ハーブ王子の エジプト植物紀行2019
2019年1月4日、胸を躍らせながら機上の人となり、成田からエジプトへと向かった。もちろん初めてのエジプトだ。フライトは16時間、エジプトの玄関口カイロ郊外のアスワン空港に着いた。そして、さっそく空港から植物の旅がはじまった。
アスワン空港の植物
アスワン空港に到着し、荷物到着が遅れていることがわかり、心の中で思わずよっしゃ〜、と叫んだ。機内で長時間過ごし足はパンパン、映画にも見飽き、暗い機内の中では満足に本を読む事も出来なかった。外に出ると新たな出会いがこのアスワンの地でたくさん待ち構えていると妄想すると、手のひらは汗をかき、心臓がゾワゾワ、ワサワサ騒ぐ。空港内をバスで移動している間、窓から見える人工芝の隙間に生える植物がどうしても気になっていた。だから、荷物が遅れたこの待ち時間は僕にとってサプライズのようものだった。
コシナガワハギ
外に出て、空き地を歩いてみるといくつもの植物が目に飛び込んでくる。黄色い蝶花をつけ葉をやさしく揉むと桜餅のような香りがするシナガワハギだ。しかし、僕が2年前に淀川で観察したシナガワハギとは少し違う。花があきらかに小ぶりで背格好も小さい。これは近縁のコシナガワハギだろう。コシナガワハギ(Melilotus indicus)はマメ科シナガワハギ属の一年草で、ヨーロッパ地中海沿岸原産である、日本でも帰化が確認されているみたいだ。このシナガワという和名は、1940年に品川ではじめて発見されたことに由来している、最近ではスイートクローバーとして、ハーブとしても親しまれている。
コメツブウマゴヤシ
このコシナガワハギのすぐとなりには、黄色い蝶花が集合したぼんぼり状の花が咲くマメ科植物も生えている、こちらは東京でもよくお世話になるコメツブウマゴヤシだ。コメツブウマゴヤシ(Medicago lupulina)はマメ科ウマゴヤシ属の一年草または多年草で、海沿いや空き地なんかでもよく見かける野草だ。原産はヨーロッパで、日本へは江戸時代に渡来したとされている。
セイヨウヒルガオ
さらに気になったのは、淡いピンクでヒルガオ科特有のロート型の花を咲かせるセイヨウヒルガオ(Convolvulus arvensis)だ。これは日本で下調べしている時にエジプトで見たい植物の一つだった、日本で見るヒルガオ、コヒルガオ、アイノコヒルガオに比べて葉が丸く、そして花の色味が強く感じる。このあまりの美しさに腰を下ろして眺めてしまう。それもそのはず、このセイヨウヒルガオは観賞用としてヨーロッパから日本に導入され、現在では空き地などで野生化しているのだ。
その他にもヨーロッパ原産のオオバコ科オオバコ属のヘラオオバコ(Plantago lanceolata)や南米原産のキク科タカサゴトキンソウ属のメリケントキンソウ(Soliva sessilis)、春になると日本でもよく見かけるヤハズエンドウ(Vicia sativa subsp. Nigra)によく似た植物も生えていた。思っていた以上に日本と共通した植物との出会いの数々に驚いた。
スークを楽しむ
ツアー初日、アスワンでの夜はスークに皆で出かける予定だったのだが、それも今回の目的であり、楽しみの一つだった。
アスワンのスークはエジプトおよびアフリカの産品を販売する色鮮やかな市場(バザール)の事だ。地元ではシャリア・アス・スークとして知られ、ナイル川から4ブロック離れ、川と平行に約7ブロック続くこのバザールでは、エジプトとアフリカ製品が豊富に取り揃えられ、アスワンで最も安く土産物を買うことができる。商人たちは、香水、ピーナッツ類、粉末ヘナ、乾燥ハイビスカスの花、スパイス、Tシャツやカスタムメイドの古代エジプト風の土産品などの商品を幅広く販売しており、路地裏では、スカルキャップやお守り、バスケット、スーダンの剣、スパイスやカーペット、ワニなどの動物のぬいぐるみなど、ヌビアの工芸品を販売する店なんかもあったりする。
このスークでは、事前に調べていた幻の樹脂(ミルラ)を購入することが一つの目的でもあった。ミルラCommiphora abyssinicaとはカンラン科コンミフォラ属の樹木で、エジプトハーブの歴史において最も重要ものといってもよいだろう。日本では没薬と言われる。ミルラは強い殺菌作用を持つことが知られており、鎮静薬、鎮痛薬としても古代エジプト時代から使用されてきた、またミイラ作りの時、に遺体の防腐処理のために使用されており、ミイラの語源はミルラから来ているという説があるくらいだ。
スークの入り口に立った瞬間から独特の雰囲気に包み込まれる、日本人はおろか、観光旅行者にも誰一人としてすれ違う事はなかった。エジプトの民族衣装ガラベーヤを着たスークの商人がぞろぞろ歩いている、なんだか見慣れない光景に胸がドキドキするが、両脇を見てみると色とりどりなスパイスやハーブなどがずらりと並ぶ。
一つ一つ手にとってみると、日本でもよく見るものが半分くらいある、ローゼル、現地ではカルカデと呼び、砂糖をたっぷり入れて冷やして飲むカルカデジュースが人気だとか。それからコショウ、ローリエ、レモングラス、ラベンダーなんかもあった、しかし見慣れないものも多い。黒くゴツい饅頭のようなものもある、気になりお店の人に聞いてみるとタマリンドと教えてくれた、調べてみるとマメ科タマリンド属の常緑高木で、この種子を団子状にしたもののようだ。タマリンドの果肉には酒石酸とクエン酸による強い酸味があり、水に浸して、ペーストのようになったものを調理に用いるという。その隣も見た事がないドライハーブだ、名前を聞いてみるとマリアハンドと教えてくれた、調べてみるとアブラナ科アンザンジュ属エリコノバラ(エリコの薔薇)とのこと。食用というより縁起物なのだそうだ。別名を安産樹といい、妊婦がこの木の乾燥した葉を水に浸し、葉が開くと安産するという言い伝えが現地ではあるみたいだ。
見ればみるほどワクワクするようなものがたくさんある。いろいろなスパイスやハーブを物色しているうちに、宝石のように輝く樹脂ようなものを発見した。お店の人に聞いてみると、これが俗に言うミルラの事だよと教えてくれた、現地で見るミルラはとても大きくそしてゴツイ。値段も日本で買うよりもかなり激安で、ついつい大人買いしてしまった。
スークでハーブを楽しむ
初日からこんな出会いがたくさんあるなんて桁外れにぶっ飛んでいる、さすがエジプトだ。ハーブや薬草の歴史は、実はエジプトからスタートし、ヨーロッパ各地に流通していったと思うだけで、いろいろなビジョンが見えてくる。この野草をはじめとするエジプトの旅はまだまだ始まったばかりだった。(続く)
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