英国式石積み=Dry Stone Walling(ドライ・ストーン・ウォーリング)という言葉、聞いたことありませんか? 今、造園や園芸業界で注目されているイギリスの伝統的な石積みです。
2018年、イギリスで資格制度ができて50年を記念して、資格を持つプロによる今回限りの技能大会が開催されました。題して「50th Anniversary National Walling Competition in Great Britain」。日本からは、この道の草分けでもあり第一人者の神谷輝紀さんと、神谷造園の鷲見典伸さんが参加しました。結果は、ペアで参加のコンペでは総合2位、そしてレベル別では神谷さんが最優秀外国人賞、鷲見さんが最優秀賞と、すばらしい成績を収めました。
では英国式石積みとはどんなものでしょう。東京ドームで毎年開催されているテーブルウェア・フェスティバル2017で、メインガーデンに丸い窓の空いた石積みの列が展示されていたのを覚えている方もおられるでしょう。六本木けやき坂通りの花壇や全国都市緑化よこはまフェアでの日本大通りの花飾りなど、各地で活躍するガーデンデザイナー竹谷仁志さんと組んで神谷さんがつくった作品です。
コッツウォルズストーンと言われるハニーカラー(蜂蜜色)の石を、機械類はいっさい使わずに、ハンマーや石ノミで調整、モルタルなどの接着剤もいっさい使わずに、神谷さんの工房で手積みしたものを、トラックで東京までは移送してきたものです。仕上げは現地で行いましたが、移送中も崩れることなくその強度もお墨付きです。
さて、今回のコンペはどんなものだったのでしょう。
「長く続いた石積みが設置されていて、多くが崩れていたりと、修復の必要な状態になっています。自分たちに割り当てられたエリアを、7時間の制限時間内に修復する、あらためてきれいに積みなおすというコンペでした。過酷なコンペでしたが、積みなおし方、出来栄え、作業スピードなど多くの部分で高い評価を受け受賞に至りました。二人とも翌日は体中が痛くて大変でしたが(笑)。この伝統技法の本場で高い評価をいただけたのは本当にうれしかったですね」
神谷さんは元々造園を学んできた訳ではなく、大学を卒業して大手自動車会社の系列企業でサラリーマンをしていたそうです。たまたま結婚相手の奥様の実家が造園業であったこと、身近で手伝っていたりするうちにその魅力にはまっていったこと、そしてこれを生業とするため、27歳のときにサラリーマンを辞めて造園の道に入りました。しかし、脱サラ造園家ですから、今までのしがらみや伝統にしばられない自由な発想や考え方を持っていました。そして英国式石積みをやる人間と出会い、庭と石の親和性は日本庭園にだってある、洋風なくらしが定着して、さらに庭も洋風化が進む今、造園でも英国式石積みを取り入れる機会がある、いや積極的に取り入れていきたい、そう思ってイギリスへ学びに行ったそうです。神谷さんは言います。
「この石積み、やれば誰だってやれないことはありません、しかし、構造物ですから強度や安全の担保は必須です。そして見栄えもよくなければなりません。イギリスで資格制度があるのは、全土にある昔からの石積み構造物のうち、しっかりと残っているのは3割程度、残りは崩れたり傾いたりと危険性があり、修復が必要なものばかりなのです。そしてそれを修復していくとき、しっかりとした技法を持った人間がその仕事に従事しなければ、後世に残す修復は不可能なのが現実です。ならばそれができる人間にちゃんとした資格を与えて、修復に従事できる人間としてしっかりと育てていくことが必要だとして50年前(1968年)、英国伝統石積協会が発足したと聞きました」
設計図もなく、機械もいっさい使わない。ではプロの技とはどういうものか聞きました。
「私の場合は、まず、用いる石をすべて立てて並べて、厚みを見ていきます。石を積む場合、厚いものから薄いものへと積んでいくのが約束事の一つですから。どの石とどの石を組み合わせるのかも、並べた石を全体的に見てだいたい把握できます。積むときはミリ単位で合わせていくのですが、どの石とどの石を選ぶか、そこは感性としか言いようがないですね。理屈での説明は難しいです。組み上げ時間は技量によって変わります。私を含めて熟練した職人なら、1平米あたり1日かからずに組み上げます。もちろん、出来上がりの美しさは当然です。積み間違いややり直しなどはまずありません」
「石積みに使う石ですが、みなさんがよく見るハニーカラーの石は、イギリスのコッツウォルズストーンです。この石は常に輸入されていて、日本での供給にも問題はありません。私はその中でも固く焼いたもの、寒冷地でも強度が十分なものを使っています。もちろん、どんな石でもできないことはありません」
この石積みにあこがれて、今、多くの造園やガーデンに関わる人が石積みの技法の習得に励んでいます。では、どうすればこの技法を学べるのでしょうか。
「2011年、私の日本での実績を認めてくれて、英国伝統石積協会日本支部を設立しました。そこで、資格習得のためのトレーニングを行っています。今現在は、最終試験は英国へ行って資格習得をしていますが、すでに日本でのトレーニングと試験だけで資格習得もできる準備は整っています。ただ、やはり本場の石積みを見たり、知ったり、本場の技術に触れたりすることも必要なので、あえて最終試験は英国で行っています。日本支部には資格保持者が、2018年6月現在34人います。手で石を扱うので、かなり重労働ではありますが女性も2人いますよ。とにかく、強度や安全性が第一の構造物ですから、資格を持ったものに任せていただくと、見栄えも含めてよいものを作れます。私たちにお任せいただくことをお勧めしています」
石積みでフラワーボックスなどを作ることもでき、水はけがよい、空気の流れがよいなど植物の生育にもその作りが生かされています。機械を使わず、モルタルなどの接着剤も使わないので、植物や自然との親和性も抜群です。しかし、プロに頼めば思ったほど大変なものでもなく、多くの場面で取り入れられるのが英国式石積みだと神谷さんはいいます。
「今後、英国式石積みがもっといろんなところで気軽にみられるように、この技法で作る石積みを普及させるために、自分のことをストーンアーティストと名乗って頑張っています。この石積みを始めたことで、たくさん心配をかけてきた造園の師匠でもある天国の義父(2年前に他界)も、この受賞で少しは安心して喜んでくれていると思います」
今後も英国式石積みに注目です。
英国式石積み協会日本支部
TEL 0564 45 6864
e-mail : infodswa@oh-shu.com
神谷造園(神谷輝紀)
愛知県豊田市駒場町東埜中85番地
0565-57-2291
kamiteru@hm.aitai.ne.jp
(写真・文 by Deru)
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