色の波と香りに漂う~「波状弁咲き」のバラ②
海外の最近のバラは、現在は耐病性や香りに育種目標が傾注されているので、日本ほど花形の変化が求められず、ロゼット咲き・カップ咲きが主流です。しかし最近はフランスのバラ中心に「波状弁咲き」と言ってもよい品種が増えてきました。
英語での波状弁咲き表現は、よく調べるとラッフルド・ブルーム・フォームruffled bloom formという表現が一般的で、ウェービングwavingとはあまり言われていないようです。花弁だけを表すのはラッフルド・ペタルスruffled petals。しかし日本ではラッフルというとインタープランツ社の「ラッフル・ローズ」の強烈な個性の印象があまりに強すぎて、英語にするとき抵抗があるかもしれません。それはロゼット~カップ咲きが海外ではオールド-ファッションドold-fashioned~オールドローズのような咲き方~と言った方がよく通じたのに、日本ではロゼット~カップ咲きという表現の方がよりしっくりとして、広まったのに似ています。
ファンシーラッフル
花弁が波打ち、しかも弁先に深い切れ込みが入るなど多芸の‘ファンシー ラッフル’。
さてかつて日本で2000年に‘ニュー ウェーブ’発表されるまで、よく知られる波状弁咲きガーデンローズは、‘パーマネント ウェーブ’(1932年オランダ)か、‘エンジェル フェイス’(1968年米スイム&ウィークス)くらいでした。
エンジェルフェイス
モーヴ色のFL‘エンジェル フェイス’
イギリスのバラでは珍しい波状弁咲きのバラの一つが、2016年日本で発表されたハークネス社の‘ペイズリー アビイ’(2013年)。深いクリムゾンの中大輪花がシュラブ状の株に咲き、株全体で個性的です。
ペイズリー アビイ
‘ペイズリー アビイ’。スパイシーな香りがある
フランスではまずメイアン社。次々と新しいスタイルの品種を生み出してきました。現地で今も愛される‘ザ マッカートニー ローズ’(1991年)もその一つ。大きな花は大きな花弁を波打たせ、とても強いローズの香りがあります。日本では剣弁高芯咲きHT全盛の時代の発表だっただけに「半剣弁高芯咲き」とされていますが、生まれた時代が少し早かったかもしれません。いまでも十分以上魅力があります。また世界的にポピュラーな‘レオナルド ダ ビンチ’(1994年)は、「ロゼット咲き」とされ通常はそのように咲きますが、波打って咲くことも。
ザ マッカートニー ローズ
ポール・マッカトニーに捧げられた‘ザ マッカートニー ローズ’
レオナルド ダ ビンチ
波打って咲く‘レオナルド ダ ビンチ’の春一番花
シュラブの‘ウーメロ’(1996年)は波状弁抱え咲き中輪。一番花はとても見事に花弁が波打ちます。大きめの株を覆うようにたくさん咲いたときそれは見事。
ウーメロ
大型シュラブの‘ウーメロ’
「ベルサイユのばら」シリーズの一つ‘フェルゼン伯爵(はくしゃく)’(2009年)は、ラベンダーパープル色の気品あふれる中大輪花。さわやかな香りもあり、アントワネットならずとも惹かれるでしょう。
フェルゼン伯爵
‘フェルゼン伯爵’シトラスとバーベナを思わせる香り
ごく最近発表品種では大輪の‘プリンセス シャルレーヌ ドゥ モナコ’(2014年)。すらっと立ち上がる木立性の株・細い枝先に大きな華やかな花を、上を向いて咲かせます。一輪だけで圧倒的な華やかさ。
プリンセス シャルレーヌ ドゥ モナコ
ローズ・ド・メの心地よくデリケートで甘美な香りの‘プリンセス シャルレーヌ ドゥ モナコ’
花から受けるエモーションを第一に優先するデルバール社。2006年フレンチローズとして日本初紹介以来10年にわたり安定した人気を保つ品種の一つが黒赤色の‘オマージュ ア バルバラ’ (2004年)。樹や葉の丈夫さ・コンパクトな木立性、さらに花首から自然にこぼれるなど、いまフランスで流行りの木立性ローズ・ペイザージュのさきがけとも言えるでしょう。
オマージュ ア バルバラ
‘オマージュ ア バルバラ’は中小輪。スタイリッシュな花の魅力に加え樹がコンパクトで育てやすい
