バラをもっと深く知る㉑ 新しい四季咲き大輪木立性品種
大きな花は、それだけで見応えがあるもの。房咲きになればなおさら。
香りが高ければその魅力は一層増します。
一時期鳴りを潜めていた四季咲き大輪品種ですが、ごく最近育てやすく個性的な品種が次々と登場、混植ガーデンでも自由に楽しめるようになってきました。
(写真はハウステンボスの‘フューチャー パフューム’)。
花が大きく、品種によってはとてもよく香る。しかも耐病性が高い…最近そんな「HT」が増えています。
そもそもHTとは何なのでしょう。
①花が大きい・大きめ
②四季を通じて咲く
③樹姿が木立性
であれば、四季咲き大輪種=ハイブリッド・ティー(HT)とカテゴライズされ、国内外の多くの国際コンクールでもその区分で募集・審査されています。
実際には交配系統が複雑化していて最近の発表品種はみな木立性シュラブですが、このスタイルを総称してHTまたはHTタイプと呼んでいるわけです。
日本においては、いわゆる「剣弁高芯咲き」~花弁の先が尖って外側に巻きこみ、花芯の中央を盛り上げて咲く咲き方の“整った”咲き方の花がとくに重視され、花の大きさに関わらずHT=剣弁高芯咲きとも理解されてきました。
一茎に一花の単花咲きで、花一輪の6~7部の開花状態を最高として観賞するものです。
いわば“一瞬の永遠”を高い栽培技術で手間をかけて創り上げ、その記憶を永く留めておくような栽培法と観賞の仕方です。
ところが最近は、全世界的なガーデニングブームを経て、庭や鉢で日常的に咲くバラの花をあまり手間なく楽しむことが主流になってきており、大輪品種も変わってきました。
樹勢で耐病性をカバーする
このHT、育種上のバランスではこれまで花色や花形など「花」を重視し「機能」面は後回しに。樹勢は強いものの耐病性においては、ほかの系統に劣っていました。
バラの樹の性質上HTは「樹勢で耐病性をカバーする」と言われます。葉が病気にあまり強くない反面、たとえ葉を落としてもすぐ芽を吹きなおす樹の勢いがあって、新鮮な葉があって生長し、また花をきれいに見せるという性質です。
大輪品種の育種でも、その「耐病性」の向上が課題に。そういった中から耐病性が高い「HT」として生まれてきたのが、‘ビバリー’(コルデス2007年)、‘ウェディング ベルズ’(同2010年)、‘ノヴァーリス’(同2010年)、‘グレーフィン ディアナ’(同2012年)/‘マイガーデン’(メイアン2008年)などです。
樹の性質が向上・咲き方さまざま
さて最近発表のHTは、樹の性質が向上し、はっきりと“耐病性が高い”と言い切れる品種が続々と登場しています。
花は大きさが14㎝の巨大輪から9㎝くらいの大きさの花も。花弁は丸弁から剣弁までさまざまで、咲き方もカップ~ロゼット咲き。
剣弁高芯咲きはほとんどありません。ほかの中輪~中大輪のシュラブローズ同様、剣弁でも咲きはじめは高芯咲き、開くにつれロゼット咲きになるような品種や、花によって咲き方が違うなど、一言で何咲きと決められない品種も多くなってきました。
また苗が若いうちは単花咲きでも、株が育つとみな房咲きになってきます。
さまざまな最近のHT
まず育種上「耐病性を絶対の基準」とするコルデスのバラ。
‘ティップン トップ’と‘フューチャー パフューム’‘G.D.ルイーズ’は、いずれも、とても耐病性が高く香る品種です。
ティップン トップ 2015年
やさしい黄色の大きな花が細めの枝先に咲く。柑橘系の香り。
下を向く細長く葉脈が目立つ葉が個性的。JRC2020年度HT銀賞受賞。
G.D.ルイーズ 2017年
アプリコット~ピンクのカップ咲きの大きな花からはフルーティ+フローラルの芳香。
第12回国営越後丘陵公園「国際香りのばら新品種コンクール」で、HT金賞・国土交通大臣賞・新潟県知事賞の三冠を受賞。樹は高さ1.2m
フューチャー パフューム 2019年
