあまり必要がありません。切り戻しも不要で、咲いた花の下から蕾のついた短い枝を出し次々と開花します。樹姿はさまざま。つるにも仕立てられる大型の品種から、ごくコンパクトな品種まで。樹姿は枝がふんわり横に広がるタイプと木立性のタイプがあり、木立性では‘ノック アウト’(ラドラー育種、メイアン紹介)が典型で、よく知られています。



少し離れて株全体に咲く姿を観賞

さてこの‘ノック アウト’、丈夫なバラとして知られてはいたものの、つい最近まで日本では「丈夫なのはわかるけど花がおもしろくない」と言われていました。しかしローズペイザージュは近くで一輪を観賞するタイプのバラと違い、少し離れて株全体に咲く姿の色彩感覚を楽しむもの。‘ノック アウト’は2018年世界バラ会議でバラの殿堂入りしました。日本でも折からの丈夫なバラに対する関心の高まりとともにローメンテナンスのバラとして認識され、次第に評価が変ってきて、受賞前後から全国各地の公共スペースやバラ公園で盛んに利用されるようになってきました。

ノック アウト

‘ノック アウト’(横浜市・港の見える丘公園)

増えてきたローズペイザージュ利用のガーデン

2020年春はクローズせざるを得なかったのですが、実は新たなローズペイザージュの庭が数カ所オープンしています。バラだけで構成した庭と、その丈夫さを生かして、草花や樹木などとの混植ガーデンでも利用されています。従来からのガーデンもあわせてご紹介しましょう。

ランドスケープローズガーデン

ハウステンボス(長崎市)の「ランドスケープローズガーデン」は、2011年に実施された「ローズペイザージュ国際コンクール」のコンテスト跡地を利用し2014年にオープン。右の紅色の‘チェリー ボニカ’、左手前‘レヨン ドゥ ソレイユ’など(いずれもメイアン作出)、最新のローズペイザージュや丈夫なバラが植栽されています

キャンディア メイディ ランド

その「ローズペイザージュ国際コンクール」でグランプリを受賞したのが‘キャンディア メイディ ランド’(手前、メイアン)。京成バラ園ローズガーデン(千葉県八千代市)で華やかな色彩で硬い質感のバラと草花をまとめた庭では、ユッカなどともに混植されています。このコーナーは、2020年春に「アポロンの箱庭」と命名されました。

ローズペイザージュ

京成バラ園へ東京方面から電車でいくときの最寄り駅の一つが、東葉高速鉄道東葉高速線の「八千代緑が丘」駅。駅前のロータリーの真ん中の植栽ゾーンは2020年改装され、最新のローズペイザージュで彩られています。紅色が‘チェリー ボニカ’、黄色が‘レヨン ドゥ ソレイユ。

ウェルカムガーデン
ウェルカムガーデン

世界有数の数のバラが植わる岐阜県可児市の花フェスタ記念公園。西口エントランスゲート前に2017年春「ウェルカムガーデン」が設けられました。ローズペイザージュやそれに準じるバラ、丈夫で開花連続性に優れるバラを顕彰する「ぎふ国際ローズコンテスト」受賞品種と草花を混植したガーデンです(写真上)。2020年春、このコーナーを拡充し総計6,300㎡の広大なスペースに5,500株を集めた世界最大規模の広大な「ウェルカムガーデン」がオープンしました(写真下:拡充したコーナーはバラだけを植栽。手前は‘ダブル ノック アウト’)

ローズペイザージュ

花フェスタ記念公園に電車で行く場合の最寄り駅の一つが名鉄「新可児」駅。2020年春、駅前のロータリーにもローズペイザージュの植栽ゾーンが登場。

アプリコット ドリフト

2017年「第33回全国都市緑化よこはまフェア」開催にあたって改装された山下公園(横浜市中区)。「未来のバラ園」には、草花との混植ガーデンが設けられています。写真は小型のローズペイザージュ、ドリフトシリーズの‘アプリコット ドリフト’(メイアン)

