【果樹栽培】【栗の育て方】|栽培のポイントなどを知っておいしい栗を収穫しよう!
栗といえば、秋を代表する食べ物のひとつです。甘栗や栗ご飯、モンブランなどさまざまな食べ方があり、秋が来るのが待ち遠しい方もいるでしょう。
また栗には食物繊維やカリウム、ビタミンなどが含まれ栄養価が高く、健康維持や美容もサポートしてくれます。
おいしく栄養価も高い栗ですが、「自宅で栽培してみたいが難易度が高そう」と考えて諦めてしまう方も多いのではないでしょうか。
「桃栗三年柿八年」という言葉もあるように、栗が収穫できるまで3年以上かかるとされています。
栽培期間は長いですが、その分しっかり手入れをしてあげることで数年後においしい栗の実がつきます。
今回は栗の育て方の基本情報やポイント、病害虫の防除などを紹介します。
栗とは?
栗を育てる前に覚えておくと役立つ基本情報や栗の品種、苗の選び方などを紹介します。
栗の基本情報
栗は落葉広葉樹のブナ科クリ属で、学名をCastanea crenata(カスタネア・クレナータ)といいます。
日本で多く栽培されている栗ですが、ヨーロッパや中国、アフリカ、アメリカ、朝鮮半島など世界中のさまざまな地域にも分布しています。
日本では和栗という種類の栗が多く出回っており、そのほかにはヨーロッパ栗や中国栗などが有名です。
栗の木は10mを超えるまで生長するため、しっかり剪定して高さを管理しないと手入れが難しくなります。
栗は地植えで育つイメージを持つ方も多いですが、鉢植えでも栽培可能であるため自宅で気軽に栽培できます。ただ、収穫するためにはきちんとお世話しなければいけません。
栗の特徴
栗は寒さにも暑さにも強い植物で、環境が悪くなければほとんどの土壌で栽培が可能です。栗は5~6月頃にブラシのような見た目の白い花が咲き、特徴的な匂いが周囲に漂います。
この匂いにハエなどの虫たちが引き寄せられ、花粉を運んでもらって受粉します。
栗は1本では実がつきにくい「自家不和合性」という性質を持つため、さらに違う品種を近くに植える必要があります。
受粉して実が大きくなってくると花の付け根に緑色の果実が実り、生育するにつれてトゲトゲしたイガが大きくなって茶色に変わります。
収穫時期には、イガの皮が開いて中から栗の実が出てきます。
栗の花言葉
栗の花言葉は、「贅沢」「豪奢」「満足」です。昔、栗は滅多に食べられない高級品だったことが花言葉の由来といわれています。
栗の歴史
縄文遺跡から多くの栗が出土しており、大昔から日本に存在していたと考えられています。
平安時代に京都の丹波地方で栗の栽培が本格化し、万葉集や古事記に丹波地方は「栗のふるさと」と記されています。
当時、米の代わりとして栗が年貢で納められるくらい貴重な食べ物だったようです。
栗の栄養
栗には下記のような栄養が含まれています。
ビタミンB1
糖質を分解してエネルギーに変換する働きをします。運動などで多くのエネルギーが必要になるときにビタミンB1を積極的に摂取すれば、エネルギーを補うことが可能です。
ただ糖質を過剰に摂取し続けた場合、ビタミンB1が不足してしまうので注意しましょう。
ビタミンC
ビタミンCは、体の中に増えた活性酸素を取り除き、さまざまな病気の予防に効果が期待できます。
また美容にもよいとされ、シワやシミの予防が見込まれます。
通常なら加熱することで栄養価が下がるビタミンですが、栗はでんぷんで保護されているため加熱して調理しても栄養価はさほど変わらないとされています。
カリウム
体内の過剰な塩分を排出する働きがあるのがカリウムです。塩分の過剰摂取は高血圧の原因となるため、カリウムを適量とることで高血圧の予防にもつながります。
食物繊維
食物繊維は、腸内環境を整える働きが期待できます。積極的に食物繊維を摂取すると、腸内の細菌が活発化して便通が改善されるとされています。
また、血糖値が上がるのを防いだり、コレステロール値を下げたりする効果も期待できます。
栗の品種の種類
ほかの品種と比べたときの収穫スピードによって、栗は下記のように分類されます。
早生(わせ):生育が早いため、収穫時期が最も早くなります。
中生(なかて):生育が中間なのを中生といいます。
晩生(おくて):生育がゆっくりで収穫まで時間がかかるものを晩生といいます。生育は遅いですが、実が大きい、収穫量が多いといったメリットがあります。
栗の種類
栗にはさまざまな品種があり、それぞれ特徴が異なりますので紹介します。
