最近バラの種類が格段に増え、適切な栽培法もさまざまになってきた。
かつてと比べ格段に増えてきたバラ。花の種類が多様になったのと同時に、樹の性質もさまざまになってきました。
すると適切な栽培法も多様に。
これらを無理なくスムーズに育てるためには、変わってきたバラとその性質・機能の理解が必要になってきています。
一律でいえなくなってきた「バラはこう育てるべきだ!」
「バラは深く剪定するものだ」「苗のうちは深切りは避けるべきだ」。あの先生はこう言い、また違ったこの先生はああ言う。いったいどっちがホント?
正解は「どっちも正しい」です。
そもそもこのような話、話の対象とする品種の種類が違うことが、ままあります。
いまのバラは品種によって適切な栽培法が違います。
苗がしっかりとしていることを前提に、樹勢があり、ある程度太目の枝が出てくるような種類の品種であれば最初から深めに切っても良いし、枝が細めの品種で生育がゆっくりな種類の品種を最初から深く切ると、その後の生育は思わしくありません。
近年バラの種類は、格段に増えてきました。
花色・花形が多様になって選択の幅が広がった反面、樹の性質もさまざまになってきて、剪定はじめ施肥や薬剤散布など「バラはこうやって栽培すべき」と一律で言えなくなってきました。
とくにヨーロッパの近年のバラは、過去に発表されたものと同じような花でも、樹の機能が格段に向上しています。
最近発表されたバラの良い花、たくさんの花を咲かせるのは、もちろん株が健全に生育していればこそ。
株を健全に生育させるのには、いまのバラ栽培は、次の三つのポイントで考える必要があるでしょう。
バラの栽培三つの方向性
①鉢植えか地植え
②苗段階か成木なのか
③バラの種類の樹の性質と楽しみ方による違いは、
土の量が限られている鉢植えは、栄養成分が流れ出やすいので、地植えに比べて肥料は多く必要です。
①は、③と深い関係があります。
概して枝が太めの品種は初期生育が早く、細めの品種は生育がゆっくりといった特徴があります。
②は、次の二つのポイントがあります。これが本稿の論点です。
樹の性質
栽培にあたっては樹の性質の把握がポイント。これは花の美しさとは別の問題です。
例えば枝が太い品種・細い品種があり、どれくらいの太さの花枝に花を咲かせるかは、系統・品種によって違います。
樹勢がある品種とおとなしい品種は、同じような栽培の考え方はできません。
葉が病気にかかりにくい品種とかかりやすい品種では、薬剤(殺菌剤)の散布の考え方が違ってきます。
花の美しさと、樹の性質・香りの話は別のコト
日本では、「白色カップ咲きの中輪四季咲きシュラブ」とか「赤色の大輪HT」とか、「花」と「樹」のことが一緒に、一言で語られがちですが、海外は区分されて記述されている場合が多くあります。
例えばフランスでは花のことを語る場合はローズrose、樹を含めて全体を語る場合はロジェrosierとして別に記述されています。香りフレグランスfragranceはまた別に記述されます。
楽しみ方
花を鉢植え切り花で「近くで」見るのか、株を庭の景観の中で「遠くから」見るのかでは、栽培の考え方が違います。
とくに庭の中で観賞しようとすると、花が咲いた樹姿がポイントとなります。
花の機能と樹の機能
そのバラを評価するのに、A「花(開花)の機能」と、B「樹の機能」の二つの視点があります。
国際コンクール等の審査項目をさらに掘り下げてみましょう。
A.花の機能(開花の機能)
一季咲き、繰り返し咲き、四季咲きと分けられています。最近発表される品種はほとんどが四季咲き。
しかし同じ四季咲きでも、いつまで咲くかということは品種によって違います。
日本では、次の2点がとくに重視されています。
開花連続性
いかに繰り返して咲くか:一つの花の開花間隔は一般には40~60日とされますが、中にはもっと短い間隔で咲き続ける品種もあります。
「繰り返し咲き性に優れる」という言い方も。「花上がりが良い」とも言われます。
四季咲き性
