バラをもっと深く知る⑰ いまのバラのスタイル HTスタイルのバラをほかの植物と混植
大きな花が上に伸びた枝先に咲く~HTは従来花をすぐ近くで観賞するもの。
庭では花の良さを楽しむために、バラだけを花壇に植えるスタイルが主流でした。
周囲は低い生垣で周りを囲うくらいで、草花との混植はほとんど行われませんでした。
これらHTも近年丈夫な品種が登場してきたことにより、混植ガーデンでも利用されるようになってきました。
写真は、HTの伝統的な植栽方法。バラを芝生と低い生垣で組み合わせている(ニュージーランド・クイーンズタウンのホテルの中庭の‘ジャスト ジョーイ’)。
いまの「HT」
いまの「HT」は、下記のように定義することができるでしょう。①花が大きい②四季咲き③樹が直立(半直立)木立性。交配が複雑になって、育種上はいまのバラはみなシュラブといいますが、いま、直立性シュラブで花が大きい品種が「HT」または「HTタイプ」と分かりやすくするために表現されているワケです。バラのスタイルの一つです。
変わってきた樹の性質と管理法
さてこれら「HT」、従来庭での利用はバラだけの花壇が主流で、ほかの植物は、あっても周囲の芝生と低い生垣くらい。地面は土のままにして、そこに何本かを列植をするスタイルが主流でした。これを「バラ花壇」(ローズベッド)と言います。
これは従来のHTの樹の性質に向いた管理に合っているからです。従来のHTはベーサルシュートで更新するタイプが多く、シュートを出しやすくするためには株元に陽を当てる必要があります。枝を伸ばすためには施肥が必要です。冬剪定は深めに。HTは樹勢はあるが耐病性に劣る品種が多く、シーズン中の薬剤散布は頻繁に行って葉を保ち、それで春一番花、二番花、秋花を中心に楽しむものでした。株の高さは、目線以下が理想。
栽培管理は“決まったこと”を基本通りに“決まったタイミング”で行えば、シーズンには立派な花が咲きます。植栽のデザイン方は近くや株元に何もない方が薬剤散布しやすく、下はそのまま土の面のままの方が施肥等を行いやすく、花がらつみや切り戻し・剪定も行いやすいため、「バラはバラだけで」という植栽パターンになってきたものでしょう。除草はたいへんですが…。
これに対し最近のバラはほとんどが「樹になるタイプ」。「HT」も同様です。最初から花を楽しむのではなく、2~3年かけて樹の姿に育てていきます。「ホントウの花」は樹が育ってから咲きます。栽培法も変化しています。毎年シュートを出させ更新して咲かせるのではなく、苗のうちは摘蕾し剪定は弱めにして生育を促進。肥料は苗のうちは生長を促すために与えますが、成木となって太い枝が出るようになると、あまり必要がなくなります。葉が丈夫になってきた(耐病性が高くなってきた)ので、薬剤散布はかつてほど頻繁に行う必要がなくなりました。シュートは樹に力がついて途中からから出るため、株元を多少草花が覆っても大丈夫になり、庭の混植でも使えるようになってきました。
樹の性質と栽培管理・デザインの関係 「咲く姿」が気になる~花を見る距離の変化
もう一つあげられるのが、バラの観賞する距離が変わってきたことです。バラはたとえ一輪だけでもきれいで見応えがあり華やか。HTは花が大きいのでより華麗です。花一輪を近くで見ても良いのですが、庭で花を観賞するときは、少し離れた視線で見ることになります。そこでどんな風に咲くのか、さらに景観全体の中でどう見えるにか、「咲いたときの株の姿」が気になります。そこにほかの植物があったらなおイイ。花色・大きさ・花期・生育などどんな植物が合うのだろう…そう思ったときが、バラを使った混植ガーデンの植栽デザインの始まりです。
HTをほかの植物と混植
ヨーロッパの利用事例