筑波
収穫量が多く病気や天候の影響も受けにくいため、全国で広く栽培されています。
筑波栗は尖った先と白い粉のようなものが付いていて、1粒28g程ある大きい品種です。栗の実を食べると、ちょうどいい甘さと栗の香りがお口の中に広がります。
丹沢
早生の代表である丹沢は「乙宗(おとむね)」と「大正早生」を掛け合わせた品種で、8月下旬くらいから購入できます。
国内でも広く栽培され甘さと香りはそれほどありませんが、質のよい味わいを楽しめます。大きさは20~25g程あり、果皮は明るい茶色なのが特徴です。
銀寄(ぎんよせ)
銀寄は、天明の大飢饉があった江戸時代に栗を売りさばいたところ、かなり売れて銀札がたくさん集まったことが由来とされています。
ほかの品種より平べったい見た目で、1粒25gと大きいのが特徴です。ツヤっぽい表面と底との境目がはっきりしています。
甘さと香りもよく、マロングラッセといったお菓子にも使用されています。
石鎚(いしづち)
細長い見た目で1粒20~25粒というゴロッとした品種で、果皮は赤茶色、葉肉は淡い黄白色をしています。
貯蔵性に優れており、栗を長く楽しみたい方にもおすすめの品種です。
また、甘露煮などの加工品にも適しており、クリタマバチといった害虫にも強いのが特徴です。岸根と笠原早生を掛け合わせて作られています。
利平
日本産の栗と中国栗の天津甘栗を掛け合わせて作られたのが利平で、さまざまな栗の品種がある中で「栗の王様」といわれるほどおいしい品種です。
1本の木に少量の実しかならないため、あまり出回ることがない幻の栗ともいえます。
鬼皮が固いので剥きにくさを感じるかもしれませんが、実はほかの栗より剝きやすくなっています。見た目はコーヒー豆のように色が濃く、丸くてふっくらしているのが特徴です。
国見
石槌と丹沢を掛け合わせて作られた品種で、昭和58年に品種登録された栗です。
早生なので早いと9月上旬くらいから手に入り、お彼岸に出荷のピークを向かえます。
とても育てやすく、収穫まで安定しているのが特徴です。1粒25gあり、ホロホロとした食感で香りと甘みはあまり感じられないため、加工品に向いています。
岸根(がんね)
1粒30〜40gもある大粒の栗です。まろやかでおいしく、ほかの品種と比べても質のよさが際立つ品種のひとつです。
日本で国の推奨品種とされており、海外でもその名が知れ渡っています。筑波栗や石鎚栗の祖先としても知られています。長く保存ができ、料理にも適しています。
伊吹
銀寄と豊多摩早生を掛け合わせて作られた品種で、昭和34年に品種登録されました。
1粒20g程の質の高い早生栗でほどよい甘さがありますが、栗の香りはさほど感じません。9月上旬~中旬くらいにシーズンを迎えます。
世界の栗
栗は世界中に分布しており、世界でもさまざまな品種があります。栗の特徴も原産国によって異なりますので紹介します。
ヨーロッパ栗
南東ヨーロッパや西アジアが原産国の品種です。主にフランスやイタリアで栽培が行われ、マロンの名で知られている栗です。
洋菓子の材料に使用されたり、焼き栗にしたりするのに適しています。病害虫に弱いため、国内で栽培する方はほとんどいません。
中国栗
中国華北地方が原産の品種で、天津甘栗として国内で有名です。小さい実で甘さがありますが、食べる部分が固いのでお菓子などには向いていません。
栗の選び方
丈夫な苗木から育てた方が確実に収穫できます。青々としてハリのある葉っぱで、黄色い葉っぱがないものを選びましょう。
苗木の選び方が不安な場合は、園芸店などで植物に詳しいスタッフに聞いて苗木を選ぶのもおすすめです。
収穫時期が違う品種を栽培するのもおすすめ
栗は1本では実がならないとお話しました。いくつかの栗の木を栽培することになりますが、ここで違う品種の苗を植えて収穫時期をずらすとより長く秋の味覚である栗を楽しめます。
栗は品種によって8月下旬から収穫が始まり、遅い品種だと10月上旬に収穫できるものもあります。
たとえば、「早生と中生」、「早生と中生と晩生」、「中生と晩生」というように収穫時期が異なる品種を選ぶと長く栗を食べられます。
ただし、片方の花は咲いていても、もう片方の花が咲いていないと受粉できない可能性があるため注意しましょう。
栗の栽培スケジュール
下記が栗の栽培スケジュールです。地域や気候により、変動します。
- 植えつけ:12月~2月
- 肥料(庭植え):2~3月、6月、10月
- 肥料(鉢植え):2~3月、6月、10月
