バラをもっと深く知る⑯ やっぱり大好き“青バラ” Blue New 2020~2021発表の新しい品種中心に
庭の草花ともよく馴染む小輪シュラブの‘モチーフ’(ローズ ドゥ メルスリー)は、2016年秋発表(中之条ガーデンズ)
世界中でもとくに日本で好まれる藤色のバラ。
ここ数年でこの花色の品種が増え、2020年と2021年発表品種にはとても多くの新品種が発表されています。
20年ぶりの“青バラ”ラッシュ
世界中でも日本ではとくに藤色系のバラが人気です。タイ・ベトナムなど東南アジアでも同様と言います。バラは育種家のそれぞれの感性によって創られるものですが、発表にあたっては、愛好者の嗜好も大きな要素です。
日本では藤色系の新品種が続々と登場するたびに人気を集め、とくに2020年と2021年には、多くの品種が発表されました。
20年前は花色の“青さ”が追求される
これら藤色のバラが目立つのは20年ぶりのこと。西暦2000年ごろには、いくつかの品種が発表され、バラ愛好家のみならず一般の大きな話題になりました。当時の話題の中心は「いかに青いか」ということにあり、育種上は花色から「赤みを抜くこと」が追求されてきました。例えば小林森治氏が通常の交配で創り出した‘青龍(せいりゅう)’‘オンディーナ’‘ターン ブルー’などは、かなり「青い」という評価でした。映画の題名にもなった‘ブルー ヘブン’(河本バラ園)は、2002年に発表されています。2004年にはサントリーがバイオテクノロジー技術で創り出した切花品種‘アプローズ’が登場。藤色のバラが、“青バラ”“ブルーローズ”とも呼ばれるようになったことは記憶に新しいところです。
通常の交配により作出された‘青龍(せいりゅう)’は、整った剣弁高芯咲き
ブルー ヘブン’。「セントレアスカイローズ」になり、地方創生ムービー『ブルーヘブンを君に』の題名にもなった中小輪花
バイオテクノロジー技術で創り出された切花品種‘アプローズ’
最近は生育性も重視
切花品種はさておいて、これら品種は、ほかの花色のバラに比べ樹勢や耐病性が劣り、「青バラは、花は良いけど育てづらい」という認識ができていたことも事実です。
そこで最近発表品種の育種は、色の発色はもとより生育性の向上にもかなりのポイントが置かれてきています。
少し前の発表でいま全盛のバラをはじめ、2020年春~2021年春に発表された品種を、海外生まれと日本生まれの品種に分けてみてみましょう。
海外の“青バラ”
日本と違い、ヨーロッパでは藤色のバラはあまり人気がありませんが、10年近く前、2012年に日本発表された‘ノヴァーリス’(コルデス)は、日本の愛好家の間では「丈夫な藤色のバラ」としてすっかり定着しています。同年タンタウ社から日本発表された‘レイニー ブルー’も、小型のつるバラとしてすっかりポピュラーです。
少し前に発表、いま全盛の海外の藤色のバラ
大輪で少しうつむいて咲く。木立性で樹はとても丈夫な‘ノヴァーリス’。2013年ADR認証。
中輪ロゼット咲き。細い枝に花がたくさん咲く‘レイニー ブルー’(京成バラ園「アルテミスの花園」のシュラブ仕立て)。
2021年発表 海外の藤色のバラ~ドイツ
2021年にはコルデス社から2品種、タンタウ社から1品種の藤色系品種が発表されています。
花色表現は「ラベンダーピンク」。花弁に表情がる中輪・木立性の‘マチネ’(コルデス)。
花色は「ライラック色」と表現される小中輪カップ咲き。枝が伸びつるバラ利用もできる‘プロローグ’(コルデス)。2017年ADR認証。
シルバーラベンダー色の大輪。枝がよく伸び、つるバラとして利用ができる‘パフューム ドレス’(タンタウ)。鼻を近づけると甘い香りが漂う。
2021年発表 海外の藤色のバラ~イギリス
イギリスのバラにも藤色のバラはあまり多くありませんが、2021年ワーナー社からつるバラ利用可能な藤色の小中輪‘ライラック デイズ’が日本発表されました。
