伝統野菜の未来を語りあう 『タネの未来』の小林宙さんと野菜ソムリエプロの緒方湊さん
みなさん、伝統野菜という言葉を聞いたことがありますか。伝統野菜に取り組む若き達人二人、小林宙さん17歳と緒方湊さん11歳。日本の伝統野菜の未来や自分のことを自由に語り合ってくれました。さて、どんな話になったのでしょう。
小林宙(以下、宙) 前に僕の本の出版記念のトークショーに来てくれたよね。18歳以下の人が来てくれるなんてほんとびっくりした。
緒方湊(以下、湊) 伝統野菜のタネを販売しているのがすごく興味ありました。そして、会社をつくるなんてすごいです。
宙 会社(鶴頸種苗流通プロモーション)にしたのは、個人だと趣味みたいになっちゃうし、事業としてやるには住所とか、個人宛になったりするじゃない、それもいやだし、社長の方が、肩書きがあった方が仕事しやすいじゃない。相手に対してもただの中学生や高校生より。でもすごいなあ、小学生で野菜ソムリエプロって、いい肩書だけど野菜ソムリエについて教えて。
湊 野菜ソムリエは三段階あって、野菜ソムリエ、野菜ソムリエプロ、そして野菜ソムリエ上級プロとあります。僕は野菜ソムリエプロで、全国で3000人余りの資格です。試験は、野菜ソムリエはマークシート、プロは記述式と面接です。
宙 そんなに少ない中で最年少プロなんだ、すごいよ。僕には無理だね、だから受けないけど(笑)。で、その違いって教えて。
湊 野菜ソムリエは野菜や果物の魅力を自らで楽しむ、プロはそれを周りの人に伝える、そして上級は社会を通じて貢献するとかです。
宙 ところで湊君は学校へ行っていて、いつ活動しているの。僕も、学校へちゃんと行って休みの日に活動しているけど、同じだよね。
湊 はい、平日は学校へちゃんと行って、土日に伝統野菜を探しに行っています。
宙 どんなところへ行くの。
湊 東京近辺だと、都道府県のアンテナショップやいろいろな野菜を数多く扱っているデパート、あとファーマーズマーケットなどのイベントに行っています。最近行ったのは(ノートを広げて確認している)……。
宙 そのノート、どこへ行って何を仕入れたかっていう記録なんだ。いつからつけているの。
湊 2019年から記録し始めています。ノートに書いておかないとわからなくなっちゃうし。こうして見るとけっこう行っていますね。
宙 それはすごい。ぼくは記憶派で記録に残さない。結局忘れちゃうんだけど(笑)。そういった作業は苦手だなあ。休みの日は都心のショップとかで野菜探しをするんだね。地方にはいかないの。
湊 夏休みとか長い休みのあるときには、地方へ行きます。えーと(ノートを見て)、地方の道の駅とかを巡ります。お父さんとお母さんで。
宙 道の駅はいいよね。あきらかに伝統野菜ってあるんだけど、地元ではいつもの野菜だから、特別視していなくて。あれって思うときもあるけど、聞けばその野菜についてちゃーんと教えてくれる。でも、車じゃあないと行きにくいところが多いからね。お父さんとお母さんに協力してもええるよう、仲よくしておくといいね(笑)。今までどのくらいの野菜を仕入れたの。
湊 2019年だと、約340品種仕入れて食べています。
宙 それって買ってどうするの。食べるの。僕は買うだけかってもあまり食べないんだ。根菜なんかは土の中で貯蔵しちゃう。キュウリとかは旅先で買ってすぐに食べられるけど、イモやマメはそうはいかないし。
湊 ぼくもキュウリとかは洗ってすぐに食べてみます。あとは家に持ち帰って、料理したりして食べてみます。とにかく野菜、特に伝統野菜を食べるのが好きなので。
宙 いつからそういった伝統野菜と親しんでいるの。
湊 存在を知ったのは小学校の1年生のころです。記録を始めたのはここ1年ですが。そのうち野菜を作ってみること、料理をしてみるのもはじめました。さっきもいいましたが、食べるのがほんと好きなので。ところで、宙さんが一番好きな野菜ってなんですか。
宙 ぼくは野菜に順位をつけたくないんだ、ごめんね。それは、伝統野菜のタネを広めようとしている者として、いろんなところからタネを仕入れているし、さまざまな情報をもらっている「立場」として、いろんなところの顔をたてなくちゃあならないし、どれも素晴らしいタネ、品種だからね。なんか、社長の発言だね(笑)。
湊 そうなんですね(笑)。
