バラをもっと深く知る㉘「咲き方」に注目
「上を向いて咲く花が良い」「イヤイヤ少しうつむいた方が」…私たちが実際の花をぱっと見て感じている「咲き方」は、あまり意識されていません。
ところがこれがそのバラの個性を決め、品種選びのポイントにもつながっています。
分かれる好みと愛好者層
上を向いて、少し斜めに首をかしげて、さらにうつむいて咲く…。花色や花形・花の大きさ、そして樹形はバラの入門書にも書いてあり分かりますが、「咲き方」についてはあまり触れられていません。
しかし実際に咲く花の姿を見て「これがイイ」と感じた経験がある方は多いハズです。そう感じさせる主な理由は「咲き方」です。
この春、2022年秋から2023年春に発表された花と株姿を実際に見て、花色や花形は別に、愛好者の反応は典型的品種で2つに分かれました。一つは上を向いて咲く木立樹形の一つ、もう一つは枝を横に広げて咲くシュラブ樹形の品種です。
上を向いて咲く品種の一つが‘さくらいろ’。京阪園芸F&Gローズ「ローズアロマティーク」の2023年春発表の中大輪花。樹は直立性の木立樹形です。まっすぐ伸びる茎と単花咲きの花が目に入ります。
株全体に小中輪花をふわっと咲かせるのが、ロサ オリエンティス プログレッシオ2022年秋発表の‘シルクロード’。枝をふわっと横に伸ばして咲き、花だけでなく樹姿が目に止まります。伸びた枝を利用してつるバラ仕立てもできます。
花を見るか、咲く株姿を見るか
咲き方はそれぞれのバラに対する好みが分かれるところです。一般に古くからバラに親しんできた方や栽培してきた方は「上を向いて咲く花」が“バラらしい”と思うでしょう。花そのもの良さがよく分かります。バラを「花」で観賞したい層です。
一方ガーデニングブーム以降にバラに魅せられた層は、斜め横に茎をやわらかく傾げたり、うつむき加減に咲く品種を。やわらかさがあって草花ともよく馴染み、庭で草花などと一緒に自然な感じで「咲いている姿」も想像するでしょう。
実際に上記2品種の評価は、愛好者層によって分かれています。調べてみると、上を向いて咲く木立樹形の品種がイイという方には、長年のバラ栽培経験者に多くいました。一方ふわっと枝を横に伸ばして咲くシュラブ樹形の品種を支持するのは中級者か、庭でバラを育てている層です。造園関係者からは絶賛の声がありました。
なお最近バラ栽培を始めたばかりの方の評価は、分かれていました。
標準は房咲きで、枝が真っすぐでても花は少し横を向く
上記は典型であって、実際はその中間くらいのバラが多くあります。花一輪の良さを観賞するのには花が大きめな方が。
最近多いのは中輪から中大輪の品種です。ほとんどが数輪の房咲きになり、茎が上を向いていても房咲きになったとき外側の花は傾いて咲きます。
茎全体は房の重みでやや傾き、枝が細ければなお傾き、丸く仕上がった株全体を見れば、下の方の枝ほど傾けて咲きます。2023年春発表品種の中では、例えば‘ル タン デ スリーズ’(デルバール)があります。
咲き方と枝の出方が生むバリエーション
上を向いて咲く花・ふわっと横を向いて咲く花、全体のバランスがとれていればどちらかが良い・悪いというものではありません。
そのバラの花・株全体に咲く印象は、花の大きさや花形・花弁(剣弁高芯咲きや丸弁カップ咲きなど)、枝の出方や長さによっても変わってきます。枝の出方と咲き方が最終的に樹形となり、木立・木立性シュラブ・シュラブなどさまざまなバリエーションが生まれています。
上を向いて咲く品種は従来は株の上部にしか花が咲かず、株元から花までが空く品種も多くありましたが、最近は剪定方法によって上から下まで花を咲かせることができる品種も多くなってきました。
それら品種は、最上部は上を向いて咲いても、下の方の花は横を向きます。苗のうちは上を向いて咲かせ、株の生長にしたがって姿が変わっていく品種も多くあります。
現実に販売されている鉢苗開花株はみな同じように見えて、なかなか判断できません。イベントやバラ園などで、成木の実際の花だけでなく、咲き方・樹姿を見て感じて、品種を選ぶことをおすすめするゆえんです。
玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。
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