バラをもっと深く知る⑦ よく繰り返して咲く、株がコンパクトなバラその1
ひときわ目を惹く深みのあるオレンジ色。株がコンパクトで繰り返して咲き、フルーティな香りが高いイングリッシュローズ‘レディ エマ ハミルトン’(横浜市・港の見える丘公園)
花に十分な魅力。うっとりとする花色とかたち。
香りはある花は強くある花は繊細。
加えて、春から秋遅くまでよく繰り返して咲き続ける。
さらに、枝が長く伸び過ぎて困ることはない-そんなバラが近年増えています。
海外でも半分は株がコンパクトで花数が多いバラに
たくさんの花が繰り返して咲くことを望む愛好者が多いのは、国内外を問いません。「いま目指しているのは、メニー・フラワーズmany flowersのバラの育種」。フランスやドイツの育種家たちが口を揃えて言います。よく繰り返して咲き花数が多い品種の実現は、耐病性など樹の性質の向上や、香りあるバラの実現とともに、近年のヨーロッパの育種の大きな潮流の一つ。加えて「株がコンパクトであること」が最近のテーマの一つになっています。中には「これから育種するバラの半分はコンパクトなタイプ」(デルバール社)というところもあります。その理由には「庭がかつてより狭くなっていること」「大きなバラ植栽スペースをとると管理するのがたいへんだからコンパクトな品種を」「小さいころから自然に親しむことがなく、あまり植物の栽培知識がない」「ほかのさまざまな楽しみや情報が増えて、植物栽培だけに時間がさけない」などがあげられています。
日本では初冬まで花が咲くバラを
日本においては「開花」条件のハードルがさらに高くなります。春から秋早めまでしかバラを観賞するヨーロッパに比べ、日本は四季の変化に富むので、とくに暖地では秋は10月の花だけを見るのではなく、できれば初冬まで花を楽しみたいという人は多いでしょう。ましてやここ2~3年秋もかつてより暖かくなってきていて、10月は雨や台風。従来の秋のバラの盛りと言われた10月中下旬の花は小さめな「夏花」で、11月初旬になってようやく本来の花が盛りになるという気候では、秋遅くから初冬まで花が咲いていてほしいものです。
また欧米と比べて日本ではごく近くで花を見る(見ざるを得ない)ので、花一輪に魅力があることは、とても大事です。一般に花は小さいほど繰り返しよく咲きますが、バラの花の大きさは中輪以上がメーンということになります。
代表的な多花性&コンパクトな品種
最近発表の品種で、花が①よく繰り返し咲く②花一輪でも観賞できる③強い弱いに関わらず香りがある④株がコンパクトで枝が伸びすぎない(樹高1.0m前後)、主な品種を海外生まれで日本で選抜された品種、日本生まれの品種の中から、ピックアップしました。
白いカップ咲きの中輪花は四季を通じてあまり変わらずに咲き続け、フルーティな良い香りも。株はコンパクト。‘ボレロ’(仏メイアン)は、2009年に発表されてからもう10年。すっかりポピュラーになっています。
‘アレゴリー’(仏デルバール)は、クリムゾンレッドから咲き進んで紫味をおびるロゼット咲き中輪花を、細い枝先に咲かせ続けます。ダマスク系の濃厚な強い香り。庭植え(上)と鉢植え(下、写真:花ごころ)。
アイボリーホワイトにほんの少しピンクやアプリコットのニュアンス。ティー系の淡香。‘ステファニー グッテンベルク’(独タンタウ)は、コンパクトな株の上に少し大きめの花を咲かせ続けます。
枝が長く伸び中~大型シュラブになる品種が多いイングリッシュローズの中で‘ザ ポエッツ ワイフ’は株がコンパクト。色褪せしない黄色の中輪花を、細い枝先に花を咲かせます。レモンティーの香り。(写真:軽井沢レイクガーデン)
赤紫と白のバイカラー(複色)のカップ咲きの花がうつむき加減に。ダマスク・フルーツ・スパイシーな強い香り。ロサ オリエンティス(バラの家)の‘オルフェオ’は、小さめの株に春から初冬まで咲き続けます。
‘恋きらら’(京成バラ園芸)は、さわやか黄色の花弁の先が尖った中輪花が房咲きになって、コンパクトな株に春から初冬まで咲き続けます。ヒヤシンス様のグリーン・フローラルノートにスパイスのアクセントがある香りも。
モーブピンクの波状弁が重なり、スミレやシトラス、そしてバラなどさまざまな香りが混ざり合ったアロマチックな香りが漂う‘フィネス’(京阪園芸F&Gローズ「ローズアロマティーク」)。中大輪花が、春から初冬までよく繰り返し咲き、株はコンパクトです。
これらのバラは、四季を通じて花が楽しめるのと、株がコンパクトなので、庭なら前の方に。鉢植えにすればふわっとこぼれるように咲きます。最近は耐病性など樹の性質がさらに向上した品種が年々増えていますので、いま特別に丈夫とは言えませんが、花の魅力は十分以上。管理は通常でOK。頻繁に手を加えなくてもコンパクトな株に花を咲かせ続けます。シーズン中は花がら摘みや、適切な病害虫の防除は行いましょう。ただし細い枝に花をつける品種が多く苗のうちは深い剪定をせず、春一番花は咲かせて楽しみ、その後は蕾を取り続けて生育を促した方がよいでしょう。冬剪定も浅めで。育ってきて太い枝がでるようになったら、深く切り戻してもOKです。身近な場所に植えて、じっくり育てて、春・夏から初冬までの暮らしを彩る花と株姿、香りを楽しみたいものです。
ガーデンチェアの傍ら、セイヨウボダイジュの枝張りの周りでコンパクトに咲く‘アイズ フォー ユー’(英ジェームズ/ワーナー紹介)。中央に紫色のブロッチ(アイ)がある特徴的な花で、スパイシーな香りも。(栃木県那須町コピスガーデン)。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。