バラをもっと深く知る⑦ よく繰り返して咲く、株がコンパクトなバラ その2~家庭園芸にも向くバラ
株がコンパクトで伸びすぎる枝が出ない・花を繰り返して咲かせることに加え、葉の耐病性がより高い品種が、2019年発表の品種で登場しました。
これら品種が揃ってきたことで、バラ愛好家のみならず、広く一般家庭園芸愛好者にもバラが育てやすく、親しみやすくなってきました。
家庭園芸向きのバラ!?
「園芸」は、端的に言えば「植物を育てて楽しむ」ということでしょう。対象分野は幅広く、草花(一年草・宿根草)、球根、ラン、ハーブ、野菜、花木、果樹、樹木、サボテン、多肉植物、鉢花、観葉植物、キク、盆栽、伝統園芸植物…などと細かく分かれています。それぞれごとの愛好者は、それぞれの植物に見合った知識と技術で栽培し、咲かせた花や株姿を単独で楽しみます。その背景には日本では江戸時代以来伝統的に、個々の植物を「単独できれい」に育てて仕立てることとその技術が重んじられてきたことがあります。バラは「園芸」の中では「花木」の一分野ととらえられてきて、品種数が多いので独立した一つの園芸分野としても認められています。
20世紀末、海外から導入された「ガーデニング」の考え方の中では、バラは少し違って位置付けらました。英国のナチュラルガーデンを理想として、植物そのものの栽培はもとより、植物どうしを組み合わせてつくる「庭」できれいかということにもポイントがあるからです。ガーデニングでは「バラは庭を構成する要素の一つだが、主役の一つ」とされます。加えて「暮らしの中でどう楽しむか」ということも大事な要素でしょう。
最低限の管理でもきれいに咲く
バラ愛好者は、品種にも、栽培にもそれなりの知識と技術を持っています。また花色・花形や香り、花の雰囲気・樹形などとても細かい部分の違いが気になり、また見分けられるもの。嗜好品の最たるものだけに、その細かな違いがおもしろく大事なのです。人によりけりですが、とくに男性で栽培することそのものがおもしろく、その方法に意義を感じる人も多いでしょう。しかし一般家庭園芸愛好者層にとっては、それほど細かい違いはあまり気になりません。栽培にあたっては“難しい”ことはできるだけ避けて、簡単に花が咲いてほしいもの。たとえ初心者でも、そこそこの栽培管理で四季を通じて花が咲き続けることが、とても大事なものです。ほかの植物では、例えばガーデニングブーム初期以来人気のサフィニアをはじめとするペチュニアは、①きれいに咲く②長く咲く③カンタンに咲く ことが広く受け入れられてきたことは周知の通りです。このうち①や②を前提に③カンタンに咲くことが、幅広い層に愛されるためにはとても大事です。
家庭園芸向きのバラ=最低限の手間で、誰もがきれいに咲かせやすいバラ
バラも同じでしょう。バラにこれをあてはめてみましょう。
1.安定して春から初冬まで咲く
2.花は親しみやすく、特に強烈な個性がなくてもよい
3.枝が長く伸びて剪定に困ることがなく、株をコンパクトに保つ
4.葉の耐病性が高く、必要に応じての殺菌剤散布で葉をきれいに保つ
要するに、必要なときの最小限の必要な手入れで「誰でもきれいに花を咲かせやすく、長期間楽しめる」バラが、「家庭園芸にも向いたバラ」ということになります。
2019年に3品種が登場
これら条件をみたすバラが、2019年には3品種登場しました。高温多湿の日本の環境下で選抜された海外育種の‘フューチャー パフューム’(独コルデス)、‘ゆかり’(英ハークネス)、日本生まれの‘マイローズ’(ロサ オリエンティス)です。これらは花色だけでなく樹の姿も、全体の雰囲気も異なります。
共通するのは、
1.四季を通じて安定して咲く
2.株をコンパクトに保つ
3.耐病性が高い
…という点です。
ピンク色中大輪・香り高い・コンパクト・高い耐病性~フューチャー パフューム