- 開花期:5~6月
- 収穫期:8~11月
- 剪定:12~2月栗は、だいたい上記のような過程を繰り返して生長します。新梢が発芽してから7月頃まで伸長し、根っこは4月中旬、8~9月中旬頃にもっとも伸長します。
栗の栽培方法について
栗栽培におけるポイントなどを紹介します。
栗の栽培に適した環境
栗の木には、日光が欠かせません。庭植え、鉢植えともに、よく日が当たる場所で育てるようにしましょう。
また、地植えで栽培する場合は電線に当たらず、隣の家に邪魔にならないような場所を選ぶのもポイントです。栗の木は最終的にかなり大きくなります。
栗の植えつけ
栗の苗は、11~12月の休眠落葉期が適期です。春頃に植えると生育が遅くなるため、新梢の付きも悪くなります。
【植えつけの手順】
鉢植えで栽培する場合、下記を用意しましょう。
- 鉢底石
- 8号の植木鉢
- 果樹用の土、もしくは野菜用の土と鹿沼土を7:3で混ぜたもの
- 支柱
- 栗の苗木
- 緩効性肥料『マグァンプK大粒』
- 植物用活力液『リキダス』
- 鉢底石を鉢底に敷き詰め、鉢の半分まで土を入れる
- 元肥として『マグァンプK大粒』を土に混ぜ込みます。
- 栗の苗の根を広げて中心に置き、その上から土を入れる
- 支柱を立て、括りつけたら先端を少し切りつめる
- 植えつけ後は水をたっぷり与える
その際に根の活着促進のため植物用活力液『リキダス』を1,000倍に水にうすめて、たっぷりと与えましょう。
地植えの手順
- 堆肥、石灰、緩効性肥料『マグァンプK大粒』を適量混ぜておく又は、堆肥と肥料成分がペレット状になった『土を豊かにする肥料』がおすすめです。『土を豊かにする肥料』は、肥料効果と同時に土の中の微生物の働きをうながします。
- 直径70㎝、深さ50㎝くらいの穴を掘り、肥料を混ぜた土で埋め戻す
- 苗木の根を広げ、浅めに植えつける
- 支柱を立て、括りつけたら先端を少し切り詰める
- 植えつけ後は水をたっぷり与える
その際に根の活着促進のため植物用活力液『リキダス』を1,000倍に水にうすめて、たっぷりと与えましょう。
苗木を植える前によく耕して、『土を豊かにする肥料』を使って土づくりを行うことで、生育がよくなります。はじめに畝を作ってから植えつけると、水はけがよくなり根腐れ防止にもなります。
栗の水やり
鉢植えの場合、鉢の土が乾いたらたっぷり水を与えましょう。鉢の底から水が流れるくらい与えるのがポイントです。
水やりをしっかりすることで土の中の通気がよくなり、養分の交換になるためタイニングを見て水やりを忘れずに行うことが大切です。
地植えの場合、それほどこまめに水を与える必要はありません。土の中は雨水などが染みわたることで、ある程度保水されて根っこが水を吸収します。
ただし、夏の暑い時期に雨が降らない日が続いたら土が乾いてしまい、栗の木の生育が悪くなる可能性があります。
土の状態を見て乾いてそうだったら、20~30リットルほどたっぷり水を与えましょう。
栗の肥料
栗の肥料は、年間を通して元肥、追肥、お礼肥の3回に分けて与えます。一回で過剰な肥料を与えるのではなく、適期に適量を与えることが重要です。
2月頃に寒肥として、ゆっくり効果が続く有機質を含む肥料を与えます。
『土を豊かにする肥料』は、堆肥と肥料成分がペレット状になっているのでおすすめです。
6月になったら果実の肥大を促すために緩効性肥料で追肥を行います。
追肥には、バラまくだけで肥料効果が約2~3カ月間持続する『Plantia (プランティア)花と野菜と果実の肥料』がおすすめです。
9~10月にお礼肥を与えて木を回復させていきます。
『Plantia (プランティア)花と野菜と果実の肥料』は、植物の生育に必要な成分をバランス良く配合した有機入り緩効性肥料です。
栗の樹形
栗の樹形は、地植えと鉢植えともに「変則主幹形」が適しているとされています。
幼木期に主枝が3~5本くらいを目安に伸びた枝を剪定して整え、強い土台を作ります。結果母枝や生長しすぎた枝を切り取り、日当たりを確保することでよく生長します。
栗の木は10m以上大きくなる樹木のため、6年目頃から約4mの高さになるように主幹を切っておくとお手入れもしやすくなります。
この作業を芯抜きといい、樹冠の中にも太陽の光が当たるようになるため安定して栗の実が実ります。適当に剪定していくのではなく、栗の木に適した樹形にすることが大切です。
摘果は必要?