暖地なら、いかに秋遅くまで、初冬まで咲くか。いまの愛好者が最も望む花の機能の一つです。
初冬には花が抱えて咲きがちですが、ちゃんと開いて咲く花を「秋二番花」と言うこともあります。
花保ち
とくに切り花品種に必要なことです。ガーデンローズでも花保ちが良いと色の変化も楽しめます。
ただし香りとは相関関係にあり、一般に香りが高いと花保ちが良くありません。
この点の克服は花弁を厚くすることで、例えばギヨーやドミニク・マサド育種の品種には、香りがあって花保ちが良い品種が多くあります。
離弁性(セルフクリーニング性)~散りやすさ
花びらが散って、褐変して枝先に残って、きたなくならないような状態。
海外でほとんどメンテできない公共の場中心に植えられる「ローズペイザージュ」の基本機能の一つ。
花がら摘みをしなくても花枝のすぐ下から枝を出して花を咲かせるので、連続して開花しているように見えると同時に、花がら摘み・切り戻しの手間が必要ありません。
中輪でもこのような花の咲き方をする品種も増えました(‘シェエラザード’など)。
オールドローズの美観を受け継ぐイングリッシュローズは花弁が薄く香りもあって散りやすいことはよく知られます。
「花びらが散った後の地面がきれいであるように」(デビッド・オースチン・ロージズ)との育種観からです。
庭が広く、できるだけ手間をかけない西洋のバラ栽培観がその背景にあるのでしょう。
この性質は、日本では従来あまり求められていません。「花がらを摘むのは当たり前」というの栽培観がその背景にあるからです。
また庭で草花と混植しているときに「花が散るとほかの花の上で枯れてきたなくなる」「塀際の花が外に散ると掃除がたいへん」という愛好者の実際の生活感覚からの声も。
こちらも「庭はごみ一つなくきれいにしておくべき」という感覚もあるのでしょう。
なおごくわずかですが、花が終わったら椿のように花首からこぼれる‘オマージュ ア バルバラ’‘岳の夢(がくのゆめ)’などの品種もあります。
また最近では花保ちが良く、かつセルフクリーニング性に優れる‘チェリー ボニカ’‘キャンディア メイディランド’などのローズペイザージュも登場してきました。
B.樹の機能
耐病性
葉の問題です。
バラの葉は菌糸による病気、白くなるうどんこ病と黒い斑点が出る黒星病にかかりやすい性質があります。
病気にかかると、株の下の方から葉を落としがちです。近年の品種改良はこの両点の改良に重点が置かれてきました。
まず、うどんこ病から、そして黒星病にいかにかかりにくいかを重点に育種されてきました。
「病気にかかりにくいバラ」です。葉をキープしていれば健康に生育し、良い花を咲かせます。
これら品種は「耐病性が高い」「耐病性に優れる」など表現されます。
葉の耐病性は具体的なかたちでは「照り葉」とか、「葉が厚い」ということで理解されますが、何人かの海外大手育種会社の育種家からは「それらは選抜の結果。照り葉でなくても葉が厚くなくても病気にかかりにくい個体もある。
遺伝も関係しているかもしれない」という声もあります。
最近発表の品種は冬になっても葉を落とさないとか、一番花が終わっても葉が下から上までついているというのは、これら耐病性向上の結果でしょう。
「花」は同じように見えても、機能性が格段に向上しているものです。
美観上の葉の意義
「花」を「顔」としたら、「葉」は「衣服」のようなものと言えるでしょう。
葉は花の美しさを引き立て、印象を強調ます。意識しないまでも視界に同時に入ってくるからです。
大きな花には大きめの葉、鮮やかな花色には濃い色や光沢ある色の葉が合い、ソフトな色の花にはマットな質感の葉がよく合います。
これには好みがあり、一般にフランスでは浅緑色の葉が好まれ華やかな花を引き立てます。
日本ではマットな質感の小さめの葉が淡いニュアンスカラーとよくマッチします。
かたちには丸いもの、細長いもの、葉の周囲の鋸歯(ぎざぎざ)が深いもの・浅いものがあり、出芽は赤芽と青芽(白花や黄花に多い)があり、これも花が咲いたときの印象の違いになります。
