イギリス便り(9月)ペネロペ・ホブハウスを訪ねて。ティンティンハルinサマーセット
今回は、20世紀を代表するガーデンデザイナーのペネロペ・ホブハウスの庭を紹介します。
以前はツゲなどの低木の玉仕立てがハウスに向かって両脇に植えられ、フォーマルガーデンでした。今回は改修され、この様な状態に。今後の変化が気になります。
ペネロペ ・ホブハウスとは
ペネロペ・ホブハウス(Penelope Hobhouse / 1929年~)は、20世紀を代表するガーデンデザイナーです。ヨーロッパの旅を重ね、デザインのスタイルを築いてきました。色づかや植栽についての著書もたくさん出しています。またテレビのプレゼンターとしても活躍しました。ペネロペ・ホブハウスがデザインした庭は、アメリカ、ヨーロッパに数多く点在しています。
ペネロペ・ホブハウスは「骨格や仕切りを大切にする事はガーデナーとしての心得である」と表現し、そのテイストにはモダンなデザインが見られます。サマーセットにある、ハドスペンハウスでの仕事を皮切りに、その後、ナショナルトラスト(歴史的建築物の保護を目的として英国において設立された団体)の一つ、ティンティンハルを担当しました。
ティンティンハルについて
20世紀初頭、フィリス・レイスにより庭の改修が進められました。コッツウォルズにあるヒドコートマナーに見られる、アーツ・アンド・クラフツ・スタイルがモデルになっています。その影響を受け、庭のつくりはいくつかの仕切りで形成されています。その一つのスペースにはプールがつくられました。それは、第二次世界大戦中にマルタで命を落としたフィリス・レイスの甥への追悼の想いを形にしたと言われています。そして、フィリス・レイスの植栽に注いだその想いは、後にペネロペ・ホブハウスが担当、現在は別のヘッドガーデナーに受け継がれています。プールのある庭に設置されたベンチには、その植栽リストが置かれており、一つひとつ見ることができます。
ティンティンハルの庭風景
庭のデザインと改修
庭がデザインされるとき、改修されるときは、必ずそこには理由があります。その理由を紐解き、庭への理解を深めることは、絵画を楽しむことと少し似ているかもしれません。ただ、絵画は一度描かれた後に形を変えることはほとんどありませんが、庭は違います。オーナーの生活環境、社会的背景、トレンド、また自然環境の変化など、さまざまな要因で変化します。
私はここ数年、特にガートルード・ジーキルがデザインした庭を訪ね、庭に関わるものとして、自身で実際に見て勉強してきました。イングリッシュ・コテージガーデンの生みの親と言われるガートルード・ジーキルの庭を、その作庭の課程を学びながら理解を深めることは、新たな庭への理解の道を切り開くきっかけとなりました。
今回は、ペネロペ・ホブハウスの庭を見てきました。一歩庭空間に足を踏み入れた瞬間に感じた、二人のデザイナーのスタイルの違いは今でも忘れません。どちらのガーデンも同じサマーセットに位置し、距離は車で30分ほどです。サマーセットを訪れる機会がありましたら、ぜひ二人がデザインしたそれぞれの庭を訪ねてみると、これまでにない庭づくりの楽しさが広がることと思います。
佐藤麻貴子 Profile
ガーデンデザイナー、ガーデナー
東京の老舗ホテルを退社後、英国で園芸学・ガーデンデザインを学ぶ。英国 チェルシーフラワーショーや長崎ハウステンボス ガーデニングワールドカップでは数々の金賞を受賞しているガーデンデザイナーのコーディネーターを務める。
2011年 makiko design studio を設立。ハンプトンコートフラワーショー2012 に「日本の復興―希望の庭」を初出展。準金賞を受賞。イギリス独特の植栽と、日本庭園を組み込んだ独自のスタイルが文化を越えて好評を博す。
チェルシーフラワーショー100 周年(2013年)では、RHS(英国王立園芸協会) のショー運営本部にて本部長のアシスタントを務め、また、イギリスにあるグレートディクスターでは、現在もガーデナーとして研鑽を重ねるなど、国内外で活動中。
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