花は中大輪。株が小さいうちは単花咲きだが、生長につれ房咲きに。ダマスクベースの強く甘い香り。株はコンパクト。キャスターとして活躍する吹田明日香さんに捧げられた。
京成バラ園芸からは2020年に藤色で丈夫な‘令の風(れいのかぜ)’が発表されています。
令の風(れいのかぜ) 京成バラ園芸2020年
従来「弱い」と言われた藤色や茶色系品種の中で、とても耐病性が高い品種。
中大輪花が房になって咲き、藤色から次第にグレートーンに。第18回ぎふ国際ローズコンテスト金賞受賞
「耐病性を育種の大前提」とするロサ オリエンティス。
中輪~小中輪が中心ですが、最近はHTタイプで耐病性がとても高い品種の育種にも取り組んでいます。
具体的には『秘密の花園』シリーズの‘ベン ウェザースタッフ’、メアリー レノックス’、そして‘エリーゼ’があります。
ベン ウェザースタッフ 2020年
アプリコットの中大輪房咲き。春花は弁先に切れ込みが入り華やか。
ティー、ミルラ、パウダリーの中香。『秘密の花園』の老ガーデナーの花名
メアリー レノックス 2021年
『秘密の花園』の主人公名の人気品種。
ミルキーピンクのロゼット咲き中大輪・房咲き。ダマスクとミルラの強香
エリーゼ 2022年
最近のガーデンローズでは珍しい高芯咲きの中大輪。
ティー、ダマスク、ハーブの中香。JRC2020年度HT銅賞受賞
個性的なHT
耐病性が最強とまでは言えないもののかなり丈夫で、花や葉・株姿がとても個性的なバラが次々と登場しています。
マドモアゼル メイアン メイアン2016年
いかにもメイアンのバラらしい、おおらかな華やかさがあるバラは、メイアン家の女性たちへのオマージュ。
ピンク味のあるオレンジ色のとても大きなカップ咲き。
花径12~14㎝。国際コンクールで各種賞を受賞。
軽やかなフルーティの香りで、国営越後丘陵公園第13回「国際香りのばら新品種コンクール」HT金賞・国土交通大臣賞を受賞、第18回ぎふ国際ローズコンテスト銀賞受賞
ヴィウー ローズ デルバール 2019年
赤紫色の出芽から次第にさめていくピカピカの照り葉に、赤紫色の大きな花。株はあまり大きくならない。
ティー系の香りで国営越後丘陵公園第14回「国際香りのばら新品種コンクール」HT金賞を受賞
ラリ デ ガゼル デルバール2021年
珍しいベージュ茶色の大輪。女性ドライバーがフランスからモロッコを走破する「ガゼルラリー」にちなみ命名され「サンディ・カラー」と呼ばれる。
ライム、ローズ、洋ナシ、サンダルウッドの中香
新しいHT=NHT
このほかにも、樹勢がとても強く、日本では枝が長めに伸びるのでつるバラ扱いされるタイプも。
本国ではHTまたはGrで、剪定をビシッと決めれば木立性として仕立てられる品種もあります。
いずれも育てやすさは過去のHTよりぐっと向上。
開花間隔は短枝に花をつける小中輪~中輪品種ほどではないものの、秋にも立派な花を咲かせます。
樹が丈夫になってきたので混植ガーデンでの利用も。
HTだからと言ってバラ花壇だけではなく、一般のシュラブローズ同様ほかの一年草・宿根草・低木などと組み合わせて植えて、花と咲く株姿を、気軽に楽しむことができるようになってきました。
枝が長く伸びるタイプは株を大きめに育てて庭の背景やシンボルとして。株姿とともに海外では「花を観賞するバラ」として、立派な一つの分野を形成しています。
従来のHTと区別してNew HT、NHTと言うこともできるこれらの大輪品種、中輪品種と比べて花が少し大きく樹が木立性なだけ。
「HTで花形が整っているから良い」とか「HTだから混植ガーデンに合わない」とかあまり難しく考えず、大きな花と咲く株姿を、すなおに、自由に楽しみませんか。
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玉置一裕
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。