好みは花の咲き方にもあらわれます。
近年の家庭園芸における草花全般の株姿が目指したように、花がびっしりとたくさん咲いていること好きな人もいれば、逆にオールドローズのように逆に花をびっしりとつけずに、葉と茎が描く線、その中で咲く花がきれいな種類のバラもあります。
葉をきれいにキープする殺菌剤の散布
バラが病気にかかりにくくするためには、密植をさけて風通しを良くするといった対処法はありますが、病気にかかったときを含めて、いちばん手軽なのは殺菌剤の散布で、葉をきれいにキープすることができます。
殺菌剤は殺虫剤と異なり予防散布が可能なので、3月の芽出し時期からある程度種類を変えてローテーションで散布します。
そのまま噴霧できるハンドスプレータイプが手軽で、庭や鉢数が多い場合は水でうすめるタイプの利用が経済的です。
回数のめやすは、バラの樹の性質から主に薬剤散布の回数で分類した、バラの家の「育てやすさの4タイプ分類」などが参考になるでしょう。
樹勢
樹の生長力です。シュートがよく出る、枝がよく伸張するなどの点で現されます。
また一端葉を落としてもすぐ芽吹いて回復する性質も含めて「樹勢がある」と表現されます。
ただし最近は枝の伸張力だけでは語りにくくなってきました。
枝が伸びなくても丈夫な品種が多く登場してきています。
また咲いたときの株姿が重視され、かつてあった開花している途中で飛び出るシュートが出るような試作品は、選抜段階で落とされるのも現在の傾向です。
耐候性
気候環境への適応性です。
寒い場所でもちゃんと生育する「耐寒性」はよく知られますが、近年話題になっているのが「耐暑性」。とくに海外のバラについてです。
ドイツやイギリスなどヨーロッパ生まれのバラは寒いところで選抜されているので、本国では十分生育しても、中には高温多湿の日本では、真夏に生長が止まったり、葉が外側に縮れたように巻くいたり、芽が黒くなったりする品種が過去にはありました。
最近は日本で発表前の栽培試験でこの点はちゃんとチェックされますので、夏に弱いことが目にみえる品種は発表されなくなりました。
特に耐暑性については、それが気温の高さによるものなのか、高湿度によるものかは、耐病性も含めて今後議論されるところでしょう。
フランスの場合効気温が30℃を超える日でも、ただまぶしいだけで乾燥していてそれほど暑くは感じません。
バラも病気の発生が少なく、生育が止まることはありません。
枝の硬さ
細胞組織が緻密であるかどうかです。硬い方が丈夫ということになります。
枝が軟らかいと芽が吹きやすくなりますが、逆に枯れこみやすくなります。
バラだったら従来は遺伝の関係から黄色系のバラは枝が軟らかく、その血筋をひく藤色系や茶色系のバラも一般に枝が軟らかい傾向があります。
海外では黄色系や藤色系で葉の丈夫さも含めて従来からのこの弱点の克服に努められ、最近は、黄色系では枝が硬く丈夫な品種が増え、藤色系でも登場してきました(‘ノヴァーリス’など)。種苗会社のカタログに「黄色なのに丈夫」「藤色系で丈夫」と書かれるのはこのことについてです。
なお枝が硬い品種が増えてきたことにより、鈴木満男氏が最初に提唱した「樹になるタイプ」のバラが増えてきて、枝が軟らかい品種が多かった従来のシュートで枝を更新するような栽培法から変わってきています。
なお寒冷地では乾燥した風で水分が奪われるため若い枝が枯れ込みがちですので、ドイツなどではシュートで更新するような栽培が行われています。
育種家たちは、花の美しさ・新しさを大前提に、上記の開花と樹の機能を何年かかけてチェックしてから、ある程度バランスのとれた品種を新品種として発表しています。
最近は「香り」も大事な選抜ポイントです。これだけでも容易なことではありません。
次回以降は、これらを系統や種類ごとに整理して、適切な栽培法を探っていきましょう。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。