2021年新品種。ライラック色の小中輪セミダブルの‘ライラック デイズ’は、英国では2014年に発表されポピュラー。耐病性高く、トゲが少ない枝はよく伸びるので、つる仕立てに(コピスガーデン)。
日本の“青バラ”
日本では育種家が藤色系品種を多く発表してきています。従来は花色・花形・色変化など「花の魅力」に優れた品種が多かったのですが、2020年発表品種を境に、生育性も重視して育種された品種も登場しています。
少し前に発表、いま人気の日本の藤色のバラ
2017年秋に‘ブルー ムーン ストーン’(河本バラ園オリジナル)、2019年秋‘コフレ’(河本バラ園ローズ ドゥ メルスリー)の花の魅力にとくに優れた2品種が発表されています。その花色の不思議さは、愛好者たちを虜にしています。
緑色・白色と藤色の混じった花色と変化が楽しい‘ブルー ムーン ストーン’。栽培は年月をかけてじっくりと
花の周囲に緑色が現れる‘コフレ’。遅咲き。多肥栽培すると開きにくくなるので注意
2020年~2021年発表 日本の藤色のバラ
花色の“青さ”を追求してかなり青みの強い青藤色となり、生育性も向上し育てやすくなったのが2020年発表の‘ブルー グラビティ’(ロサ オリエンティス)。春の花は剣弁咲き、秋花(写真)は波状弁に咲く中輪花。樹は細立ちの木立性。
カップ咲き・藤色の中輪花で、世界のバラ育種家たちの大きな目標「香りと耐病性の融合」を実現した‘リラ’(ロサ オリエンティス プログレッシオ)は2020年発表の人気品種。ダマスク+ティーの芳香。樹のやわらかさと葉の丈夫さを持ち合わせ、株は木立性でコンパクト。写真はグレートーンでカップが深く咲く秋花。
2021年発表の‘コリン クレイヴン’。落ち着いた藤色・多弁ロゼット咲きの中輪花で、ティーとハーブの中香も。樹は木立性。耐病性が高いロサ オリエンティス プログレッシオ(写真:バラの家)。
花芯の黄色もポイントの半八重咲き中輪の‘トワイライト ヨコハマ’。藤色のバラ好きの河合伸志さんが20221年発表。‘紫の園(むらさきのその)’(小林森治)を片親に、花の青みを増し枝が硬いなどの性質を向上させ、繊細さも表現した。株はコンパクト。(写真:河合伸志/横浜イングリッシュガーデン)。
アーリーモダンローズの雰囲気を理想として作出、2021年春に発表された注目品種‘シルフィ シルフィ’(京阪園芸オリジナル)。横張りの木立性の株・細い枝先に咲く中輪花は藤色からシルバーブルーにうつろい、咲き混じる(写真:京阪園芸)。
2021年コマツガーデン発表の‘ウィンディ ナイト’は中大輪。‘ニュー ウェーブ’を理想としてより育てやすく。花色は咲くときにより藤色からモーヴのトーンに。低温時に青みが強くなる(写真:コマツガーデン)。
淡いラベンダー色で灰色グレートーンも感じられる大輪。樹は木立性で、樹勢・耐病性を併せ持った‘令の風(れいのかぜ)’(京成バラ園芸)。2020年発表の人気品種。
変貌するミステリアスな色
ほかの色の花同様藤色の花もうつろいます。咲き進むと白み・灰色みをおびて、咲きはじめ~満開のときより青く感じます。それをどの時点の花でどう表現するか~まず写真は日の光の下で撮影すれば花の表情が出るかわりに赤みが強く映り、日陰で撮れば青く映ります。なかなかその色を正確に表しきれません。花色表現もライラックからラベンダー、藤色、シルバーなどさまざまで、言葉でも十分伝えきれません。ぜひ実際の花を見て、花の大きさや咲き方などを含めた“花の雰囲気”を感じとってください。
「青い」「青くない」、「花が良いけど育てにくい」「育てやすい」…いずれにせよその変貌極まりない、あいまいな花色は、ミステリアス。私たちの心を捉えて離しません。
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玉置一裕 Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。