赤色・ピンク色・黄色・白色。
小さめの花が株いっぱいに咲いて、街や公園、建物のファザードを色彩の面で彩り、一体となって景観をつくる~「ローズペイザージュ」(フランス語、ペイザージュは景観の意味)は、英語では「ランドスケープローズ」。かつて公園に植えられるので「パークローズ」とか、色彩の面をつくるので「カラースケープローズ」と言われたこともありました。(上の写真は、フランス・リヨン テットドール公園の‘ラベンダー メイディランド’(メイアン))
日本では1980年代に京成バラ園芸が、‘花見川(はなみがわ)’‘春風(はるかぜ)’とともに、フランスやドイツの同タイプのバラを「修景バラ」として紹介し、親しまれてきました。
ロ-ズペイザージュは海外ではいま幅広く植栽され、全盛を迎えている「用途」分類によるバラのカテゴリーです。バラの系統分類上はシュラブローズになります。
最初は小・中輪半つる性のバラや、グラウンドカバータイプが同じような用途で使われきました。ポリアンサローズに分類される‘ザ フェアリー’もそのように利用され、日本ではガーデニングブーム初期以来人気の‘ラベンダー ドリーム’も「パークローズ」とされるなどの事例もありました。「ローズペイザージュ」というフランス語の呼び方が日本で知られたのは、2011年ハウステンボスで行われた「ローズペイザージュバラ国際コンクール」以来。同コンクールでは「丈夫で景観をつくるバラ」全体を審査対象にとしました。
ローズペイザージュとして特化され多くの品種が発表されてきたのは、ごく最近のこと。本格的に意識して作出されたのは、仏メイアン社が1970年代から育成に取り組み、1982年に発表された‘ボニカ’82’以来です。この品種はバラの殿堂入りもしていて、日本でもすっかりポピュラーになっています。メイアン社ではその後、花色や樹姿がさまざまなローズペイザージュ「メイディランド」シリーズを次々と発表しています。新しい品種ほど、耐病性と開花連続性は向上し、花の魅力も増してきています。樹形は初期のシュラブタイプやグラウンドカバータイプから、最近はコンパクトタイプ、枝があまり横に広がらない木立性タイプまで、幅が広がってきました。
「丈夫なバラ」としてよく知られる‘ノック アウト’は、木立性のローズペイザージュ。2000年にアメリカで生まれましたが、全世界に広まって、2018年コペンハーゲンの世界バラ会議でバラの殿堂入りしています。日本では現在、白や黄色の花、また八重咲きなど、木立性では8種類が紹介されています。
樹の性質と栽培
「手間いらず」+「開花連続性」
さて狭義の最近の「ローズペイザージュ」、バラとしては次の特徴があります。
【花と樹の性質】
A花
①小・中輪多花性で株を覆うように咲く
②開花連続性に優れる
③セルフクリーニング性に優れるものが多い
B樹
①耐病性がとても高い
②枝がしっかりとしている
③樹勢がある
④株が小型な(コンパクトな)シュラブタイプから、大きく育てられるタイプまで多様(とくに最近発表の品種で株がコンパクトで枝が伸び過ぎないタイプが増えている)
これらは端的に言うと次の点につながります。
A花
①小・中輪多花性で株を覆うように咲く→景観に「色彩の面」をつくる
②開花連続性に優れる→いつも花が咲いている
③セルフクリーニング性に優れる→花がら摘みを行わなくてよい
B樹
①耐病性がとても高い→薬剤散布をあまり行わなくて済む(海外では無農薬)
②枝がしっかりとしている→枯れこみが少ない
③樹勢がある
→葉を落としてもすぐ回復。冬剪定で深切りしても新しい枝を伸ばすと同時に、伸びすぎる枝が出ることはない
④のうち、とくに最近発表のコンパクト枝が伸び過ぎないタイプ
→枝が伸びすぎて扱いに困ることがない
このうち、開花の性質A-②・A-③(開花連続性とセルフクリーニング性)と、樹の性質B-④の最近発表のコンパクトタイプ(枝が伸びすぎず、切り戻し不要)が深く関わりを持つのが、短い花枝の先に花を咲かせ、花が終わるころに花が咲いた枝のすぐ下から芽を出してまた開花する、といった性質です。咲いた花は、花保ちの如何に関わらずに花茎から離れるので、咲きがらが枝先に残ってきたなくなることはありません。だから花がら摘みは基本的に不要なのです。剪定は、シーズン中は、じゃまになった枝を切るだけ。冬剪定では1本1本芽を見て剪定するのではなく、刈り込みをするだけでOKです。
ただし「花がら摘みは基本的に不要」と言っても、とくに一重のタイプの中には花は散るものの、実をつけるものもあります。こういったタイプは花を続けて見たいのなら、花房の下で切り戻しを行います。最新の品種の中には、実をつけながら生育し花を咲かせるタイプの品種も登場してきました。これらは花がら摘み・切り戻しはとくに行わなくよいでしょう。