デルバール社と親しいドリュ社は個性的な花が特徴。2014年日本発表以来安定した人気を集めるのが‘ラヴァンデ パルフュメ’(2007年)。中小輪の花は紫色から咲き進み灰色味を増します。枝がやや伸びるので小型のクライマーとして。
ラヴァンデパルフュメ
‘ラヴェンデ パルフュメ’からはとても強いフルーティな芳香
波状弁咲きは花色が明るく多彩になって入り混じると、さらに斬新なフンイ気に。デルバール社の‘ラ パリジェンヌ(2009年)は、最初にフランスの圃場で花を見たとき「いったい何を考えているんだ!(笑)」と思ったほど個性的。黄色とピンクが複雑に入り混じり、波打つ花弁の上に色彩が踊ります。
ラパリジェンヌ
‘ラ パリジェンヌ’黄色とピンクの混じり方は季節によっても変わる。さわやかなレモングラスの香り
フランスはピンク色の表現がとてもたくさんあり、‘ピンク パラダイス’(2011年)の黄色が混じるピンク色はフランスのバラ、デルバールのバラならでは。日本では2017年春発表されたばかりの中大輪花です。咲きはじめは花芯をやわらかく巻き上げ、その花芯を囲むようにしっとりとしたピンク色の花弁が波打って重なります。アルノー・デルバール氏さんはこの品種を「パリジェンヌ」のイメージと言います。樹は木立性でコンパクト、とてもよく繰り返して咲きます。
ピンクパラダイス
アニス・タラゴンとローズの香り、‘ピンク パラダイス’
しっとりとしたアプリコットピンク、咲き進んで淡くなる波状弁咲きなのが2016年秋発表の‘ケルビーノ’。花弁数少なく半八重気味に咲き花芯を覗かせます。小さな浅緑の照り葉に花が映え、小ぶりな株とともに可憐な感じ。中くらいの程よい大きさの花は夕刻になると花弁を閉じて眠りにつきます。この品種、周知の通り『New Roses』2016年秋通巻20号を記念して贈られました。その経緯は・・・毎年恒例のデルバール社訪問時にアルノーさんから突然話があったもの。いつもは何も飾っていない居宅シャトー・アンシネの広間に圃場で見た花が花瓶に生けられていました。最終選抜を終え既に国際コンクール等で受賞したもの、発表間近なもの約10品種くらい。その中から、以前から試作圃場に植わり写真も撮り、気になっていたこの花を迷わず選ばせていただきました。花名も「TamaokiとかNew Rosesとか入れてつけたら」とご提案があったものを、花の雰囲気から、あえてこの恋に憧れるアリアVoi che sapete「恋とはどんなものかしら」を男装のソプラノまたはメゾソプラノの歌手が唄うモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』の小姓名つけさせていただいたものです。曲は聴けばどなたも「あぁこの曲か」と分かるはず。フランスでの販売も決まり、結果的に日本先行販売となりました。
この春の新苗から育ててみたら、気がついたら蕾を房につけています。いちばん最初の花をちょっとだけ見て、その後は蕾を指で取り続けると、秋にはしっかりとしたコンパクトな株に。来春が楽しみです。
ケルビーノ
‘ケルビーノ’。香り表現はレモン・グレープフルーツ+マルセイユドープ・ローズ+パウダリーペッパー
同じような咲き方でも、花色で印象はがらっと変わります。みな年々育てやすくなってきたという裏づけもありますが、やはりバラは花を最初に見たときのインプレッションが第一。惹かれた品種の花の色の波と芳香に身をゆだね、漂うようなひとときを過ごしたいものです。
この記事で紹介された植物について
バラ
学名:Rosa /科名:バラ科 /別名: /原産地:アジア、ヨーロッパ、中近東、北アメリカ、アフリカの一部 /分類:落葉(ツル性)低木 /耐寒性:中~強/耐暑性:中~強
気品あふれるその華やかな姿から、花の女王とも呼ばれるバラ。
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玉置 一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。