バラをもっと深く知る㉒ 自然な風情の小輪花で庭をナチュラルに
ごく小さな花が咲き乱れる~いまヨーロッパで注目されているタイプのバラの一つです。
背景にはSDGsもありますが、ナチュラルな風景の実現には欠かせないタイプのバラです。
(トップ写真:ぎふワールド・ローズガーデン「ウェルカムガーデン」の‘ニューサ’)
ヨーロッパで注目
一重や花弁数の少ない小さな花が、春は株を覆うように咲き、その後も咲き続ける~こんなタイプのバラが最近の発表品種で目立っています。
もともとバラの原種は一重五弁。園芸品種ではかつては一季咲きが多かったのが四季咲きとなり、最近は耐病性も向上して来ました。
これらの一重から花弁数が少なく花芯を見せて咲くバラ、とくに白色や黄色の品種にハチをはじめとする昆虫が多く集まるのは、バラ栽培に携わっている多くの人が認めるところ。
その点に、ヨーロッパの環境雑誌がここ5~6年ポリネーター(花粉媒介者)であるハチや昆虫を集める花として注目。
海外のバラ提供者サイドでも一つの流行になって、花の大きさに関わらず最近発表された一重~花弁数が少ないバラの多くを、そのコンセプトでアピールしているヨーロッパのナーセリーもあります。
野生種のようなナチュラル感
そんな中で、2021年パリ・バガテルのコンクールのグラウンドカバー部門で‘ニューサ’(ロサ オリエンティス)が、日本人育種家の作品として初入賞しました。
2020年スペイン・バルセロナのコンクールではグラウンドカバー部門賞を受賞しています。
‘ニューサ’は、木村卓功さんが2014年に発表。白~淡いピンクの小輪一重咲き、株の高さ0.9~1.0mのコンパクトなシュラブです。
‘ニューサ’は、ヨーロッパでは仏アンドレ・エブ社から‘R’EVE d’enfants ’(子供の夢)として販売されています。
同社の育種家ジェローム・ラトゥーさんによると、「いまのヨーロッパの愛好家の嗜好に合った、ボタニカルローズの一つ。
ローズペイザージュより自然で野生種の持つナチュラルなイメージ。
耐病性を前提として、このスタイルの花も今後の自己育種でも目指したい」とのことです。
ローズペイザージュは赤や黄色などの「色の面」をつくりますので、その点は区別して考えられています。
宿根草のようなバラ
米名は Look-A-Likes Phloxy Baby(宿根草のフロックスのような~)。
2018年に日本で発表されたのが‘フロキシー ベビー’。
アメリカの育種家で‘ノック アウト’で知られるウィリアム・ラドラー氏によるポリアンサタイプのバラ。
日本ではメイアン社を通じ京成バラ園芸から販売されています。
花はピンクで底白・花径2㎝のごく小輪花。「金平糖のような」とも言う人もいます。
高さ0.5~0.7mの直立性の株に咲き続けます。花がらを切らなければ、咲き終わった花に実がつき、次に開花した花と実が一緒に楽しめます。
さらに耐病性向上した品種登場
2022年春に日本で発表されたばかりなのが、独コルデス社の‘スターリー スカイ’。
高さ0.4~0.6mのコンパクトな直立気味の株に淡いピンク色・底白の花径3~4㎝の小輪花が咲き続けます。
花弁数はやや多めの10枚以内で花芯をみせて咲きます。
花保ちが良く、均一に生育、耐病性がとても高いので、2020年ハーグ、ニヨン、バーデンバーデン、バガテル、ルロー、バルセロナの国際コンクールで金賞はじめ各種賞を受賞し、2021年にはADR認証も受けています。
ローメンテンンスで繰り返し咲く
これら品種の観賞は、花に近寄ってみるのではなく、株全体に四季を通じて咲いている風情を楽しみます。
春は朝日を浴びて開いていくたくさんの花にシーズンの訪れを感じ、晩秋は斜めの日差しを浴びて咲く花に、何となくもの寂しげな季節を感じます。
性質が丈夫になっているので、管理はローメンテンス。花は散りやすいので、花がら摘みも行う必要はないでしょう。
株から飛び出て枝が伸びることもあまりありません。
切り戻しをするのなら房の花がみな終わったあとですが、それもあまり必要ありません。
何年か放任すると‘ニューサ’も‘フロキシー ベビー’も株が充実して少し大きくなりますが、小さくまとめたければ、冬剪定で伸び過ぎた枝をほかの枝とバランスをとって切るだけで十分です。
離れて見る分にはあまり目立ちませんが、シーズン中はこのタイプの特性としてつきやすいハダニには要注意です。
ナチュラルテイストの庭に
これらは地植えでも鉢植えでも育てられます。
混植の庭や鉢植えの組み合わせでは、中輪や中大輪のバラばかりで単調になりがちな場合のポイントとして。
バラ+バラの組み合わせでも、草花との混植でも庭にリズムが生まれます。
バラだけの比較では中輪品種を中心とする場合には「脇役として宿根草代わり」ですが、組み合わせ方によっては十分主役にも。
列植してヘッジ(生垣)のようにも利用できます。
これら小輪品種、“野のばら”を思わせるような自然な風情で、用い方によって庭やコーナーにナチュラル感を増します。
例えばもともと‘ニューサ’の花名は、ギリシャ神話で大地の女神ペルセポネが侍女のニンフたちと花を摘んだという伝説の地名から名付けられました。
まだ現実にはほとんど事例はありませんが、ナチュラリスティックガーデンの素材としても、これらのバラはぴったりではないでしょうか。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。