宙 だけど、自分でタネを見つけてきて、蒔いて、そして自分で育てて収穫したときの野菜を食べる、育てる過程もあるし、それが一番おいしいときかな。野菜の味って、自分がつくるときの苦労や大変さで、結構食べたときのおいしさが変わる。つくるのが難しいのは出来るとおいしく思えるし、1年目失敗したけど2年目ちゃんと収穫できたときなんかはとにかくおいしさを実感できるね。
湊 ぼくも自分で野菜を育てているので、よくわかります。あと食べ方、料理の仕方でも野菜の味は変わりますし。
宙 そうそう、例えば長野県の佐久の農家へ行ったとき、エゴマ(荏胡麻)を煎ってくれて、それを擂粉木でする、それにものすごい砂糖を入れてさらに醤油をバーッと入れて、混ぜろと言われたの。できたものにインゲンマメを漬けて食べると、確かにおいしいんだ。すごくおいしいんだ。でも、それを家でやってもなんかおいしくない。同じ野菜、料理であっても、作る人で味が変わる、味は人の手によって変わる。ぼくはものより人重視。
湊 ぼくは野菜を選ぶ基準は味。伝統野菜にはまったのも、野菜の味が濃くておいしかったからです。味こそ野菜にとって一番大切な要素だと思います。
宙 料理もするって言っていたけど、伝統野菜を使うとなると郷土料理にもかなり興味があるんじゃあない。じゃあこの本は知っている。(といって書店の窓際にある棚へ移動する)。この聞き書シリーズ、48冊あって、アイヌ料理も載っているんだよね。これ手元に全部あるといいよねえ。
湊 知っています。ぼくも欲しい本です。全部揃えたいです。
宙 ホントいいよねこれ。こういう物語や歴史が好きなんだよね。
湊 こんな本もあります、『幻の料亭・日本橋「百川」-黒船を饗した江戸料理―』小泉武夫・著 。いまは残っていませんが。江戸時代の料理が載っています。僕は人見知りで、あまり地元の人とかに食べ方とか料理方法とかを自分から聞けないので、本はとても役に立ちます。
宙 でもね、地元の人って必ずしも好意的ばかりではなく、なんでそんなこと聞くのみたいなときもあるよ。中身も自己流であったり、年配の人だと方言がすごくて言葉が通じないときもある。だから、地元の人からの情報がベターだけど、ベストというわけではないから、そんなに気にすることはないよ。
湊 そうなんですか。ところで、ここ農文協農芸書センターは、本当に楽しい本屋さんですけれど、宙さんはかなり前から来ていると聞きました。いつから来ているんですか。
宙 小学生のときかな。ここへ小学生がしょっちゅう出入りしていれば目立つよね。そんな縁で、今はないけど、昔出ていた子ども向け農業雑誌「のらのら」の表紙にも出ているんだ。バックナンバーがあるみたいだね。この号だね。そう、湊くんの畑のこと教えて。
湊 今は、家の庭を畑に改良して伝統野菜をつくっています。それまでは家の近所で畑を借りて野菜づくりをしていましたが、自分で育てたいものを育てることができないので、いろんなものを少しずつたくさん育てられる、家の庭の畑にしました。
宙 どんな野菜をつくっているの。
湊 主に伝統野菜です。札幌大球、宮内菜、福地ホワイト六片、仙台白菜、山形青菜、後閑晩成小松菜、天王寺かぶ、温海かぶなどです。あ、エダマメの湯上り娘も作りました。
宙 それは楽しいね。僕も群馬県伊勢崎市に縁があって畑を持っているのだけれど、月に1回程度しか行けないから、イモとかマメだけ。自分で売るタネのものはできるだけ作っていかなくてはと思うけど、下手に畑をふやすと、バイト代もかかるし。社長と言っても、社員も僕一人の零細企業だから(笑)。
湊 鶴頸さんのタネもいくつか利用しています。とにかく発芽率がいいですね。とてもよく発芽しました。だから苗づくりも楽でした。
宙 タネを売るのには指定種苗の生産に関する基準という農水省の 告示で、決められた数値以上の発芽率も必要だし、それを表示しないといけない。実はその辺が大変なんだ。もちろん、仕入先がよいものを出してくれるからいいタネなのだけれども。そろそろ本題のタネの未来について話をしようか。
湊 はい。ぼくは、日本の素晴らしい食文化を残すためにも、その素材となる各地の伝統野菜を残していきたいと……、伝統野菜そのものを知らない人も多いし、それがあることで豊かな食文化があることを伝えていきたいと思っています。
