バラをもっと深く知る㊳ 花の芸①グリーンアイ&ボタンアイ
クーリーミーホワイトの花の中央にグリーンアイが入り、清楚な印象を強調する‘シー シェル アイズ’(コマツガーデン2024年)
花の中央にグリーン、またはボタンのような小さな花弁の塊…最近カップ~ロゼット咲きの品種で、グリーンアイやボタンアイを持つ花が目立ってきています。これらがあると花の魅力が一層増し、「かわいさがぜんぜん違う」という育種家もいるほどです。
日本の園芸では伝統的に、植物が通常の姿と違って斑が入ったり、魅力的なかたちになったとき、「芸が出た」ということがあります。それが個性として固定され命名され「品種」として流通することに。たくさん出でる品種は「多芸品種」と言うことも。
バラの花でも、グリーンアイやボタンアイはとても大事な「芸」の一つ。オールドローズの咲き方によくあります。
グリーンアイ
グリーンアイは、おしべやめしべが変化したもの。代表的な品種はダマスクローズの‘マダム アルディ’。純白の花の中央の緑のアイが入り、花の清楚感を一層増します。飾り萼もかわいく、ダマスクの強い香りも。
オールドローズではないのですが、もっともポピュラーなミニバラの一つ‘グリーン アイス’(1971年ムーア)も緑がかった花弁とグリーンアイでよく知られています。
ボタンアイ
花の中央の花弁が外側に丸まり小さくまとまるもの。「ボタンのよう」ということでその名になったこと。ボタンと言っても鉄や貝ではなく、布でくるんだ「くるみボタン」のイメージでしょうか。
ボタンアイが出ると花のポイントとなるだけでなく、花の雰囲気を引き締めます。オールドローズに数多くあり、咲き始めのカップ状態ではあまりよく分かりませんが、平たいロゼット咲きになったときは、とくに目立ちます。さらにその中心にはしべのかたまりの黄色を覗かせることも多く、グリーンアイも同時に出る品種もあります。
ポートランドローズの‘ジャック カルチェ’と‘ホワイト ジャック カルチェ’
ダマスクローズの‘プティット リゼット’
ノアゼットローズの‘アリスター ステラ グレイ’。咲き始めの花にボタンアイ
グリーンアイやボタンアイがきれいないまの品種
イングリッシュローズ
オールドローズの美観を受け継ぎ、四季咲きとしたイングリッシュローズには当然ボタンアイが出る品種が多くあります。初期の品種では‘エグランタイン’(マサコ)はもちろん、‘メアリー ローズ’などにも時折出ます。
近年の発表作の中では‘ザ ミル オン ザ フロス’‘エミリー ブロンテ’(いずれも2018年発表)、‘サイラス マーナー’(2020年)などがあります。
‘ザ ミル オン ザ フロス’
‘エミリー ブロンテ’
‘サイラス マーナー’
京阪園芸
2017年に発表された‘アッサンブラージュ’はオールドローズの風情。花の中央にグリーンアイ、その周囲にボタンアイが入ります。最初のカップ咲きのときは隠れていてあまりわかりませんが、咲き進むと目立つように。
ロサ オリエンティス
2016年発表の‘アリアドネ’の咲きはじめの花にはボタンアイが。
ごく最近の発表品種ではプログレッシオの‘ライオンハート’(2023年)がコーラルと白のバイカラーで、グリーンアイが同時に見られることも。花色が変わってぐっと個性的に。
丈夫な茶色のカップ咲きのプログレッシオ‘ルクソール’(2024年)には、秋花にボタンアイが入ります。
ローズ ドゥ メルスリー
やわらかな咲き方・繊細な花の造形で知られるローズ ドゥ メルスリーにはボタンアイが出る品種が多くあります。
宝珠弁が重なる多芸の‘アジュール’(2020年)
2021年発表、カップ~ロゼット咲きの‘サボン’のボタンアイ。その中から赤いしべが少し覗かせユニークであると同時に、独特のかわいらしさが強調されます。
黄色の珍しいポリアンサシュラブ‘プリュネル’(2022年)
2024年秋発表の‘エトワール ブラン’は、星形の白い花。ボタンアイがきれいに出ます。
形が星形に咲くのでその名(白い星)と名付けられていますが、印象が「‘マダム アルディ’に似通っている」との声も。写真は二番花です。
見つけたら即撮影
これらボタンアイやグリーンアイは、それぞれの品種の大きな個性となっています。しかしどの花にも、どんなときにも出ると言えるものではなく、“出やすい”ものです。だからこそ、芸が出た花をみつけたときのうれしさはひとしお。
咲いた花をぼんやりと見ていると、何か見つめられている気配。そう感じて花をよく見たら、そこにはグリーンアイやボタンアイが。
すぐ、手許のスマホで、写真を撮っておきましょう。家の中に戻って一眼レフのカメラを取りに行っている間に散ってしまうかも…。気に入った品種の、春の開花がいまから待ち望まれます。
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#グリーンアイ #ボタンアイ #バラの育て方 #特集
玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。