開花と樹の機能に特化したバラ・手間いらず
総括すると、ローズペイザージュはバラとしては「開花と樹の機能に特化したバラ」。目的としては「あまり手間をかけられない場所に植えて、最小限の手間で、いつも花・色彩の面を楽しめるバラ」と言えるでしょう。
‘ノック アウト’について、よく「丈夫でよく咲くのは分かるけど、花がおもしろくない」という声が多くあります。これは観賞方法の海外と日本の違いから。ローズペイザージュは基本的に、きれいにキープされた葉の上に株全体に花が咲く姿を、“離れて”観賞するもので、30~40㎝の至近距離で花を観賞する多くの中・大輪とは違いますし、育種目的が違います。
「香りがない」という人もいますが、これは育種上のバランスに理由があります。一般に丈夫で耐病性が高いことと、香りがあることは反対する性質です。いまはまだ実現されていませんが、近い将来、香りのローズペイザージュも登場することでしょう。
花・開花、樹の機能、香り・・・すべてに優れたバラはありません。またバラにはカテゴリーごとに観賞法も栽培法もそれぞれポイントがあり、すべてを同じ価値基準で評価することはできません。
ローメンテナンスであって、ノーメンテナンスではない。
「そんなラクなバラがあったの! では、何もやらなくて良いんですね」。こういった声も時折聞かれます。これは勘違いで「ノーメンテナンス」ではありません。
まず薬剤散布。海外で無農薬といっても、高温多湿の日本では、害虫も病気も多く発生します。ローズペイザージュはほかのタイプと比べて黒星病などに強く「薬剤散布の手間があまりかからない」といっても、必要に応じて殺菌剤の散布を。芽出し時期の予防散布で病気の発生はかなり防げます。シーズン中も月一回殺菌剤のタイプを変えてローテションで散布すると、葉をきれいにキープします。害虫の防除も必要に応じて。蕾につく害虫防除や、また枝がよく茂って夏期でも葉をキープする品種も多いので、そのような場合に発生しやすいカイガラムシやハダニ対策は必要です。
また「シーズン中に花がら摘み・切り戻し不要」といっても、‘ノック アウト’は切り戻した方がいいでしょう。また樹は年々大きくなって幅が出てきます。植えたスペースに対して大きくなり過ぎるようでしたら、冬季に刈り込んで、ひとまわり小さくしましょう。刈込鋏があれば丸く。なければ全体のかたちを見ながら、丸く鋏で整えるだけでOKです。芽を一つひとつ確認する必要はありません。
さらに施肥ですが、海外では地植えの場合「植え付け時に堆肥のみ・追肥は行わない」といった方法でじっくり育てられますが、苗のうちに株を早く大きくした場合は、寒肥と、さらに初期の摘蕾は行った方がよいでしょう。成木になっても地植えなら冬の元肥は与えるのが、いまの日本の栽培法の標準です。鉢植えは追肥も必要でしょう。
夏の間にあっという間に大きくなる株の周囲の雑草の除去も、ほかのバラ同様必要な作業です。
色彩の面を生かすデザインと楽しみ方
丈夫で手間をあまりかけなくても咲き続けるといった性質を生かして、ローズペイザージュは次のような植栽に向きます。海外の関係者はよく「アザレア(ツツジやサツキ)のように」と言います。
1.列植して生垣に。群植して
あまり手間をかけられない場所を花の色彩で埋め尽くします。公共の場に最も向きます。
2.樹木の下に
日本ではまだあまり見かけませんが、海外では高木の下にグラウンドカバータイプや株丈が低く枝が横に張るタイプのローズペイザージュを群植している場合がよくあります。道路の脇に設けられた植栽スペースに(ドイツ・ウェッテルセン)
3.草花やほかの植物と混植
丈夫なので、草花との混植にも向きます。ただし「色彩の面」をつくることは、ナチュラルな感覚の植栽デザインとは真逆です。フランスでよく見られるように合わせる植物数を少なくし、色彩配置も大胆に。芝生をはじめ、グリーンにはよく映えます。
4.個人宅で
ローズペイザージュは「公共の場のもの」と思う人も多いでしょう。しかし家庭の庭でも十分利用可能です。難しい剪定技術が不要なので、あまり手間をかけずにバラを育てたい方に。またバラ栽培になれ慣れている方でも、あまり手間がかけられない場所に植えれば、ローメンテナンスで、いつも咲いている花が咲いている明るいコーナーをつくって、楽しむことができます。
5.アレンジで
春から初冬まで年間を通して繰り返してたくさんの花が咲くので、ときには切り花にしてアレンジしても惜しくありません。
(次回に続く)
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玉置一裕
Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。