庭でバラを使う場合は「低木の花木の一つ」と捉え、バラ庭を構成する植物の一つと捉えます。組み合わせ方により、バラがなおきれいに見えます。HTについては、ヨーロッパではその大きな花を生かして①門脇②玄関脇③窓の下④建物の前や壁際に株を大きく など、単植・群植している風景を時折見られます。花が大きなバラは一般に株も大きくなるので、株の高さがヒトの背丈以上と、まるで樹木のように生育させているケースもあります。家庭の庭ではバラの株元や横に、自然な感じで一年草が植えられている場合もみかけます。
日本で、ヨーロッパのバラの植栽のデザインが紹介されたのはガーデニングブーム以降で当時はオールドローズやシュラブローズのナチュラルガーデンの紹介がメーン。イギリスではHTやFLのバラ花壇(ローズベッド)をナチュラルガーデンに対し「フォーマルなスタイルの庭」と区別していましたが、ほかの利用方も含めて紹介されることはごくまれ。公園でも家庭でもナチュラルガーデンが次々と作られる一方、HTは「広い芝生の庭、その奥の花壇」などのスタイルの庭で楽しまれてきました。
高い管理技術と手間で従来のHTとほかの植物を混植
日本にHTの混植ガーデンが無いわけではありません。そ一つが横浜イングリッシュガーデン(横浜市西区)。HTと樹木や草花と混植し、庭としてきれいにみせています。
日本には高い園芸技術があります。キクの傘仕立て、盆栽…、いずれも海外で注目されているものです。バラで言うと盆栽やウィーピングスタンダードなどがあげられるでしょう。これらの栽培にあたっては植物を好みの姿にするのに、日常の手間を惜しみません。横浜イングリッシュガーデンは、日本の生まれの伝統的なHT・FLや世界の銘花を、草花やリーフ類と混植して庭として構成しています。バラの耐病性など樹の性質が年々向上しているのは周知の通りですが、いまのバラに比べそんなに丈夫ではないこれら品種を混植し、丈夫なバラと均等に生育させ、きれいに見せている背景には、手間を惜しまない高い栽培管理技術があります。
増えてきた混植できるHT
しかしバラは丈夫な方が、もちろん管理に手間がかかりません。最近はバラのさまざまなタイプで丈夫な品種が登場し「バラを草花と一緒に、気軽に楽しむ」ことが、愛好者に意識されるようになってきています。
バラの種類では、バラを使ったナチュラルガーデンの主役・枝が伸びる中輪シュラブローズ、いま主流になりつつある中~小中輪で、よく繰り返して咲き株が丈夫でコンパクトなタイプのバラなどがあります。ローメンテナンスで咲き続けるローズペイザージュの庭は単植でも(花フェスタ記念公園のウェルカムガーデンなど)、混植(山下公園など)でもつくられています。さらにロ-ズペイザージュの小型タイプも、少しずつ取り入れられてきています。
HTも同じ。品種によってですが、バラ園の混植ガーデンで、HTとほかの植物を混植している光景をみかけるようになってきました。その一つ、HT‘アプリコット キャンディ’を例にみてみましょう。
HTの混植利用事例~‘アプリコット キャンディ’を中心に
アプリコット色・花径8㎝の中大輪花が房咲きに。四季咲きで花付きが良い。やわらかなティー系の香り。樹は木立性・半直立性で高さ1.5m。メイアン作出、2012年日本発表。
この品種、一つの花を見ても「何咲き」と言えません。半剣弁咲きから開くにつれ波状弁咲きとなり、咲き進んで花色にピンク味が強くなったころ花芯を覗かせます。枝は細めで樹にはしなやかさがあり、春は大きな房に咲き、秋も春ほどではないものの、房に咲きます。
‘アプリコット キャンディ’を混植ガーデンに取り入れ、景観の中できれいに見せているのが、中之条ガーデンズ、京成バラ園、KIOI ROSE GARDENです。プロがデザインするバラ園のコーナーは、家庭での植栽のヒントになります。
