時空を超えた花――古代蓮
夏、ハスの季節ですね。各地から花の便りが届きます。仏教と関わりの深いハス、大仏様や仏様が座る台、蓮台はハスの花を模った台座です。ハスは、泥沼の中から、この世のものとは思えないくらいの美しい花を咲かせて、実を結びます。また、葉も水を弾く性質があることから、泥=迷いの中から、花と実=悟りを結ぶという、生態と仏の教えが合致して、ハスが仏の花になったのでしょう。見ていても、素直にそう思えます。
さらに、ハスの花や実を見てあなたは何を感じますか。私は「永遠の時」を感じます。実際、大賀蓮のように、約2000年前の種子が発芽して、今に生きています。そして、その時空を超えたハスを堪能できる場所が、埼玉県行田市にあります。「古代蓮の里」公園です。近隣にはさきたま古墳群もあり、まさに関東屈指の古代エリアなのです。
ここで見られる古代蓮の仲間は3種。原始蓮と大賀蓮、そしてここでの主役、行田蓮です。いずれも紅色一重の花で、花弁数では原始蓮が多く、同じような花弁数の大賀蓮と行田蓮との違いは微妙だそうです。大賀蓮は千葉県の検見川で見つかっていますから、地域差なのかもしれません。
行田蓮(古代蓮)は、「古代蓮の里」近くの公共施設工事の際、掘削池でハスが自然開花したものです。タネのあった地層の測定から、約1400~3000年前のものと推定され、行田蓮(古代蓮)と呼ばれるようになったそうです。その後、公園整備が進み、「古代蓮の里」として1995年に開園しました。ハスに関する資料の解説がある古代蓮会館には50メートルタワーがあり、たんぼアートや関東平野の眺めを楽しめます。
公園内には古代ハス池や水生植物園、水鳥の池とハスが咲く池が複数あり、それぞれでハスの花を楽しめます。開花のピークとなる7月半ば前後は、まさに花の中にいると極楽浄土の佇まいを感じることができるかもしれません。ただ、極楽浄土を知らないので、気がするレベルですが 笑。
ハスが咲くとき音がする、は俗説
ハスの開花期間中には、説明係の地元の方々がおられてハスについて詳しく説明をしてくれます。その中から話を三つ。いずれも知っているようで知らない人も多いのではないでしょうか。
一つは、ハスは咲く際にポンという音がする、という俗説です。ここの関係者の方々も音がなるのかどうか、早朝の開花前から聞き耳を立てて確認したそうですが、未だに誰一人聞いた人はいないそうです。やはり俗説だろう、と話していました。
二つ目は、ハスのタネは相当に硬いそうです。もしかしてその硬さが千年以上もの時を経ても発芽する要素なのかもしれません。ここでの古代蓮の復活も、工事の際に偶然に種子に傷がつき、深い眠りからの覚醒、そして発芽に繋がったのではないか、と言われています。
三つ目は、ハスは香る。開花直前・直後のハスはほのかに香ります。花弁が開いてしまうと香りは飛んでしまい感じられなくなるそうです。お香などでもハスの香りのものがあり、極楽浄土の香りがするのかもしれません。もちろん、嗅いだことがないのでわかりませんが(笑)
ところで、俳人正岡子規は、かなりハスが好きなようで、蓮の語を入れた句を生涯に100あまり詠んでいます。その中に「蓮開く 音聞く人か 朝まだき」「白蓮の 香にむせかへる 小庭哉」と、音と香りにちなんだ句もあります。果たして正岡子規は花開く音を本当に聞いたのでしょうか? 香りもむせかへるほど香ったのでしょうか? 実際はどうであれ、蓮には子規にもそう思わせる何かがあったのでしょう。
世界の花蓮
「世界の花蓮」コーナーには約40種のハスが咲きます。古代蓮の姿とはまた違った花も多く、ハスの多様性を知ることができます。園内の池のハスも含めて、早朝7時前後に開花し、午前9時ごろまでが見ごろになります。昼ごろにはしぼんでしまうので、花をたくさん、そしてきれいな姿で観るためには早起きが欠かせません。
夏に楽しめるハス。古代蓮の里では、2年もの苗が売っています。来年、つまり3年目で花が見られるそうです。家庭で育てるポイントは、とにかく日当たりのよい場所(池)に植えるか、容器栽培(甕など)を置きます。そして、池も容器栽培でもとにかく水を切らさないことがポイントです。自宅で夏の朝、ハスの花を愛でることができたら、だれもが一句読んでみたくなるかもしれませんね。
写真・文 出澤清明
園芸誌の元編集長。現在、園芸普及家として、各所に取材に出かけながら、さまざまな花と緑の楽しさを発信している
古代蓮の里
https://www.ikiiki-zaidan.or.jp/kodaihasu/
開花状況やアクセスは上記サイトへ