ドイツ・コルデス社育種で日本独自選抜品種。2019年春に発表。NHK Eテレ『趣味の園芸』のナレーターや、バラのイベントの司会者として活躍する吹田明日香さんに、コルデス社日本代理店の京成バラ園芸から捧げられました。吹田さんは、自宅でもバラを育てている、バラを愛して止まないロザリアンの一人でもあります。花はミディアムピンクの中大輪。半剣弁~ロゼット咲き。高さ0.8~1.0mの半横張り性の株に、まっすぐ上に伸びた茎の上に上を向いて花を咲かせます。従来からの「バラらしいバラ」です。この品種の大きな特長は、強い香りと高い耐病性の両立。バラ育種上、「香り」と「耐病性」の両立はとても難しいことで、香りが強いと樹の性質が弱くなりがちです。‘フューチャー パフューム’は強い香りと丈夫な葉の両者を、バランス良く実現しています。まず香りは上品で印象的なダマスクベースの強く甘い香り。またとても高い葉の耐病性を実現。コルデスのバラの葉の耐病性の高さは、世界中の誰もが認めるところですが、‘フューチャー パフューム’は、秋の日本のバラの専門家の集まりで、「今年のコルデスのバラの中でもっとも耐病性が高い品種」と評価されています。
栽培も通常の花が終わってからの切り戻しで秋もよく花を咲かせます。
冴えた赤色・小中輪・花保ち良い・コンパクト・高い耐病性~マイローズ
一言で「赤バラ」と言っても色合いは多彩。紅色・紫がかる赤色・朱色が入る赤色までさまざまですが、‘マイローズ’は、艶のある冴えた赤色です。数多くの赤バラの中でも、これだけ冴えた赤色の花はあまりありません。小中輪のカップ咲きの花を春から初冬まで安定して繰り返して咲かせ続けます。夏花はやや明るくカップが浅く、初冬の花は少し黒味がかりますが、安定して開花し続けます。小さく赤みの強い葉が花を一層スタイリッシュに引き立てます。香りが淡い分、花保ちがとても良いことと、一つの花が終わったころすぐ下の方から花茎をあげ連続開花する性質が加わって、いつも花が咲いている感じです。
葉の耐病性がとても高く、同時期に発表された‘シャリマー’同様、「ロサ オリエンティス」の進化型「 プログレッシオ」と新たに位置付けられています。必要なときの必要な管理だけで、四季を通じて楽しめます。株はこんもりとよく茂りコンパクトです。
もう一つ大きな特長は、生長が早く、早めに成株になって花を楽しめること。まさしく「家庭園芸向きのバラ」と言えるでしょう。
黄色・香り・コンパクト・高い耐病性~ゆかり
少し赤みが入る黄色の中輪。さわやかなティー系の香りもあります。四季を通じ、春から初冬まで安定して咲き続ける。‘ゆかり’(イギリス・ハークネス)も、試作品の中から日本で選ばれた独自販売品種。高温多湿の環境下で、3年間無農薬で試作した結果、うどんこ病・黒星病にかからないといった、とても高い耐病性を持っています。
ハークネスのバラにはさまざまありますが、もともと中輪房咲きに優れた品種が多くあります。加えて「イージー・トゥ・グロウ」をキャッチフレーズとし、国を超えて育てやすい品種づくりを育種思想としています。それが、日本の環境下で実現した品種といえるでしょう。
樹は少し横に張りますが枝が伸び過ぎることなく、花茎が短く細い枝先にも花を咲かせ、株の高さ0.8mとコンパクトに保ちます。花色も咲き進んで少し淡くはなるものの、季節変化は少なく安定しています。
ここ数年黄色の品種が人気ですが、加えて2020年の流行色「メローイエロー」(鮮やかな黄色)の品種の一つとしても、注目されそうです。
丈夫で育てやすくコンパクト、花が安定して四季を通じて咲くバラは、より幅広い層が親しみやすいバラ。日進月歩するバラの育種の中で、花色や樹姿など、これからどんどん増えていくことでしょう。
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玉置一裕
Profile
バラの専門誌『New Roses』編集長。
『New Roses』の編集・執筆・アートディテクションを行うかたわら、ローズコーディネーターとしてバラ業界のコンサルティングやPRプランニング、関連イベントのコーディネート、バラの命名等に携わる。
また園芸・ガーデニング雑誌への執筆や講演を通じて、バラの「美」について語ると同時に、新しいバラの栽培法の研究も行っている。