中之条ガーデンズ
アーティスティックなバラ庭で知られる中之条ガーデンズ(群馬県中之条町)は、2021年春グランドオープン。人気のガーランドコーナーのダブルガーランドを抜けて、ぐるっとガーランドに囲まれたサークルの周囲の花綱(ガーランド)のすぐ下、柱と柱の間に数本を植栽、草花と混植しています。
中之条ガーデンズの‘アプリコット キャンディ’。木立を背景に、ジギタリスや、株元にはビオラも見える。春の盛りには、見上げればガーランドからあふれるように咲くランブラーローズの小さな花。その下に花を楽しむ木立性品種が草花と一緒に咲き揃い、上から下までが花で覆い尽くされます。
京成バラ園
2つの混植ガーデンが2020年春にオープンした京成バラ園(千葉県八千代市)。やわらかな花色・株姿のバラと草花で構成した丘の上の「アルテミスの花園」に対し、温室前の「アポロンの箱庭」は、華やかな色彩や硬い質感のバラや草花を合わせています。‘アプリコット キャンディ’は、同じく丈夫なHT‘ノヴァーリス’‘ビバリー’などとともに植栽されています。
春の株姿。周囲にマメグンバイナズナなどの草花と混植。
秋はミューレンベルギアと一緒に咲く。花数は少なくても、バラの大きめの花が、白く長い花穂で構成される“面”の中に、幻想的に浮かび上がる。ミューレンベルギアは寒くなる季節を前に花穂を伸ばすので、バラが草花に埋もれていても生育上の影響はない。
KIOI ROSE GARDEN
東京都の指定有形文化財・赤坂プリンス クラシックハウスの周りに設けられているKIOI ROSE GARDEN(千代田区紀尾井町 東京ガーデンテラス紀尾井町内)。南側のクラシックハウス正面正門の脇にHTを列植。‘アプリコット キャンディ’は、‘ヨハネ パウロ2世’‘ウェディング ベルズ’‘王妃アントワネット’などと妍を競い、道行く人を楽しませています。東京ガーデンテラス紀尾井町は2021年5周年です。
南側のプリンス通り側にいまを盛りと咲く‘アプリコット キャンディ’。高木や、プリペットなどカラーリーフの低木・銅葉のニューサイランなどと混植。常緑のリーフ類を背景にバラの花が際立つ。背景には近代的な紀尾井タワーや赤坂プリンス クラシック ハウスが垣間見見え、敷地内へと誘われる。
広がるデザインの可能性
‘アプリコット キャンディ’は「花」一輪よりも、むしろ咲き方・株姿にやわらかさがあり、きれいなバラ。耐病性はアベレージ以上。バラは全体に年々機能進化しています。このように丈夫になって混植に耐え手間がかかりにくいHTは、まだまだあるでしょう。
これらいまのHTをほかの植物と混植する場合の生育上の原則は、バラと草花の間に空気が通るようにするなど、枝が伸びるシュラブ類とほぼ同じ。ただしHTスタイルのバラの多くは花が株の上部にだけ咲き下の方に咲かない品種も多く、バラの花と草花の間が空きがちです。デザイン上バラと草花で埋まる景色をつくりたい場合は、花穂を上に伸ばす中くらいの株丈の草花を合わせてもよいでしょう。
HTは「花の主張が強すぎて混植の庭に合わない」「こう管理しこういうスタイルの庭に植えるべき」というような考え方は、従来の“花を中心に観賞する”HTについて。確かに一つの花でその美しさが完成している剣弁高芯咲き品種に、ほかの花の組み合わせは不要でしょう。樹の性質とそれに合った栽培管理も、それはそれで理にかなっていますが、バラも愛好者の嗜好も、年々変わってきています。
比較的ローメンテンスで、葉がきちんとついた枝・株に咲く姿も楽しむ新しいHTには、まだまだ新しい植栽デザインがありそうです。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。