栗の摘果は栗農家でも行われておらず、基本的に必要ない作業です。鉢植えで栽培する方は、1本の枝で1つの実が実るように摘果します。
栗の収穫
栗は収穫時期になると、イガのまま地面に落下してきます。イガのとげに注意して、火はさみや厚手の手袋を使用して実を取りましょう。
落下しない栗には、まだ成熟していない栗も混ざっているため落下するのを待つことが大切です。栗の実を収穫したら、イガは焼却処分するか、土に埋めて処理してください。
放置すると、病害虫が発生して栗の木に影響を及ぼす可能性があります。
【栗拾い時の服装】
- 長袖長ズボン
虫が多い時期なので、肌を露出しないように気をつけましょう。
- 帽子
イガが落ちてくる場合もありますので、帽子をかぶって頭を守ります。
【おいしい栗の見分け方】
- 外の硬い皮に張りがある
- 鬼皮が濃い茶色
- 指で押してもぶかぶかしない
- 底の部分が黒くなっていない、ベトベトしない
- 白いブツブツがない
【栗の保存方法】
冷蔵庫で保存する場合はポリエチレンの袋に入れて袋の口だけ折り、4度以下で保存してください。栗は傷みやすいためできるだけ早めに食べましょう。
栗の剪定
栗をおいしく育てるために、しっかり剪定することが大切です。剪定の目的を理解して適切剪定しましょう。
剪定方法
剪定は収穫が終わり、落葉期に入ったら行いましょう。剪定の手順や剪定する部位は下記のようになります。
- 樹が広がりすぎないように、まとめて切り落とす
- 下向きの枝、枝が混みあっているところ、枯れた枝などは切り落とす
- 残した枝の先を少し切り詰める(切り落としすぎると、花芽も落としてしまい、翌年の実がつかなくなります)
枝を切った切り口に癒合促進剤を塗布しておくと、病原菌や枝が枯れるのを防ぐ効果があります。
剪定の目的
剪定には下記のような目的がありますので、よく理解してから行いましょう。
- 日光が奥の方まで届くようにする
- 木の形を整えて、管理しやすくする
枝を地道に切り落とすのは手間に感じるかもしれませんが、今後おいしい栗を実らせるためには非常に大切な作業です。
混みあっている枝を間引くように適切に切り落し、樹木全体に日光を当てて、強い木に育て健康な枝を増やしましょう。そうすることで、実が多くつきます。
また栗の木はしっかり剪定しないと高く生長しすぎて収穫しづらくなったり、はしごを使って高いところで剪定したりしなければならず、ケガをする危険もあります。
木の高さは3mほどにとどめて、管理しやすい高さにすることが大切です。
栗の病害虫
栗の木は比較的丈夫といわれていますが、剪定後に切った枝の切り口や根から最近が侵入し、下記のような病気を引き起こす恐れがあります。
また、害虫も栗の生長に大きく影響しますので注意しましょう。
注意する病気
- 胴枯病
もっとも名の知れた栗の木の病気が胴枯病です。病気にかかった部位が褐色や黒色になって軟らかくなり、木の皮がサメ肌のようにザラザラしてきます。
悪化するにつれて割れていき、やがて枯れてしまう恐れがあります。とくに太い枝を剪定したあとは、癒合剤を切り口に塗っておくと菌の侵入を防げます。
- 実炭そ病
実が早く落果したり、実が腐敗したりする病気です。病気にかかった実は黒くなり食べられないため処分しましょう。実炭そ病にかかったら、殺菌用の農薬を使用するとよく効きます。
また枝の剪定をしっかり行い、日光を全体に当たるように調節して風通しをよくすることで病気の発症を防げます。
注意する害虫
クリミガ、カイガラムシ類、アブラムシ類、カミキリムシ、シギゾウムシといった害虫に注意しましょう。
実に害虫がつくと、果実が食べられてしまいます。また、葉っぱを食いつくす害虫もいますので、見つけたら速やかに駆除してください。
葉っぱを食い尽くされた場合、木は光合成ができなくなるので生長できなくなり木全体をだめにします
まとめ
栗は収穫できるまで長い年月が必要です。そのあいだはしっかり剪定を行い、高くなりすぎないようにコントロールしてお手入れしやすい高さを維持することが必要です。
また不要な枝を切り取り、日当たりと風通しをよくして、病害虫の予防や生長に必要な日光を全体に当てるようにしましょう。
収穫適期が来たら栗は自然に落果するため、足でイガを広げて中の栗を厚手の手袋や火はさみなどを使用して取り出すとイガのトゲが刺さらないのでおすすめです。
収穫後はポリエチレン袋に入れて冷蔵庫で保存するとより長く貯蔵でき、食物繊維やカリウムといった栄養が豊富に含まれている栗を長く楽しめます。
栗にはさまざまな品種があり、それぞれ味わいも異なりますので、自分好みの品種を探して栽培することでより秋が来るのが待ち遠しくなるはずです。