宙 伝統野菜に絶対的な基準や決まりはないし、強いて言えばぼくらが声を大にして言っているだけ、みたいなところもあるけど、ぼくは今あるものがなくなってもらっては困ると思っているんだ。ぼくが扱っている固定種のタネだって、F1種の元になるものも多く、大手の種苗会社は結構持ってはいるはずだ。シードバンクとかでの保存活動もあるけど、原則、研究用とかでしか使えない。しかし、本当の意味で残していくには、一般の流通に乗せて、だれもが使えるようにしていくことが重要だと思っている。
湊 例えば、江戸東京野菜はちゃんと定義づけされていますね。JAのサイトに、定義の説明と種類の解説が載っています。確か50品種ぐらいが登録されていますが、ぼくが食べたのはまだ10品種ぐらいです。
注:江戸東京野菜は、江戸期から始まる東京の野菜文化を継承するとともに、種苗の大半が自給または、近隣の種苗商により確保されていた昭和中期(昭和40年頃)までのいわゆる在来種、または在来の栽培法等に由来する野菜のこと。(JA東京中央会のHPから)
宙 こういう野菜もタネが手に入らないと栽培できないし、こういったタネももっと扱っていければいいのだけれど。ただ、ぼく自身は伝統野菜のブランド化はあまり好きにはなれない。もちろん、商売的にはいい面もあるし、それで残るのであればいいけど、ぼくは、今のままを保っていく、なくさないでいく、という感じでいきたいんだ。守るっていうのはちょっと違和感があってね。ところで、先々どう展開していくの。
湊 今年4月から中学生ですが、今までやってきたこと、このノートにつけられることを同じように続けていきたいです。そして、いろんなところに伝統野菜を探しに行ってみたいです。今、関心があるのが滋賀、身近なところでは西東京でしょうか。
宙 滋賀かあ。その昔、琵琶湖の水運は、山形県酒田の本間家が関わっていて、山形の野菜のタネが滋賀に伝わっているはず。京の玄関口だしね、滋賀は。ショウゴインカブもオウミカブが由来だし、ヒエイザンヤジマカブなんかもそうかな。また、歴史と物語の話になったけど。
湊 でもそういった歴史や物語をもっと知りたいです。そして、ぼくのモチベーションは食べること。食べるのがホント楽しいです。将来、農家になってたくさんの伝統野菜をつくって食べたいと思っています。宙さんは。
宙 野菜は限られたもので、食べるのを目的として栽培されている。それはタネの流通としては大事なものだけど、個人的には、くらしの中で人間って、木の実や野草とかを食べてきているじゃない。そういう食文化というか、そういったものに少し興味があるかな。例えばそういったものが色濃く残っているかもしれない、離島なんか行ってみたいね。
湊 これからも伝統野菜についてもっともっと勉強をして、いろんなところに行ってみたいと思います。
宙 タネの流通は会社の仕事でもあるから、さらにいろんなおもしろいタネを手に入れて、広めていかなくてはと思っているよ。伝統野菜をもっともっと盛り上げて、タネを売っていかなくては(笑)。湊君には新しいタイプの農家になってほしいねえ。そんな農家がふえれば、タネの未来は明るいかな。そう、ひとつだけ、いろんな活動をするのにまだまだ一人では難しいところもあるから、親とは今まで以上に仲よくしておくのは必須かな(笑)。
湊 はい。がんばります。
若い二人が、リラックスした中、本音で話をしてくれました。伝統野菜というキーワードでつながった二人、タネの流通を確立していきたい宙さんと、伝統野菜を広めていきたい湊さん、今、種苗法の改正で大人の世界はいろいろと揺れていますが、二人の話を聞いて、タネの未来に大きな期待が持てると感じました。みなさんも、今年は伝統野菜を食べたり、タネをまいて育てたりしてみませんか。
鶴頸種苗流通プロモーション
https://kakukei-seeds.amebaownd.com/
小林 宙(こばやし そら)
2002 年東京都生まれ。東京学芸大学附属高校2 年。2018 年 2 月に 伝統野菜のタネを販売する鶴頸種苗流通プロモーションをおこす。 2019 年9 月に『タネの未来』を家の光協会から出版。
緒方 湊(おがた みなと)
2008年3月生まれ。いばらき大使。8歳で「野菜ソムリエ」、10歳で一段階上の「野菜ソムリエプロ」に合格し、最年少記録を大幅に更新。
取材協力
農文協直営・農業書専門店 農業書センター
http://www.ruralnet.or.jp/avcenter/
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