中之条ガーデンズ
中之条ガーデンズ

群馬県中之条町の「中之条ガーデンズ」のローズガーデンは2018年に植栽、2020年二度目の春を迎えました。庭全体がとてもアーティスティックな空間で、ガーデンルームごとに景観が変わるバラと樹木・草花との混植ガーデンです。最初のセクションには、ほかの中輪多花性品種ともに、ノックアウトシリーズをはじめとするローズペイザージュが、草花や樹木と混植されています。上の写真は‘ホワイト ノック アウト’とオルラヤ・グランディフローラ。下の写真は‘天の川(あまのがわ)21st’のスタンダード仕立て、銅葉のリシマキア・キリアータ‘ファイヤークラッカー’、その手前に‘リモンチェッロ’(メイアン)を数株列植。黄色を中心としたしっとりとした景観をつくっています。

さまざまなローズペイザージュ

日本で植栽されているローズペイザージュは海外生まれのバラが中心。メイアン社作出・紹介品種が多くあり、最近は中型の品種が多くなっています。海外各社にもさまざまな品種があります。例えば世界的デザイナー‘フィリップ スタルク’の名を冠したアンドレ・エヴ社のローズペイザージュは、日本でも紹介されています。小中輪のコンパクトシュラブです。

 

はなみがわ

日本生まれの品種としては古くから‘花見川(はなみがわ)’(1986年京成バラ園芸 写真:国営越後丘陵公園)や、‘春風(はるかぜ)’がよく知られます。

ローズペイザージュ

それ以降最近まで、日本ではローズペイザージュはほとんどつくられませんでしたが、2020年春、最初から意識されて作出されたコンパクトなローズペイザージュが新発表されました。

リムセ

2020年春発表の’リムセ’(コマツガーデン)。株は高さ0.5×幅0.7mのコンパクトな横張り性。アイヌ語で“踊り”を意味する花名の通り、花径3.5㎝の小さな花が風に揺れて、四季を通じて咲き続けます(写真:コマツガーデン)

手間をかけられない場所や、手間をかけたくない場合に

肥料やりや薬剤散布は、切り戻しや剪定は…。一般にバラ栽培は「難しい」「手間がかかる」という印象がいまだに強くあります。手間をかけることそのものが楽しい方も多いのでしょうが、これらローズペイザージュは、本来手間がかからないように育種されたバラ。用途から機能特化(耐病性と開花連続性)されたバラのカテゴリーです。例えば花がら摘みを行えばきれいな状態を保てますが、行わなくても自然に花は散り、切り戻さなくても自然に途中から短めの花茎が伸びたちまた花を咲かせます。剪定は冬に伸び過ぎた枝や枯れ枝をカットするだけで十分です。

 

しかしそう言うと「まったく手入れは不要」と勘違いされがちです。ローズペイザージュは「ローメンテンス」であって、決して「ノーメンテナンス」ではありません。とくに飛んでくる害虫の防除や、鉢植えなら水やりはもとより、栄養分が流れ出やすいので適切な施肥は必要でしょう。シーズン中でも枝が伸び過ごて邪魔になった枝はカットしたいものです。必要なときの必要なケアは行いましょう。

 

また最近ほぼローズペイザージュの機能(高い耐病性と、樹勢がありながら枝が伸び過ぎない性質、開花連続性など)を持った品種が増えてきました。例えば「ローズペイザージュ」とカテゴライズされてはいませんが、‘ニューサ’(ロサ オリエンティス、写真)などの品種などです。さらにごく最近は中輪・中小輪で、コンパクトな株姿を保って咲き続けるローメンテナンスの品種も次々と発表されています。これら品種は、草花との混植ももちろんOKです。バラは年々進歩しています。

ローズペイザージュ

ローズペイザージュをはじめとする機能に優れた手間がかからないバラは、これからも公共の場への利用がますます広がっていくでしょう。家庭でも手間をかけられない場所への植栽や、手間をかけずに四季を通じてバラの花を楽しみたい方に、とても向いている種類のバラといえるでしょう。

 玉置一裕 

玉置一裕 Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。

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